ラボでより環境に配慮するための13のヒント

環境配慮型ラボ―なぜ気にした方が良いのか?

サイエンス系のラボの電力消費量と廃棄物の排出量は、時として信じ難い量になります。平均的なライフサイエンス系ラボでは、同じ程度の規模のオフィススペースの3倍の電力を消費し、1ヵ所の研究施設だけで、一般家庭が1年間で使用する電力と同じくらいの電力を1回の週末で消費すると推定されています(参考記事:https://the-gist.org/2018/10/a-scientists-carbon-footprint/)。

ラボは、環境配慮型の施設とはいいがたい所です。ラボ内を少し歩き回れば、廃棄されたピペットチップやチップラック、不必要に大きな発泡スチロールの配送用ボックス、リサイクルできない容器等の、廃棄しなくても良いであろうプラスチック廃棄物が大量に見つかります。さらに見落としがちなのは、夜間に電源が入ったままの機器(多忙な研究者も一緒にいる場合があります)、特殊フリーザー、無菌換気システム、スタンバイ状態のままのコンピューター等の電力の無駄遣いです。

サイエンス系ラボから排出されるプラスチック廃棄物は、年間550万トンに達し、それはクルーズ船67隻分に相当する量で、その多くは汚染が原因でリサイクル工場では引き受けられないものです(参考記事:https://www.nature.com/articles/528479c)。我々科学者が行動を起こす必要があるのは明らかです。

サステナビリティ(持続可能性)は、私たち全員が一層考慮しなければいけないことですが、科学的プロセス全体で多くのリソースを必要とすると考えられる場合、ラボ環境でサステナビリティに配慮することは到達不可能なタスクのように見えるかもしれません。この問題に取り組むメリットは、それがグローバルな取り組みであるというだけではなく、研究者がラボレベルまたは大学レベルで費用を節約することも可能になるということです(関連サイト:https://www.labconscious.com/)。

疑いもなく、陋習を打破し新たな変化を受け入れるのは大変な作業です。リサイクルについて毎週議論することや、照明の消灯やドラフトのサッシを下げておくよう喚起する注意書きを張ること(あると良いですよね?)等、環境に配慮した行動を習慣付けるように努めてみましょう。

ここでは、Sophie Quick氏(エディンバラ大学)と共に、ラボをもう少し環境にやさしいものにするための簡単なアイデアをご紹介します。small changes BIG IMPACTのイラスト(グリーン、消費エネルギー削減、プラスチックゴミ削減、水を守る)

ラボでもエコに

最初から環境に配慮した選択をすることは、悪影響への対策を実施するよりもおそらく効果的でしょう。例えば、臭化エチジウム等の有害な化学物質は、SYBR-Safe等の同等で変異原性を示さない代替品に置き換えます(参考サイト:https://ehs.mit.edu/site/environmental-stewardship/green-chemistry)。

1. 無駄な発注を削減する

ラボに在庫を置くと、意外に所在を見失いがちになり、ラボ同士で重複してしまうこともあります。スプレッドシートやQuartzyといったシステムで一元管理すると、無駄な注文の削減に効果的です。また、注文をまとめて発注することで送料とゴミを削減するという方法もあります。こうした問題を解決するための「Biolabs freezer program(外部サイト)」のような、オンサイトの共用フリーザーを設置し試薬のシェアを推進するシステムも存在します。「Rheaply Asset Exchange Manager」(https://rheaply.com/)等のウェブサイトは、科学者向けのGumtree(海外コミュニティサイト)のようなもので、不要な機器の放出に役立ちます。より多くのラボがシェアリングのメリットを認識すれば、このようなシェアリングの姿勢はいずれ大きな利益をもたらすことになり、より多くのグループが参加することでこうしたコミュニティが成長することになります。

2. サステナブルなサプライヤーから取り寄せる

もし真剣にこの問題に取り組もうと考えているのであれば、積極的に環境保護に取り組んでいる企業を調査する時間を設け、自らの二酸化炭素排出量の削減にも取り組んでいる持続可能な業者に注文を依頼するという選択をしても良いでしょう。

 

ラボでの消費電力を削減する

当たり前のことですが、ラボの電気機器による消費電力量の削減は、ラボの二酸化炭素排出量削減のために非常に効果的な方法です。

3. 照明や電化製品のスイッチを切る

自宅の場合、外出時に照明や電化製品のスイッチをオフにするように気を使いますが、ラボの場合は概して無頓着になりがちです。自分のコンピューターやさらに大きなラボの機器であっても、無駄に毎晩電源がついたままになっている機器の電源を落とすことで消費電力を大きく削減できます。照明のスイッチの横に「消灯」の注意書きを貼ってみましょう。

4. タイマーを設置する

ウォーターバス、フィルム現像機、その他機器のコンセントにタイマーを取り付けると、通常の作業時間中だけ自動的に電源が入り、その他の時間の電力を節約できるようになります。

