染めて見たくてたまらない:オルガネラの染色
オルガネラ(細胞小器官)の内部を可視化することで、オルガネラの分子機構を解明し、細胞の異常を調べることができます。
まず、オルガネラ(細胞小器官)とは何でしょうか?オルガネラは、真核細胞や原核細胞の細胞質に存在する小さな細胞内構造です。より複雑な真核細胞では、オルガネラは、多くの場合、独自の膜に囲まれています。各オルガネラは、臓器/器官が身体で働くのと同じように、その細胞に特化した機能を担っています。
オルガネラに特異的なタンパク質マーカーを使用する以外にも、オルガネラ選択的な色素を使用すれば、関心のある構造を際立たせ、それぞれの特化した構造を調べることができます。以下に、各細胞オルガネラを識別する際、染色を最大限に活用する方法をまとめました(図1)。
図1. オルガネラ特異的色素で染色できる、複数の重要なオルガネラをわかりやすく図示した動物細胞。
色素を選ぶ前の4つの検討事項:
各オルガネラに使用できる様々な色素について説明する前に、染色によって最良の結果が得られるようにするために、まず考慮すべきいくつかのポイントがあります。
1. 色素の膜透過性を考慮する
DAPIは、膜透過性が低く、固定細胞の染色に適しています。Hoechst(例:Hoechst®33342)は、膜透過性が高く、生細胞でも使用することができます。
2. 蛍光波長を考慮する
例えば、緑色のチャンネルで発光する二次抗体を使用して、脂質膜に存在するタンパク質を同定する場合は、近赤外のチャンネルで発光する脂質色素を選択すると良いでしょう。そうすれば、互いの波長の干渉を防ぐことができます。
3. 使用色素の濃度は非常に重要
濃度が低すぎると明瞭な染色像は得られませんが、濃度が高すぎると試料に対する毒性を示す場合があります。
4. 染色原理を正しく理解する
ローダミンのようなミトコンドリア染色色素は、膜電位に依存して対象物質を染色します。こうした色素は生細胞に適用されるため、細胞の正常性や生存率を解析する有用なツールです。また、リソソーム染色色素が適切に作用するためには、対象のオルガネラが酸性環境である必要があります。こうした色素は生細胞の染色に最も適しています。
オルガネラごとに異なる色素を
1. 細胞膜とゴルジ装置
細胞全体は、リン脂質二重層である細胞膜で囲まれており、その細胞質内にはいくつかのメンブレンネットワークが存在しています。細胞膜の選択的透過性や小胞の形成は、細胞の内部環境や細胞内のタンパク質輸送を制御するために、必要不可欠です。
重要なことであるため、色素の膜透過性を検討しましょう。また、膜類は、レクチンを用いて染色することが可能です。レクチンとは、糖の特定の部位を認識して結合する糖結合性タンパク質です。
コムギ胚芽凝集素(WGA)のようなレクチンは、細胞膜を染色するだけでなく、細胞内タンパク質プロセシングに関与する、複数の槽と小胞で構成されるオルガネラであるゴルジ体も染色します。どちらの構造もリン脂質二重層から形成されており、レクチンを使用して染色することが可能です。
注記:レクチンの中には、特定の糖脂質や糖タンパク質に特異性を示すものもあります。このレクチンは、複数種の細胞存在下でイメージングをする場合、非常に有用です。例えば、イソレクチンB4は、内皮細胞の基底膜に結合し、内皮細胞を特異的に染色します。
2. 小胞体と脂肪滴
小胞体(ER:endoplasmic reticulum)は、核膜と連結したもう1つの膜システムで、脂質やタンパク質のプロセシングに関与しています。筒状の小胞体槽とシート状の小胞体は、細胞全体の体積の約10%を占める場合があります。小胞体は、粗面小胞体(リボソームが付着し、タンパク質産生に関与する)と滑面小胞体(リボソームが付着せず、脂質代謝に関与する)に分類されます。ナイルレッドのような色素は、脂肪滴に結合し、細胞内の脂肪滴と共に親油性の膜すべてを染色します。そのため、このような色素は高いバックグラウンド染色を示すことがあり、信頼性のある結果を出すためには、慎重に条件を最適化してください。
