GFP(緑色蛍光タンパク質)とは:特性、由来、構造、配列、ヒント

GFPの性質やアプリケーションの概要について解説します。

 

1. GFPとは?

GFPとは、緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein)を表す略語です。GFPは、in vitroおよびin vivoで発現させることが可能な「蛍光タンパク質(Fluorescent Protein)」です。蛍光タンパク質とは、特定の波長の光に暴露して励起すると、蛍光を発するタンパク質のことを指します。GFPは、緑色の蛍光を発するという特性を示し、ほぼすべてのタンパク質のイメージングを実現し、遺伝子の転写研究におけるレポーター遺伝子や生化学的アプリケーションに利用されています。そのため、GFPはこれまでに細胞生物学の発展に非常に大きな影響を与えてきました。

 

2. GFPの由来

GFPは、オワンクラゲ(Aequorea Victoria)が持つ内在性のタンパク質に由来します。GFPは、1962年に下村脩(しもむら おさむ)博士によって単離されました。1992年、GFPの遺伝子配列がクローニングされ(Douglas Prasher博士)、Martin Chalfie博士の研究室がその配列をin vivoで発現させました。Roger Tsien博士のラボではGFPを改良し、一般的に利用できる研究ツールへと改変しました。2008年、「緑色蛍光タンパク質(GFP)の発見とその応用」が評価され、3名の博士はノーベル化学賞を受賞しました。Roger Tsien博士のノーベル賞受賞講演はこちら(nobelprize.org)から視聴可能です。

 

3. GFPの応用方法とは?

GFPはタンパク質であり、その他のタンパク質と同様に生体内で発現させることができます。GFPが発現し適切にフォールディング(折りたたみ)されると、蛍光を発する特性を示すようになります。GFPは、紫外領域または青色の短波長によって励起すると、それよりも長波長側の緑色の蛍光を発します(8.および9.参照)。このタンパク質が示す蛍光特性は細胞生物学に非常に大きな影響を与えました。すなわち、GFPの蛍光特性を利用して「蛍光タンパク質タグ」として応用することで、GFPを発現させた細胞や、目的タンパク質に融合して発現させたGFPを検出および追跡することが可能になりました。実際に、GFPは数多くの新たな実験手法の実現を可能にしました。

 

4. GFPタグ化タンパク質およびGFP融合タンパク質とは?

内在性タンパク質には「タンパク質タグ」や「ペプチドタグ」が存在しないため、アッセイでの検出が困難な場合があります。検出を容易にするための解決策として、遺伝子組換え技術によって目的タンパク質に「タンパク質タグ」や「ペプチドタグ」を融合させる方法があります。タグを付加したタンパク質は、免疫沈降(IP:Immunoprecipitation)、顕微鏡観察、タンパク質精製、ウェスタンブロット(WB:Western blot)、タンパク質アレイ等に使用することができます。GFPタグを融合させたタンパク質は、「GFPタグ化タンパク質(GFP-tagged protein)」あるいは「GFP融合タンパク質(GFP-fusion protein)」と呼ばれます。多くの場合、GFP融合タンパク質は蛍光顕微鏡観察、免疫沈降(IP)、タンパク質精製、ウェスタンブロット(WB)を行う際に使用されます。

 

5. GFPの蛍光スペクトルと最大励起波長

オワンクラゲ(Aequorea Victoria)由来の野生型GFP(wtGFP、avGFP)の励起スペクトルは、395nm付近の主ピークと、475nm付近の副ピークを有します。野生型GFP(wtGFP、avGFP)の蛍光スペクトルのピークは509nmです。

 

最大励起波長

最大蛍光波長

野生型GFP(wtGFP、avGFP)

395nm / 475nm

509nm

EGFP(最も一般的な組換えGFP、詳細は以下のサイトをご覧ください)

488nm

507nm

詳細情報:https://www.fpbase.org/protein/avgfp/(野生型GFP)またはhttps://www.fpbase.org/protein/egfp/(EGFP)をご覧ください。

 

6. GFPを使用できるアプリケーションとは?

GFPは以下に示すような数多くの様々なアプリケーションに使用されています。

  • タンパク質のイメージング(落射蛍光顕微鏡、共焦点顕微鏡、超解像顕微鏡)
  • レポーターアッセイ(転写研究)
  • シグナル伝達研究(蛍光共鳴エネルギー移動(FRET:fluorescence resonance energy transfer))
  • 生化学的アプリケーション(免疫沈降(IP)、タンパク質精製)
  • バイオセンサー(pH、カルシウム濃度)

 

7. GFPバリアント(誘導体、変異体/改変体)

多くの蛍光タンパク質は、野生型GFPの配列を基に生み出されました。GFPバリアント(誘導体、変異体/改変体)は、遺伝子組換え技術を用いて作製されており、励起/蛍光スペクトル、光安定性・pH安定性、折りたたみ速度、半減期等の特性が異なります。以下に一般的なGFPバリアントの名称を挙げています。

BFP

GFP Envy

Superfolder GFP(sfGFP)

CFP

GFP S65T

yeast EGFP

AcGFP

GFPSpark

Citrine

Clover

GFPuv

Ecitrine

EGFP

mClover(Clover A260K)

EYFP

Emerald

mEGFP

Venus

G3GFP

mGFP(monomeric GFP)

YFP

GFP

Monomeric EGFP A206K

Ypet

GFP(cycle 3)

mPhluorin

 

