コロナ禍以降の研究者のキャリア形成
パンデミックを乗り越えるために若手研究者が実践した画期的なアクションは、パンデミック収束後も彼らのキャリア構築を力強く推進しています。
本コンテンツはプロテインテックの協力のもとNature Custom Mediaが制作しました。

![]() |
ポスドクであるTejeshwar Rao博士の研究はコロナ禍で中断してしまいましたが、細胞の蛍光イメージング画像を画像コンテストやSNSで発信し、キャリア構築の足がかりとしました。 |
|
Tejeshwar Rao博士 |
COVID-19のパンデミックが発生し、Tejeshwar Rao博士の所属するラボが一時的に閉鎖に追い込まれてしまった際に、博士には在宅で研究を進める手段がありませんでした。博士は米国Alabama大学Birmingham校でポスドク研究員として、細胞の牽引力に応じて蛍光を発するプローブの開発と、それを用いて細胞の張力発生機構を解析する研究に従事していました。この研究を進めるには蛍光顕微鏡を使用する必要があります。「途方に暮れてしまいました。蛍光顕微鏡は家に置けません。データをとることができなくなってしまったのです。そのため、研究者としての活動を第一線で継続するための別の方法を模索しなければなりませんでした」とRao博士は振り返りました。 そして、博士が見つけた打開策はハッシュタグを活用したSNSへの投稿でした。「金曜日には『#FluorescenceFriday』のハッシュタグをつけて、Instagramに自分が撮影した蛍光顕微鏡画像を投稿するようにしていました。『百聞は一見に如かず』の言葉通り、綺麗な顕微鏡画像を活用して自分の研究の魅力を端的に発信できます」。コロナ禍においてRao博士が挑戦した取り組みは実を結び、複数のコンテストで賞を受賞したほか、Journal of Cell Science誌の表紙にも採用されました。 若手研究者は、十分な経験や専門家とのコネクションもない状況で、学会発表・論文投稿・研究費の獲得・自身の評価確立といった課題に常に立ち向かっています。こうした重圧は、コロナ禍で各地のラボが閉鎖され、学会が中止になるよりも以前から存在しています。 研究活動を停滞させないために、若手研究者は研究者としての実績を重ねつつ自身の研究を効果的にアピールするための新しい画期的な手段を見出しています。ベテランの研究者からのバックアップや研究者に寄り添う試薬会社等の企業の支援をうけながら若手研究者が実践しているこのような新たな戦略は、若手研究者が独自の学術的ポジションを確立する手段として貢献し、パンデミックが収束した後も継続的に機能し続けると考えられます。 |
オンライン学会の大きなメリット
|
Maria Davern氏 |
アカデミアの学会は、科学研究全体を推進する根幹の基盤です。コロナ禍で多くの学会が中止を余儀なくされたことが契機となり、オンライン開催という新たな選択肢が定着していきました。2021年4月に、Dublin大学Trinity Collegeの大学院生であるMaria Davern氏は、抗体・活性タンパク質・各種キットを製造販売する試薬会社であるプロテインテックが主催する若手研究者向けのがん免疫療法のオンラインミーティングで自身の研究を発表しました。 免疫チェックポイント阻害剤が有する「免疫系を活性化してがん細胞を死滅させる作用」を増強させるための研究に携わっているDavern氏は、次のように評価しています。「オンラインミーティングは本当に素晴らしいシステムだと思います。旅費の予算が限られている若手研究者であっても、オンラインイベントに参加することで画期的な最新研究の動向を追うことができます」。 また、オンラインミーティングは若手研究者が幅広い研究者に対して自身の活動を発信する新たな舞台も提供しました。「規模の大きな学会で若手研究者が口頭発表の枠を獲得するのは非常にハードルが高いのが現状です」とDavern氏は指摘します。 こうした背景から、企業側でも若手研究者を対象とした独自のプログラムを企画・展開する動きが広がっています。プロテインテックを例に挙げると、学会参加のための旅費支援、優秀な指導者やラボ管理者を表彰する推薦形式の「Mentor and Lab Manager Award」、オンラインセミナーの実施といった、若手研究者を対象にした数多くの支援を展開しています。プロテインテックのCSO(最高科学責任者)であるDeepa Shankar博士は次のように説明しています。「プロテインテックは科学の発展に貢献するために存在しています。大学院生や若手研究者の皆さんへの支援は私たちの理念の中核をなしています。若手研究者こそが科学の未来を担う存在なのです」。 |
成功のための人脈構築
|
Tara Spires-Jones教授 |
