Flag®タグと3xFlag®タグとは?
Flag®タグ(一般名称:DYKDDDDKタグ)の性状、特性、由来、配列、分子量、その他の概要を解説します。
- Flag®タグとは?
- Flag®タグの作用機序とは?
- Flag®タグの構造
- Flag®タグの由来と開発
- 特性
- Flag®タグ融合タンパク質の作製法
- Flag®タグおよび3xFlag®タグのサイズ
- Flag®タグおよび3xFlag®タグの性状
- Flag®タグおよび3xFlag®タグのエピトープ配列
- 3xFlag®タグおよび1xFlag®タグの使い分け
- Flag®タグはなぜDYKDDDDKタグと呼ばれるのか?
- アプリケーション
- Flag®タグ vs Mycタグ
- Flag®タグ vs HAタグ
- Flag®タグ vs Spotタグ
- Flag®タグ vs V5タグ
- Flag®タグ融合タンパク質の溶出法
- Flag®タグ発現用プラスミド
- 市販されているFlag®タグ抗体およびDYKDDDDKタグ抗体
- 無料サンプルリクエストフォーム
1. Flag®タグとは?
Flag®タグは、エピトープタグとして一般的に使用されている、天然のタンパク質に由来しないアミノ酸配列からなるペプチドタグです。Flag®タグは人為的に作られたタグであり、ペプチド配列に基づき、DYKDDDDKタグとも呼ばれています。Flag®タグは、タグ融合組換えタンパク質の作製に用いられ、抗体による様々な捕捉や検出アプリケーションに利用されます。「Flag®(Anti-Flag®)」という名称は、Sigma-Aldrich(Merck)社の登録商標です。
2. Flag®タグの作用機序とは?
Flag®タグ融合タンパク質は、Flag®タグ配列を認識する抗体を使用して検出されます。
Flag®タグ融合タンパク質の作製のためには、Flag®タグを目的タンパク質(POI:protein of interest)のN末端またはC末端に付加してクローニングを実施します。Flag®タグ融合タンパク質を組換え発現させた後に、ELISA、フローサイトメトリー、免疫蛍光染色(IF)、免疫沈降(IP)/共免疫沈降(CoIP)、タンパク質精製、ウェスタンブロット(WB)等を用いて解析を実施します。
プロテインテックの解析アプリケーション
ELISA
フローサイトメトリー
免疫蛍光染色(IF)
免疫沈降(IP)/共免疫沈降(CoIP)
タンパク質精製
ウェスタンブロット(WB)
3. Flag®タグの構造
8残基のアミノ酸からなるFlag®タグペプチドの構造
4. Flag®タグの由来と開発
Flag®タグは、1988年に発表されたHoppらによる論文で最初に報告されました(1)。
5. 特性
Flag®タグは、8つのアミノ酸残基からなり、その配列はNH2-DYKDDDDK-COOH(N末端-Asp-Tyr-Lys-Asp-Asp-Asp-Asp-Lys-C末端)です。Flag®タグ配列にはエンテロキナーゼ(Enterokinase:セリンプロテアーゼの1種)の切断部位(アミノ酸配列:DDDDK)が含まれます。そのため、エンテロキナーゼによる切断によりFlag®タグをFlag®タグ融合タンパク質から取り除くことも可能です。1xFlag®タグに加えて、3xFlag®タグが一般的に用いられています。多くの3xFlag®タグに使用されている配列モチーフ(アミノ酸配列:DYKDHDG-DYKDHDI-DYKDDDDK)は、1xFlag®配列の単純な繰り返し配列ではありません。
6. タグ融合タンパク質の作製法
Flag®タグ以外のタンパク質タグやペプチドタグと同様の手法で、Flag®タグを目的タンパク質(POI)に付加することができます。通常は、Flag®タグを目的タンパク質のコード配列とインフレームになるようDNAプラスミドにクローニングします。その後、作製したプラスミドを発現宿主にトランスフェクションしてFlag®タグ融合タンパク質を発現させます。
7. Flag®タグおよび3xFlag®タグのサイズ
Flag®タグ
アミノ酸残基数:8残基
分子量:1012.98Da
3xFlag®タグ
アミノ酸残基数:22残基
分子量:2730.71Da
8. Flag®タグおよび3xFlag®タグの性状
Flag®タグ
計算上の等電点(pl):3.97(負に荷電したアミノ酸の割合が多いことから、等電点は低くなります。Flag®タグは、合計7残基の荷電アミノ酸を含む高荷電ペプチドです。)
