免疫沈降用抗体における「特異性」と「親和性」の重要性

抗体の特異性および親和性とは?2つの特性が免疫沈降において重要な理由を解説します。

 

はじめに—親和性と特異性とは?

免疫沈降(IP:Immunoprecipitation)アッセイで夾雑物を含まない効率的な結果を得られるか否かは、免疫沈降に使用するアフィニティビーズ(免疫沈降用ビーズ)の親和性および特異性の両方の特性によって決定されます。

「親和性(affinity、アフィニティ)」とは、免疫沈降用ビーズに結合した従来型抗体やVHH抗体(別名:Nanobody®)と、その抗原との間の結合強度を表す用語です。親和性の低い抗体はターゲット抗原と弱く結合し、VHH抗体(別名:Nanobody®)等の親和性の高い抗体はターゲット抗原と強固に結合します。一般的に、平衡解離定数(KD)の逆数が親和性の高さを表します。すなわちKDの値が低いほど親和性は高くなり、目的タンパク質(POI:Protein of interest)と強く結合します。効率的な免疫沈降には、高い親和性が求められます。

「特異性(specificity)」とは、抗体/VHH抗体(別名:Nanobody®)のパラトープ(抗原結合部位)とエピトープ(抗体結合部位)間の一致性と、抗体/VHH抗体(別名:Nanobody®)が抗原と抗原以外のタンパク質をどの程度区別できるかという特性の両方を表す用語です。免疫沈降では、細胞ライセート中の目的タンパク質だけが免疫沈降ビーズと結合した状態を維持し、その他のタンパク質は全て洗浄操作で除去されることが重要です。つまり、免疫沈降用ビーズの特異性が高いほど、免疫沈降のバックグラウンドは低く抑えられます。

 

クラゲの写真

多くの場合、「高い特異性」は「高い親和性」を伴います。そのため、両者は同じ意味で用いられることも多く、混乱を招く場合があるので留意する必要があります。

 

特異性が高いとバックグラウンドの低い結果につながり、共免疫沈降(Co-IP)が成功しやすくなります

緑色蛍光タンパク質(GFP:green fluorescent protein)をはじめとする蛍光タンパク質は、免疫沈降用のタンパク質タグとして頻繁に用いられています。数多くの蛍光タンパク質誘導体が存在し、変異体の中にはアミノ酸配列が1残基だけ異なるものも存在します。蛍光タンパク質タグを融合させたタンパク質を免疫沈降する場合、特異性に関連する以下の2点の側面を有する免疫沈降用ビーズ(抗体/アフィニティ樹脂)が必要とされます。

  • 目的タンパク質だけを捕捉し、バックグラウンドの低い結果を得るには、目的タンパク質に対して極めて特異性が高い抗体が必要とされます。
  • 手間のかかる再クローニングを避けるために、単一アミノ酸置換体等の蛍光タンパク質バリアントにも結合できる抗体が必要とされます。

共免疫沈降(Co-IP:Co-immunoprecipitation)では、免疫沈降用ビーズと特異的に結合するタンパク質(直接的に免疫沈降される既知タンパク質)は「ベイト(bait:餌、相互作用物質を釣るための「餌」となるタンパク質)」と呼ばれます。一方、免疫沈降されるタンパク質との相互作用物質は「プレイ(prey:餌食、餌で釣られるタンパク質)」と呼ばれます。共免疫沈降の実験では、ベイトタンパク質とプレイタンパク質にそれぞれ異なる蛍光タンパク質タグを融合し、免疫沈降を実施する場合があります。この時、ベイトタンパク質のみが免疫沈降用ビーズに結合し、プレイタンパク質に融合させた蛍光タンパク質による偽陽性の結果が出ないようにする必要があるため、免疫沈降用抗体の高い特異性が重要となります。

クロモテック(2020年よりプロテインテックの一部)のGFP-Trap®は、Emerald、mPhluorin、Superfolder GFP、CFP、YFP等の一般的なGFPバリアントに対して高い特異性を示します。しかし、mNeonGreen、TurboGFP、RFP、mCherry等のGFPバリアント以外の蛍光タンパク質とは結合しないため、マルチプレックスアッセイ等に使用できます。したがって、GFP-Trap®はGFPタグ融合タンパク質の免疫沈降や共免疫沈降に最適なツールです。

 

高い親和性の免疫沈降用ビーズを用いると、存在量の少ないタンパク質でも完全に回収することができます

高い親和性は、免疫沈降反応で目的タンパク質を全て捕捉するために重要となります。免疫沈降の際、目的タンパク質は平衡に達するまで免疫沈降用ビーズの抗体/VHH抗体(別名:Nanobody®)に結合します。親和性が高いほど、すなわちKD値が低いほど、多くの目的タンパク質が免疫沈降用ビーズと結合し、フロースルー画分には微量の目的タンパク質しか残留しません。

また、存在量の少ない目的タンパク質をプルダウンする場合にも高い親和性が求められます。目的タンパク質の発現レベルが低い場合、免疫沈降用ビーズによる目的タンパク質の捕捉や、ウェスタンブロットによる検出が困難になります。アフィニティ樹脂の親和性が低いと、細胞ライセート中に目的タンパク質が存在していても、アフィニティ樹脂には結合せずフロースルー画分に目的タンパク質が残存してしまいます。

プロテインテックのGFP-Trap®は、KD=1 pMと極めて高い親和性を示します。この高い親和性によって、免疫沈降時に目的のGFPタグ融合タンパク質のほぼ全量を確実に回収します。GFP-Trap®を用いれば、たとえ存在量の少ないタンパク質であっても細胞ライセートから回収・濃縮することが可能です。ビーズのKD=1 pM、標準プロトコールに基づき500 μLのサンプルを用いて免疫沈降を実施すると仮定した場合、GFP-Trap®によって、わずか1 ng未満のGFPタンパク質を細胞ライセートから捕捉できるという計算になります。

 

サンプルの濃度や希釈率は免疫沈降の効率性に寄与します

親和性は、個々の抗体/VHH抗体(別名:Nanobody®)に備わる特性です。しかし、免疫沈降実験の効率を改善しようとする場合、目的タンパク質の濃度も影響を及ぼします。

目的タンパク質濃度が高いほど、免疫沈降で回収できる目的タンパク質の量は多くなります。タンパク質の濃度は、発現レベルや使用する細胞数によって調節できます。1回の免疫沈降実験に、106~107個の細胞を使用するか、あるいは約500 μgの細胞抽出物を使用することが推奨されます。使用する細胞ライセートの濃度が高い場合は、免疫沈降後の洗浄操作の回数を増やし、より洗浄作用の強いバッファーを適用してバックグラウンドの低減を図る必要がある場合があります。

つまり、サンプル調製時に添加するバッファー溶液の容量が少ないほど、効率的に免疫沈降を実施することができます。サンプル調製時は細胞ライセートが希釈されないように注意します。細胞ライセートを希釈しなければならないプロトコールを採用する場合は、GFP-Trap®等の非常に高い親和性の免疫沈降用ビーズを使用してください。なおGFP-Trap®の場合、細胞ライセートと適切に混合されるように、1.5 mLチューブに少なくとも500 μLのサンプル溶液を添加する必要があることに留意してください。

 

GFP-Trap®の概要については、アルパカの「アリス」によるNano-Trapシリーズの紹介動画をご覧ください(言語:英語)。

 

プロテインテックでは、GFP-Trap®のサンプルを無償で提供しています。下記フォームよりご依頼ください。

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