優れた抄録/アブストラクトの書き方

抄録/アブストラクト(Abstract)とは、研究プロジェクトの重要な事実をまとめた文章です。


抄録作成の技術の習得は、特定の分野における自身の研究の知名度を上げ、キャリアの前途を確実なものとするためにも非常に重要です。アカデミアに身を置く限り、様々なプロジェクトに関する、幅広い読み手を対象とした数多くの抄録を執筆することになるでしょう。抄録は実際に書いてみることでより優れたものになります。抄録を書くことを専門家への足掛かりとみなしましょう。各抄録自体の重要性も見逃さないでください!多くの場合、ジャーナルの編集者や学会の主催者は、何百もの抄録を読まなければならないため、自身の研究に注目してもらうためには、抄録に重要かつ必要な詳細のすべてが、明瞭かつ簡潔に記されていることが極めて重要です。本稿では、研究論文や学会の抄録の書き方を紹介します。

※本稿では、以下の英文記事を日本語訳して掲載しています。
https://www.ptglab.com/news/blog/how-to-write-a-good-scientific-abstract/

なぜ抄録は重要か?

  • 自身の研究を遂行するため
  • 複雑な情報を明瞭かつ簡潔に示すため
  • 詳細な論文情報/報告内容をデータベース検索用の短いフォーマットに要約するため
  • 将来的な論文投稿やグラント申請のために、業績の概要を掲示するため

抄録に求められること:

  • 必要な情報が記されていること(自身の研究の簡潔な概要となっているか)
  • 客観的事実が記されていること(例:研究目的、プロジェクトの目的、採用した解析方法)
  • 批判的であること(重要な成果と実施内容の制限が記されていること)
  • フォーマルな文体で執筆されていること
  • 学会抄録の場合は、150~1000 wordsで執筆されていること(主催学会が定める文字数で執筆すること)

抄録を書いてみる:ステップ・バイ・ステップのプロセス

抄録を執筆する場合、長々とした説明とならないよう、適切な分量の情報を伝えるようにしなければなりません。抄録の順序は重要です。そのため、読者が研究内容の各観点を論理的に追っていけるような順序にしましょう(図1)。手元にあるデータをみて、未解決の問題があるかどうか、常に自問自答することを心掛けてください。

抄録の書式形式(抄録の順序、1緒言・2材料および方法・3結果・4考察)

図1. 抄録の書式形式

抄録には何を書くのか?

1. 緒言(Introduction):「主題は何か?」について、テーマ、目的、研究課題を説明する1~2文の導入文を書きます。研究背景は必要ですが、結果よりも掘り下げないようにしましょう。

2. 材料および方法(Materials and methods):「どのような研究を実施し、どのような結果が得られるのか?」について、1~2文の説明を書きます(ここには使用したデータ解析方法も記載する場合があります)。

3. 結果(Results):「なぜ重要なのか?何を発見したのか?」について、結果/発見を説明する文を1~2文書きます。

4. 考察と今後の展望(Discussion):「研究成果の意義とその影響(あなたが届けたいメッセージは何か?)」について、1~2文で結論(Conclusions)と提案事項を含む文章を書きます。この結論は、自身の研究が研究分野にもたらす貢献となります。

最終ヒント:抄録を執筆したあと、自身の抄録を誰かに読んでもらうと、非常に良いでしょう。出来ることなら、同輩に意見を求めましょう。

覚えておいてください―抄録は、学会の採択過程で重要な役割を果たすだけでなく、自身の将来的な発表業績や投稿業績としても非常に重要です。優れたタイトルと抄録の論文であれば、多くの人が論文全体を読んでくれるでしょう。

優れた抄録のイメージ像(タイトル、抄録、論文本文のオイラー図)

図2. 優れた抄録は、研究の全体像に関心を寄せてもらうために重要です。

印象的な抄録を書くための最重要ヒント

  1. 学会の抄録作成ガイドラインに従います。抄録を執筆する前に、学会の個別のガイドラインを確認しましょう。ガイドラインには、記載事項の区分や字数制限等が記載されています。多くのガイドラインは、詳細を規定しすぎているようにみえるかもしれませんが、自身の成果は全ての規定に基づき審査されるため、些細な規定(例:フォントサイズ、間隔、測定単位)であっても無視することは認められません。

  2. 基本構成、または規定の構成に従います。学会のガイドラインに抄録の構成についての規定が示されていない場合は、一般的な形式に従います(ステップ・バイ・ステップのプロセス:図1参照)。

  3. ガイドラインで規定されている場合を除き、参考文献は記載しません。こうすることで、抄録を字数制限の範囲内に収め、視覚的に読みやすくします。

  4. 学会に出席すると想定される参加者や論文を読むと想定される読者に合わせて抄録を調整します。抄録を執筆する際には、常に読者を意識しなければなりません。つまり、「誰が抄録を読むのか?」、「ターゲットとする読者の専門知識レベルはどのくらいか?」、「抄録に記載される可能性のある固有の専門用語や略語について、読者はどの程度知識があるのか?」といったことを意識します。例えば、政策の問題に焦点を当てた学会において、政策と関連付けずに臨床的問題を強調した抄録を提出した場合、あなたのプロジェクトは採択されないかもしれません。

  5. 専門的に伝えることを心掛け、フォーマルな用語を使用します。完璧な文法・語法で、適切な句読点を使用し、主題に則った内容にすることで、誤解を招かない文章にします。

  6. 簡潔に、キレの良い文章にします。長い文章は、読み手の集中力を削いでしまいます。

  7. 好奇心を掻き立てるよう工夫し、凡庸な表現は避けます。結論は簡潔に述べ、事実を誇張しないようにしましょう。

  8. タイトルを工夫しましょう。何に関する抄録なのか、読者が判断できないタイトルであってはなりません。シンプルでパワフルなタイトルは聴衆に好印象を与え、学会参加者にポスターをすべて読んでみようと思わせることや、あなたが口頭発表するセッションへの参加を後押しする場合があります。タイトルは誰もが最初に読む文章です。極端に長いと、読者を退屈させる場合や、誤解を招くおそれがあります!

  9. 自分の研究がなぜ重要なのかを伝えましょう。自身の研究成果が与えるであろう様々な影響を説明しましょう。そもそもなぜその研究を実施したのですか?

  10. 聴衆に届くメッセージを入れます。ここが、抄録の中で最も重要な部分です。なぜなら、あなたのプロジェクト全体に関して人々が記憶に留める唯一の部分かもしれないからです。


 

著者:Karolina Szczesna博士

プロテインテック社シニアプロダクトマネージャー兼テクニカルサポート