サイトケラチン研究とCoraLite®(コ―ラライト)標識抗体

サイトケラチン研究に使用できるCoraLite®(コーラライト)標識抗体の紹介と共に、サイトケラチンタンパク質の種類およびその発現が関連する腫瘍について解説します。


サイトケラチンとは?

サイトケラチン(Cytokeratin)は、上皮細胞(epithelial cell)の「中間径フィラメント」を形成するケラチン(keratin)タンパク質のグループです。中間径フィラメントは「細胞骨格」の種類の1つであり、細胞に構造強度を与えるフィラメント構造を形成し、力学的負荷に対する細胞の抵抗性を支持します。上皮細胞は、臓器の最も外側の表面を覆う細胞であり、サイトケラチンは上皮細胞の細胞骨格を構成しています。特定のケラチン構造は、毛髪、爪、皮膚等の組織を形成するとともに、臓器や腺の層を保護します。ヒトでは、20種類の異なるサイトケラチン(Cytokeratin 1/CK1~ Cytokeratin 20/CK20)が、臓器または組織特異的に発現しています。正常時とは異なる場所においてサイトケラチンの異常な発現が認められる場合は種々のがんが疑われ、サイトケラチンはがんの診断や研究のためのマーカー・識別子として利用されます。

 

サイトケラチンの種類

サイトケラチンは「酸性ケラチン(酸性サイトケラチン、TypeⅠケラチン、Ⅰ型ケラチン:CK9~CK20)」と「塩基性ケラチン(塩基性サイトケラチン、TypeⅡケラチン、Ⅱ型ケラチン:CK1~CK8)」の2種類に分類されます。さらに「高分子ケラチン(HMWCK)」と「低分子ケラチン(LMWCK)」に分類されます。細胞骨格の構造を形成するケラチンフィラメントは、分子量が同程度の塩基性サイトケラチンと酸性サイトケラチンからなる非共有結合性のヘテロポリマーです。様々なサイトケラチンの発現は、臓器、組織、発生時期等によって異なるため、特定の種類の上皮細胞を早期に同定するために利用されます。そのため、サイトケラチンの発現を調べることで、上皮性悪性腫瘍とその他の種類のがんの区別が可能になります。サイトケラチンの解析は、がんの特性解析や診断に幅広く用いられています。

 

サイトケラチンと疾病

複数のサイトケラチンが、様々な上皮性悪性腫瘍で異常に発現していることが認められていることから、サイトケラチンはがんの診断における腫瘍マーカーの一種として使用されています(1、2)。様々ながんに関連するサイトケラチンのサブタイプを表1に示しました。

表1. ヒトがんにおいて発現するサイトケラチン(1)

病変部位

関連サイトケラチン

検出用抗体

カタログ番号

皮膚

CK1、4-6、8、10、13-19

サイトケラチン5

CL488-28506

CK7-8、18-19

サイトケラチン18

CL488-10830

乳房

CK5-8、14、17-19

サイトケラチン19

CL488-14965

CK7-8、18-20

サイトケラチン7

CL488-15539

肝臓

CK7-8、18-20

サイトケラチン19

CL555-14965

胆管

CK7-8、18-20

サイトケラチン20

CL488-60183

膵臓

CK5、7-8、18-20

サイトケラチン17

CL488-17516

腎臓

CK7-8、18-19

サイトケラチン19

CL488-60187

CK7-8、18-20

サイトケラチン20

CL594-60183

子宮

CK5、7-8、18-19

サイトケラチン5

CL-555-28506

卵巣

CK7-8、18-19

サイトケラチン7

CL555-15539

子宮頚部

CK4-8、10、13-19

サイトケラチン13

CL488-10164

前立腺

CK8、18-19

サイトケラチン18

CL594-10830

サイトケラチン7(CK7:Cytokeratin 7)

CK7陽性プロファイルは、多くの場合、原発性卵巣腫瘍、子宮頚管腫瘍、上部消化管腫瘍等で観察され(3)、また大半の悪性中皮腫がCK7陽性を示します(4)。CK7は転移性がんの原発部位を特定するために用いられる一般的なマーカーです。CK7は、肺、乳房、甲状腺、卵巣、唾液腺、尿路上皮領域に発生する癌腫においても発現します(12)。

CoraLite® Plus 488標識CK7抗体を使用したヒト乳がん組織の免疫蛍光染色   CoraLite®555標識CK7抗体を使用したヒト乳がん組織の免疫蛍光染色