負に荷電したアミノ酸残基数(Asp(D)+Glu(E)):5
正に荷電したアミノ酸残基数(Arg(R)+Lys(K)):2
荷電アミノ酸残基の総数:7
3xFlag®タグ
計算上の等電点(pl):4.16
負に荷電したアミノ酸残基数(Asp(D)+Glu(E)):11
正に荷電したアミノ酸残基数(Arg(R)+Lys(K)):4
荷電アミノ酸残基の総数:15
9. Flag®タグおよび3xFlag®タグのエピトープ配列
Flag®タグ
Flag®タグのアミノ酸配列:
DYKDDDDK(Asp Tyr Lys Asp Asp Asp Asp Lys)
Flag®タグをコードするDNA配列:
GAC TAC AAG GAC GAC GAT GAC AAG
3xFlag®タグ
3xFlag®タグのアミノ酸配列:
DYKDHD-G-DYKDHD-I-DYKDDDDK(Asp Tyr Lys Asp His Asp – Gly – Asp Tyr Lys Asp His Asp – Ile – Asp Tyr Lys Asp Asp Asp Asp Lys)
3xFlag®タグをコードするDNA配列:
GAC TAC AAG GAC CAC GAC GGT GAC TAC AAG GAC CAC GAC ATC GAC TAC AAG GAC GAC GAC GAC AAG TGA
D(Asp)=アスパラギン酸、G(Gly)=グリシン、H(His)=ヒスチジン、I(Ile)=イソロイシン、K(Lys)=リジン、Y(Tyr)=チロシン
10. 3xFlag®タグおよび1xFlag®タグの使い分け
一概に、どのアプリケーションにどちらのタグを推奨するかは明言できません。3xFlag®タグのように鎖長が長くなると、Flag®タグ抗体との親和性が高くなります。多くの場合、3xFlag®タグは、タンデムアフィニティ精製(TAP:tandem affinity purification)法等を含むタンパク質精製で使用されます。上述した通り、3xFlag®タグの方が1xFlag®タグよりも鎖長が長く、荷電アミノ酸残基数が多くなります。負に荷電したアミノ酸や正に荷電したアミノ酸は、目的タンパク質に強く干渉する可能性があり、融合タンパク質の発現に影響を及ぼすおそれがあります。
WBで検出を実施する場合は、1xFlag®タグを付加すれば問題なく目的タンパク質を検出できると考えられます。
11. Flag®タグはなぜDYKDDDDKタグと呼ばれているのか?
「Flag®(Anti-Flag®)」という名称は、Sigma-Aldrich(Merck)社の登録商標です。そのため、Flag®タグ抗体と同一のペプチド配列を標的とする他社の抗体製品は、一般名称として「DDDDK抗体」や「DYKDDDDK抗体」と呼ばれています。
12. アプリケーション
Flag®タグは免疫沈降(IP)およびタンパク質精製を実施する際や、ウェスタンブロット(WB)を実施する際の抗体認識部位(エピトープ)として開発されたペプチドタグです。その他のアプリケーションとしては、免疫蛍光染色(IF)等にも使用されます。
13. Flag®タグ vs Mycタグ
以下の表にFlag®タグとMycタグの比較をまとめました。
Flag®タグ | Mycタグ | |
由来 | - | ヒトc-Myc |
立体構造 | ||
アミノ酸配列 | DYKDDDDK | EQKLISEEDL |
アミノ酸残基数 | 8 | 10 |
分子量(Da) | 1012.98 | 1203.31 |
計算上の等電点(pl) | 3.97 | 4.00 |
負に荷電したアミノ酸残基数(Asp(D)+Glu(E)) | 5 | 4 |
正に荷電したアミノ酸残基数(Arg(R)+Lys(K)) | 2 | 1 |
プロテインテックの関連ブログ:Mycタグについて
14. Flag®タグ vs HAタグ
以下の表にFlag®タグとHAタグの比較をまとめました。
Flag®タグ | HAタグ | |
由来 | - | ヒトインフルエンザウイルスのヘマグルチニン(HA、hemagglutinin) |
立体構造 | ||
アミノ酸配列 | DYKDDDDK | YPYDVPDYA |
アミノ酸残基数 | 8 | 9 |
分子量(Da) | 1012.98 | 1102.17 |
計算上の等電点(pl) | 3.97 | 3.56 |
負に荷電したアミノ酸残基数(Asp(D)+Glu(E)) | 5 | 2 |