注記:脂質特異的色素で染色する前にオレイン酸で細胞を処理すると、脂肪滴の形成が誘導されます。この処理を陽性コントロールに適用すると、計画通りに染色できたか確認することができます。
プロテインテックの関連特集:特集 : 小胞体ストレス
3. リソソーム
リソソームは、分解酵素を含んでいるため、細胞の消化系と形容されます。これらの酵素の機能を維持するためには、細胞質のpHが中性であるのとは対照的に、リソソームを酸性条件(約pH5)に維持しなければなりません。つまり、リソソームは、細胞質からプロトンの能動輸送を行う必要があります。酸性条件下で特異的に作用し、リソソームのpH勾配を介して蓄積する、細胞透過性色素を使用するのが最適です。
注記:ニュートラルレッド等のリソソーム染色色素は、適用するオルガネラが酸性環境である必要があり、生細胞を良好に染色します。また、リソソーム染色色素を添加した後に続けて細胞固定を実施すれば、その後の操作でタンパク質特異的抗体を使用できます。
4. ミトコンドリア
ミトコンドリアは、細胞の動力源とみなされています。ミトコンドリアは酸化的リン酸化によって生存に必要なエネルギーのほぼ90%を産生し、アポトーシスにおいて重要な役割を担います。ミトコンドリアにはプロトン濃度勾配を利用してATPを産生するための二重膜があり、この機構をエネルギーの中間貯蔵庫として使用しています。この膜電位が存在すると、生細胞の正常性や生存率を解析する有用なツールである、ローダミン等のミトコンドリア染色色素の使用が可能です。しかし、膜電位が低下してしまうため、固定直前に添加します。
注記:ローダミンは毒性を示すため、ミトコンドリアの機能を阻害する場合があります。
プロテインテックの参考ブログ:ゲスト寄稿 | ミトコンドリアは単なる細胞のエネルギー発電所ではありません
5. 微小管
微小管は、アクチン、中間フィラメントと共に、細胞骨格を形成する細胞の構成要素の1つです。微小管は、厳密にはオルガネラではありませんが、細胞を支配する基本的なプロセスを理解する上で重要であり、細胞全体を可視化する際にも使用できます。微小管は、チューブリンに結合する色素の特異的な結合親和性に基づいて特定することが可能です。色素は、微小管ダイナミクスに影響を及ぼし、有糸分裂を停止させる場合があります。
注記:パラホルムアルデヒド固定ではなく、メタノール固定を実施してください。これにより、架橋タンパク質に対する干渉を回避し、より質の高い画像が得られます。
図2. HepG2細胞の免疫蛍光染色画像(4% PFAで固定し、FIS1抗体およびαチューブリン抗体を使用)。緑:FIS1(カタログ番号:10956-1-AP)、赤:αチューブリン(カタログ番号:66031-1-Ig)
よく調べた内容に基づき、あなたが選択した色素を信頼しましょう!
色素を使用した染色は、抗体染色と併せて、オルガネラを可視化するためのシンプルで効果的な方法です。様々な選択肢をよく調べて、その中から最適なものを選んでください!
一般的な染色のヒント、および多重染色の手法やIF実験の最適化に関する技術的なヒントに関する詳細はプロテインテックのブログをご覧ください。
プロテインテックの参考ブログ
一般的な染色のヒント:ヒントとコツ | 免疫蛍光染色(IF)実験を最適化するための9つのヒント
多重染色・IF実験の最適化に関する技術的なヒント:複数の標識色素を使用して免疫染色するための5つのヒント
図3. ヒト膵臓組織の免疫蛍光染色画像(4% PFAで固定し、グルカゴン抗体とインスリン抗体を使用)。緑:グルカゴン(カタログ番号:15954-1-AP)、赤:インスリン(カタログ番号:66198-1-Ig)