ヒト乳がん組織の免疫蛍光染色(IF:Immunofluorescence)画像
左:CoraLite® Plus 488標識CK7ポリクローナル抗体(カタログ番号:CL488-15539)を使用。
右:CoraLite®555標識CK7ポリクローナル抗体(カタログ番号:CL555-15539)を使用。

 

 

サイトケラチン17(CK17:Cytokeratin 17)

乳がんの転帰不良は、CK17やCK5/6の発現との関連が認められていることから(5)、CK17は乳がんのマーカーとみなされています。また近年、膵臓がんにおいてCK17が高発現していることが明らかになりました(6)。CK17発現の亢進は、病理学的ステージの進行や予後不良に関連することが報告されています(6)。一方で、CK17の発現の増加によって膵臓がん細胞の遊走と浸潤が抑制されるという実験結果から、CK17は腫瘍抑制因子として機能する可能性が示唆されています(6)。

 

 CoraLite® Plus 488標識CK17抗体を使用した-20度エタノール固定HeLa細胞の免疫蛍光染色   CoraLite®555標識CK17抗体を使用した免疫蛍光染色  

免疫蛍光染色画像
左:CoraLite® Plus 488標識CK17ポリクローナル抗体(カタログ番号:CL488-17516)を使用。
右:CoraLite®555標識CK17ポリクローナル抗体(カタログ番号:CL555-17516)を使用。

 

 

サイトケラチン18(CK18:Cytokeratin 18)

食道扁平上皮癌、腎細胞がん、口腔がん、肺がんの患者では、CK18の発現量が上昇することが過去に報告されています(2)。一方、乳房、腸、上咽頭の悪性腫瘍に関しては、CK18の発現低下と予後不良の関係が報告されています。リン酸化、アセチル化、O-GlcNAc(O‐結合型β‐N‐アセチルグルコサミン付加)等の翻訳後修飾の変化は、CK18フィラメントの安定性、可溶性、フィラメント編成に影響を及ぼします。したがって、このような翻訳後修飾の変化により、癌形成時の細胞機能やサイトケラチンの役割が変化する可能性が示唆されています(2)。

 CoraLite® Plus 488標識CK18抗体を使用した免疫蛍光染色   CoraLite®594標識CK18抗体を使用した-20度エタノール固定HepG2細胞の免疫蛍光染色  

免疫蛍光染色画像
左:CoraLite® Plus 488標識CK18ポリクローナル抗体(カタログ番号:CL488-10830)を使用。
右:CoraLite®594標識CK18ポリクローナル抗体(カタログ番号:CL594-10830)を使用。

 

 

サイトケラチン20(CK20:Cytokeratin 20)

CK20は浸潤型大腸腺癌のマーカーであり、CK20陽性は腫瘍の侵襲性や予後不良と関連しています(8)。また、CK20はメルケル細胞癌(Merkel cell carcinoma)とその他の悪性腫瘍や良性腫瘍を識別する特異的なマーカーとして報告されています(9)。CK7発現を伴うCK20の過剰発現は、膵臓癌の発症や病変を示唆している可能性があります(10)。

CoraLite® Plus 488標識CK20抗体を使用した-20度エタノール固定HT-29細胞の免疫蛍光染色   CoraLite®594標識抗体を使用した-20度エタノール固定HT-29細胞の免疫蛍光染色

免疫蛍光染色画像
左:CoraLite® Plus 488標識CK20モノクローナル抗体(カタログ番号:CL488-60183)を使用。
右:CoraLite®594標識CK20モノクローナル抗体(カタログ番号:CL594-60183)を使用。

 

 

サイトケラチンの各種検出手法

サイトケラチン(CK)やサイトケラチン19フラグメント(CYFRA)の検出は、癌の診断や腫瘍の進行を特定する際に極めて重要となります。CYFRAは可溶性のサイトケラチンフラグメントであり、固相サンドイッチラジオイムノアッセイや電気化学発光イムノアッセイによって測定することができます(11)。任意のサイトケラチン濃度は、ELISAキット(酵素免疫測定法キット)を使用して、患者血清または患者血漿から検出・測定します。ただし、臓器/組織中の腫瘍の進行を調べる場合は、免疫蛍光染色(IF:Immunofluorescence)や免疫組織化学(IHC:Immunohistochemistry)のような可視化手法を使用して、組織の腫瘍の進行の程度を評価します。培養細胞や生検組織のサイトケラチンを検出するには、そのサイトケラチンに特異的な抗体で直接または間接的に検出します。直接的に検出する場合は、検出するためのシグナルを生成する標識物質が直接結合した一次抗体を使用します。間接的に検出する場合は、目的サイトケラチンを認識する一次抗体に加えて、標識された二次抗体を使用します。二次抗体を用いると、より特異的かつ選択的な目的タンパク質のシグナルを得ることができます。