オンラインの場合も対面式の場合も、学会は若手研究者が人脈を構築するための機会や先輩の研究者との関係を深める機会を提供するとともに、自身の実績や評価を確立するための場として機能します。若手研究者からの先輩研究者へのアプローチは時にはぎこちなくなってしまうかもしれませんが、ベテランの研究者が主体的に関わることでスムーズな関係構築を実現できるでしょう。例えば、Edinburgh大学で神経科学の教鞭をとるTara Spires-Jones教授は、2020年にプロテインテック主催の神経変性疾患を対象にしたオンライン・ミーティングでプレゼンテーションを披露しましたが、その後プレゼンテーションを視聴した若手研究者からの連絡がきっかけとなり、小規模ながらも数件の共同研究が実現しました。 また、学会主催者側が工夫することで、参加者同士の交流を促進する環境を整えることも可能です。例えば、IACR(Irish Association for Cancer Research)には参加者が円滑に人脈を構築できるプログラムが用意されています。「事前に専用フォームに必要事項を記載すると、昼食休憩の間にマッチングしたPI(Principal Investigator)と1:1で交流できる機会が得られます」。前述のDavern氏は、2019年のIACRに参加した際に昼食でペアになった相手から、彼女が2021年の11月からポスドク研究を開始することになる、マサチューセッツ州ボストンにあるDana-Farber癌研究所のAnthony Letai研究室に関する情報を教えてもらいました。 「学会の主催者や協賛者がインクルーシブな姿勢を取ることで、学会参加者全員が恩恵を受けられます」とSpires-Jones教授は述べています。また、教授は神経変性疾患のオンライン・ミーティングで、「私が意見を交わした全員が、若手研究者の発表が最も素晴らしかったと絶賛していました。彼らの発表は刺激的かつ論点が明確で洗練されており、きちんと時間通りに終わるのです」と言及しています。 |
経験を次世代へ引き継ぐ
「メンターとしての指導経験も有益な連携構築につながります。私はラボのあらゆる顕微鏡の操作を熟知しているので、学生の皆さんが質問に訪れます。技術指導を依頼された場合は、常にそれを快諾しています。」とRao博士は述べています。ラボ運営におけるこのように積極的な協力姿勢は、細胞表面タンパク質の修飾変化が細胞の牽引力発生機構に及ぼす影響を解明する、現在博士が取り組む共同研究にも結びついています。こうした日頃の活動が評価され、Rao博士はプロテインテックのBest Postdoc Mentor Awardを受賞しました。
若手研究者側も、メンターから指導を受ける機会を自発的に模索することができます。Davern氏の場合は、それをアカデミアでのキャリア形成を助けるヒントやポイントを紹介するウェビナーやオンラインのワークショップへの参加を習慣化する形で実現しました。「サイエンスの本質は実験だけではありません。ラボの外の世界に目を向けて、自分の研究成果を上手に発信するスキルを磨く機会を積極的に活用すべきです」。
また、キャリア早期の段階で研究者として優位性を築く手段として、ピアレビュアーを引き受けるという選択肢もあります。「自ら進んでレビュアーを務めると、良質な論文に求められる条件を学ぶことができるうえ、同分野の研究者が理解しやすく解釈が容易で説得力のある形で自分のアイデアを論理展開する手法を身につけられます。質が高く条件を満たす査読者の確保に苦労する雑誌編集部側にとっても、若手研究者を対象にしたトレーニングにはメリットがあります」。2021年に若手研究者が高度な査読技術を身につけられるレビューアカデミーというプログラムを開始したBrain Communications誌の編集長を務めるSpires-Jones教授はこのように述べており、若手研究者だけでなく編集者にとってもメリットがあるとしています。
SNSを活用した研究活動
若手研究者が直面する最大の課題は、群雄割拠の研究者コミュニティの中で実績や評価を確立することかもしれません。学会での口頭発表は極めて重要ですが、自身の存在をアピールする手段は他にも存在します。「X(旧Twitter)をはじめとするSNSで積極的に情報発信したり交流を深めることが重要だと考えています。」とDavern氏は言及しています。彼女が所属する部門では研究メンバーが、論文が公開された場合や学会に参加するタイミングでポストを投稿しており、シニア研究者もこうした投稿を日頃からチェックしています。「注目すべき論文や最新の研究動向等の情報を収集するうえで、SNSほど効率的な手段はありません」と、Spires-Jones教授は述べています。
X(旧Twitter)は、人脈構築や興味深いチャンスや情報を把握するうえでもとても良い手段です。「もし共に働いてみたいと思えるPIがいれば、そのPIのグループの論文に関する情報のポストを『いいね』や『リポスト』することで相手に認知してもらえます」とはDavern氏の談で、実際に彼女は、現在所属するLetai研究室のアカウントをフォローしていたところ、自身の専門分野にぴったりとあてはまるポスドク募集の告知ポストを目にしました。「『なんということ!完璧すぎる』と思いました。もしX(旧Twitter)がなければ、今の私のポジションに巡りあうことはできなかったでしょう。そんな経緯から、私は熱心なX(旧Twitter)推進派なのです」。
Rao博士も同様にSNSを活用しており、特に『#FluorescenceFriday』のハッシュタグ投稿で積極的に情報発信しています。「研究者としてやっていくには、自分の活動を情報発信していくことも必要です。特に研究者になりたての頃は、対話のきっかけとなる機会を逃さず活かしていく必要があります。研究者として、自分自身の研究の魅力をアピールしていかねばなりません」。
若手研究者向けのキャリアやライフプランに関するその他のヒントを、プロテインテックホームページ(英語版:www.ptglab.com)のECR(Early Career Researcher)Hubで紹介しています。