5. 機器の設定を変更する

PCR装置をovernightで実行する必要がある場合は、4℃ではなく、10℃で保持するように設定を変更してみましょう。

6. 冷凍庫を確認する

長期保存するために冷凍庫は欠かせませんが、稼働には膨大な電力を必要とします。無駄な電力を消費しないように、パッキンがきちんと機能していることを確認し、定期的に霜取りを行いましょう。総使用電力を最小限に抑えるために、容量の小さな冷凍庫に集約し、必要な冷凍庫の総数を削減してみましょう。これは、貴重なサンプルを捨てるように研究者に依頼するよりも気軽に実施できます。

7. ドラフトチャンバーを閉める

オープンタイプのドラフトチャンバーは、サッシが上がっていると室内の空気をフードに吸引し、同時に調整外気を給気するため、最も電力を消費するものの1つに挙げられます。ドラフトチャンバーのサッシを閉めることが単純な解決策となりますが、節電への影響は絶大です。 

ハーバード大学では、2005年に「Shut the Sash(サッシを閉めよう)」キャンペーンを開始し、ドラフトチャンバーからの排出量をわずか30%削減しただけで、年間24万ドルを節約し、温室効果ガスの排出量を300t削減しています。

8. 夜間にコンピューターの電源を切る

あまり使用していないコンピューターの場合(データ収集にしか使用していない場合等)、夜間に電源を落とすと非常に節電対策に効果的です。それを習慣付け、またラボのメンバーにも同じことをするようにすすめてください。

 

プラスチック廃棄物を捨てない

環境に配慮する上で難しいのは、使い捨てプラスチック廃棄物の処理ですが、古典的な「リデュース・リユース・リサイクル(3R:削減、再利用、リサイクル)」の原則を適用すると効果的です。

9. ガラス製品を使って削減

全プラスチック消費量を削減するためには、代替可能である場合はオートクレーブ滅菌可能なガラス製品の使用を計画するべきです。消耗品の使用に配慮して実験計画を立てることも有効です。実験結果に影響を与えることなく、器具の使いまわしができるか、または小規模化できるか検討してもよいのではないでしょうか。

10. ボックス容器やチップボックスの再利用

プラスチックを捨てるのではなく、再利用する方法について考えてみましょう。配送用の発泡スチロールのボックスは、実験での使用や、自分で荷物を発送する場合に備えて保管しておくことができ、アイスボックスとしても使用できます!大抵の場合、ピペットチップの廃棄は避けられませんが、詰め替え用ラックとオートクレーブできるチップボックスを購入するとプラスチックの削減に効果的で、Gilson、Rainin、Starlab等のタワーラックシステムが販売されています。こうした製品は、空のプラスチックラックの専用回収ボックスも提供している場合があります。また、ウェスタンブロットのように、それほど滅菌を必要としない手法に使用する場合は、試薬リザーバーやセルスクレーパーを洗浄し、乾燥させて再利用することも可能です。

11. 可能な限りリサイクルする

ラボが特定の製品をリサイクルできるプログラムも存在します。こうしたプログラムを所属機関で利用できるか検討するのも良いでしょう。リサイクル可能なプラスチックは一部に限られていますが、環境部門やサステナブル部門では、研究者が廃棄物の削減に少しでも貢献できるように、試験的な制度や既成の制度を設けている場合があります。それに加え、廃棄物削減に効果的な独自の解決策を考案しているラボもあります(参考記事:https://thebiologist.rsb.org.uk/biologist-features/how-to-reduce-your-lab-s-plastic-waste)。

 

水の使用量

全ての試薬や実験を通じて水は必須ですが、小さくシンプルな変更で容易に水の使用量を削減することができます。

12. 必ず蛇口をきちんと閉める

1分間に60滴も漏れる蛇口は、1日あたり21リットルも水を無駄にしています(参考記事:https://www.thenakedscientists.com/articles/interviews/drip-drip-drip-science-dripping-tap)。

13. ウォーターバスからビーズバスへ切り替える

特にウォーターバスを日常的に交換しなければいけない場合、こうした切り替えによって水道使用量が大幅に削減できます。切り替えができない場合、設定温度を維持しつつ消費電力を最小限に抑え、水替えの頻度を最小限にするために、常にウォーターバスに覆いをかけたままにしておきましょう。

14. 責任を持って化学物質を廃棄する

ゴミだけではなく、飲料水を汚染するリスクのある化学物質を常に適切な方法で廃棄し、廃液を排水口へ流さないように留意することによって、水に対する環境負荷を削減することができます。

研究者として、自分たちの研究が環境に影響を及ぼし得ることを認識し、小さな変革が環境への影響を最小限に抑えると同時に研究を推し進めることも可能であることを理解しなければいけません。そのため、自分が発生させる二酸化炭素排出量について考えて落ち込むのはやめて、環境に配慮して研究を進めていきましょう!

これでは14のヒントになってしまいましたね?しかし、無料で1つ増える分には特に問題はないでしょう!


著者:Karolina Szczesna博士

プロテインテック シニアプロダクトマネージャー兼テクニカルサポーター