プロテインテックの関連アプリケーション
ELISAキット
免疫蛍光染色(IF)
免疫組織化学(IHC)

がんの診断や、腫瘍の変化や進行の特定には、IHCが用いられます。IHCでは、酵素または蛍光色素に結合した抗体を使用する必要があります。対象となるターゲットに抗体が結合し、酵素反応または蛍光色素によって得られる発色シグナルや蛍光シグナルを顕微鏡で観察します。その際、細胞骨格やサイトケラチンの配置等、観察対象の詳細な構造データに関して同時に情報を得たい場合は、免疫蛍光染色による多重染色法が観察・診断技術として適しています。

免疫蛍光染色に用いられる抗体は、様々な蛍光色素に結合しており、蛍光顕微鏡下でそれぞれ異なる励起波長を使用して可視化することができます。プロテインテック独自の蛍光色素であるCoraLite®(コーラライト)(CL488、555、594、647)は、免疫蛍光染色に用いられる蛍光色素です。CoraLite®標識抗体は、一般的に広く用いられているAlexa Fluor®と同等の輝度を示すと同時に、その蛍光が長時間持続します。CoraLite®標識抗体は、蛍光色素同士の蛍光スペクトルの重複領域が少ないため、マルチプレックス染色(多重染色)で複数のターゲットを同時に観察する研究に使用することができます。さらに、CoraLite®標識抗体は二次抗体を使用せずに、細胞や組織を直接的かつ簡便トに可視化することができます。

プロテインテックは、様々な蛍光色素を標識したCoraLite®標識抗体を幅広く取り揃えています。CoraLite®標識抗体は、他のCoraLite®色素や核染色/DAPI等で一般的に用いられる色素を共に使用する、マルチプレックス染色やその他アプリケーションに使用することができます。

 

参考文献

  1. Karantza V. Keratins in health and cancer: more than mere epithelial cell markers. Oncogene. 2011;30(2):127-38.
  2. Weng YR, Cui Y, Fang JY. Biological Functions of Cytokeratin 18 in Cancer. Molecular Cancer Research. 2012;10(4):485-93.
  3. Vang R, et al. Cytokeratins 7 and 20 in primary and secondary mucinous tumors of the ovary: Analysis of coordinate immunohistochemical expression profiles and staining distribution in 179 cases. American Journal of Surgical Pathology. 2006;30(9):1130-9.
  4. Chu PG, Wu E, Weiss LM. Cytokeratin 7 and cytokeratin 20 expression in epithelial neoplasms: A survey of 435 cases. Modern Pathology. 2000;13(9):962-72.
  5. van de Rijn M et al. Expression of cytokeratins 17 and 5 identifies a group of breast carcinomas with poor clinical outcome. American Journal of Pathology. 2002;161(6):1991-6.
  6. Zeng Y et al. Keratin 17 Suppresses Cell Proliferation and Epithelial-Mesenchymal Transition in Pancreatic Cancer. Frontiers in Medicine. 2020;7.
  7. Sjöström J, Alfthan H, Joensuu H, Stenman UH, Lundin J, Blomqvist C. Serum tumour markers CA 15-3, TPA, TPS, hCG beta and TATI in the monitoring of chemotherapy response in metastatic breast cancer. Scandinavian Journal of Clinical & Laboratory Investigation. 2001;61(6):431-41.
  8. Imai Y et al. Expression of Cytokeratin 20 Indicates Invasive Histological Phenotype in Poorly Differentiated Colorectal Adenocarcinoma. Anticancer Research. 2014;34(1A):159-67.
  9. Scott MP, Helm KF. Cytokeratin 20: A marker for diagnosing Merkel cell carcinoma. American Journal of Dermatopathology. 1999;21(1):16-20.
  10. Matros E et al. Cytokeratin 20 expression identifies a subtype of pancreatic adenocarcinoma with decreased overall survival. Cancer. 2006;106(3):693-702.
  11. Morita T, Kikuchi T, Hashimoto S, Kobayashi Y, Tokue A. Cytokeratin-19 fragment (CYFRA 21-1) in bladder cancer. European Urology. 1997;32(2):237-44.
  12. Maniar KP, Umphress B. Stains & CD markers, Cytokeratin 7 (CK7, K7). Pathology outlines (2020). https://www.pathologyoutlines.com/topic/stainsck7.html