正に荷電したアミノ酸残基数(Arg(R)+Lys(K)) | 2 | 0 |
15. Flag®タグ vs Spotタグ
以下の表にFlag®タグとSpotタグの比較をまとめました。
Flag®タグ | Spotタグ | |
由来 | - | ヒトβ-カテニン |
立体構造 | ||
アミノ酸配列 | DYKDDDDK | PDRVRAVSHWSS |
アミノ酸残基数 | 8 | 12 |
分子量(Da) | 1012.98 | 1396.53 |
計算上の等電点(pl) | 3.97 | 10.03 |
負に荷電したアミノ酸残基数(Asp(D)+Glu(E)) | 5 | 1 |
正に荷電したアミノ酸残基数(Arg(R)+Lys(K)) | 2 | 2 |
プロテインテックの関連ブログ:ペプチドタグ「Spot-Tag®」とVHH抗体(別名:Nanobody®)による捕捉/検出システム
16. Flag®タグ vs V5タグ
以下の表にFlag®タグとV5タグの比較をまとめました。
Flag®タグ | V5タグ | |
由来 | - | SV5(simian virus 5、シミアンウイルス5)のPタンパク質およびVタンパク質 |
立体構造 | ||
アミノ酸配列 | DYKDDDDK | GKPIPNPLLGLDST |
アミノ酸残基数 | 8 | 14 |
分子量(Da) | 1012.98 | 1421.66 |
計算上の等電点(pl) | 3.97 | 5.84 |
負に荷電したアミノ酸残基数(Asp(D)+Glu(E)) | 5 | 1 |
正に荷電したアミノ酸残基数(Arg(R)+Lys(K)) | 2 | 1 |
プロテインテックの関連ブログ:V5タグの特性
17. Flag®タグ融合タンパク質の溶出法
以下の方法でFlag®タグ融合タンパク質を溶出します。
- Flag®ペプチドによるペプチド競合法:1xFlag®ペプチド、または3xFlag®ペプチドを使用します。1xFlag®ペプチドを使用して3xFlag®融合タンパク質を溶出することはできませんのでご注意ください。
- グリシンバッファー(pH2.5)による酸性条件の溶出
- SDSサンプルバッファーによる溶出
18. Flag®タグ発現用プラスミド
哺乳類細胞、ショウジョウバエ、その他生物用のマルチクローニングサイト(MCS)を有するFlag®タグ発現ベクターを、Sigma-Aldrich(Merck)社、Novus Biologicals社等の多くのメーカーが販売しています。また、Addgene(非営利のプラスミドバンク/プラスミドリポジトリ)にプラスミドの分譲を依頼することも可能です。
19. 市販されているFlag®タグ抗体およびDYKDDDDK抗体
様々なメーカーが多様な抗体タイプ(リコンビナント抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体等)のDYKDDDDKタグ(Flag®タグ)抗体を販売しています。クロモテック(2020年よりプロテインテックの一部)では、Flag®タグ融合タンパク質の効率的かつ高純度な免疫沈降を実現する、DYKDDDDK Fab-Trap™(カタログ番号:ffa)をアガロースビーズ結合済みですぐに使用できる製品として販売しています。
プロテインテックの関連製品:ChromoTek VHH(Nanobody®)試薬
また、プロテインテックでは、免疫蛍光染色(IF)、免疫沈降(IP)、ウェスタンブロット(WB)等の様々なアプリケーションで検証試験を実施した複数のDYKDDDDKタグ抗体を製造販売しています。
リコンビナント抗体:DYKDDDDKタグウサギモノクローナル抗体(カタログ番号:80010-1-RR)
モノクローナル抗体:DYKDDDDKタグマウスモノクローナル抗体(カタログ番号:66008-4-Ig)
ポリクローナル抗体:DYKDDDDKタグウサギポリクローナル抗体(カタログ番号:20543-1-AP)
20. 無料サンプルリクエストフォーム
プロテインテックのDYKDDDDK Fab-Trap™は良好な免疫沈降を実現します。プロテインテックでは、DYKDDDDK Fab-Trap™ Agaroseのサンプルを無償で提供しています。下記フォームよりご依頼ください。
(※ 国内におけるプロテインテック製品の出荷および販売は、コスモ・バイオ株式会社を通じて行っております。
最寄りのコスモ・バイオ株式会社 代理店をご指定の上、ご依頼ください。)
参考文献