GFP5

PA-GFP

 

以下のデータベースには、野生型GFP(wtGFP、avGFP)に起源を持つすべてのGFPバリアントが掲載されています。
https://www.fpbase.org/protein/avgfp/ 

 

8. GFPの構造

野生型GFP(wtGFP、avGFP)やGFPバリアントの1つであるEGFP(enhanced GFP)を含むGFPタンパク質はβバレル構造を有しています。βバレルの中心部には3つのアミノ酸残基が存在し、このアミノ酸残基の側鎖の環化および酸化により2つの環状構造を有する発色団が形成され、蛍光が発生します。

EGFPの三次構造と蛍光コアの拡大図

左:GFPバリアントであるEGFP(enhanced GFP)のβバレル構造と蛍光コア
右:蛍光コアの拡大図、2つの環状構造を有する発色団

 

9. GFPが蛍光を発する理由・原理

GFP中の2つの環状構造を有する発色団が励起光を吸収し、緑色の可視光を放出します。
この2つの環状構造を形成する発色団は、GFP中のβバレル構造の中心部に位置しています。野生型GFPの場合、Ser-65、Tyr-66、Gly-67の3つのアミノ酸残基の酸化および環化による環状構造の形成に伴い、発色団が形成され、蛍光を発するようになります。このプロセスはタンパク質フォールディングの際に生じ、pH、温度、酸素濃度等の様々な要因に影響を受ける場合があります。

 

10. EGFPのサイズ

アミノ酸残基数:239残基
分子量(Da):26.9kDa

 

11. EGFPの特性

モル吸光係数:55900M-1cm-1
成熟時間(発現から蛍光を発するまでに要する時間)(37℃):25分

 

12. EGFPの配列

アミノ酸配列

10

20

30

40

50

MVSKGEELFT

GVVPILVELD

GDVNGHKFSV

SGEGEGDATY

GKLTLKFICT

60

70

80

90

100

TGKLPVPWPT

LVTTLTYGVQ

CFSRYPDHMK

QHDFFKSAMP

EGYVQERTIF

110

120

130

140

150

FKDDGNYKTR

AEVKFEGDTL

VNRIELKGID

FKEDGNILGH

KLEYNYNSHN

160

170

180

190

200

VYIMADKQKN

GIKVNFKIRH

NIEDGSVQLA

DHYQQNTPIG

DGPVLLPDNH

210

220

230

   

YLSTQSALSK

DPNEKRDHMV

LLEFVTAAGI

TLGMDELYK

 

出典:https://www.uniprot.org/uniprot/C5MKY7 

 

DNA配列/塩基配列(EGFPタンパク質のコード配列)

atggtgagca

agggcgagga

gctgttcacc

ggggtggtgc

ccatcctggt

cgagctggac

60

ggcgacgtaa

acggccacaa

gttcagcgtg

tccggcgagg

gcgagggcga

tgccacctac

120

ggcaagctga

ccctgaagtt

catctgcacc

accggcaagc

tgcccgtgcc

ctggcccacc

180

ctcgtgacca

ccctgaccta

cggcgtgcag

tgcttcagcc

gctaccccga

ccacatgaag

240

cagcacgact

tcttcaagtc

cgccatgccc

gaaggctacg

tccaggagcg

caccatcttc

300

ttcaaggacg

acggcaacta

caagacccgc

gccgaggtga

agttcgaggg

cgacaccctg

360

gtgaaccgca

tcgagctgaa

gggcatcgac

ttcaaggagg

acggcaacat

cctggggcac

420

aagctggagt

acaactacaa

cagccacaac

gtctatatca

tggccgacaa

gcagaagaac

480

ggcatcaagg

tgaacttcaa

gatccgccac

aacatcgagg

acggcagcgt

gcagctcgcc

540

gaccactacc

agcagaacac

ccccatcggc

gacggccccg

tgctgctgcc

cgacaaccac

600

tacctgagca

cccagtccgc

cctgagcaaa

gaccccaacg

agaagcgcga

tcacatggtc

660

ctgctggagt

tcgtgaccgc

cgccgggatc

actctcggca

tggacgagct

gtacaagtaa

720

出典:https://www.ebi.ac.uk/ena/browser/view/ACS32473

 

13. GFP抗体および抗GFP VHH抗体(Nanobody®)

プロテインテックは、GFPを認識する様々なタイプのポリクローナル抗体やモノクローナル抗体、およびVHH抗体(Nanobody®)を販売しています。

  • 免疫沈降(IP):クロモテックの抗GFP VHH抗体(Nanobody®)を採用した「GFP-Trap®
    • 非常に低いバックグラウンド
    • 抗体重鎖および軽鎖のコンタミネーションを生じません
    • 厳しい洗浄バッファー条件にも適合
  • 免疫蛍光染色(IF):GFP-Booster
    • 優れた組織浸透性
    • 高解像度の画像を撮影可能
  • ウェスタンブロット(WB):GFP抗体(カタログ番号:3h9)(ラットモノクローナル抗体)
  • 免疫蛍光染色(IF):GFP抗体(カタログ番号:pabg1)(ウサギポリクローナル抗体)

 

14. 免疫沈降用ビーズ結合GFP抗体

クロモテックでは、免疫沈降用のビーズ担体と結合させた抗GFP VHH抗体(Nanobody®)、および未標識抗GFP VHH抗体(Nanobody®)を販売しています。
GFP-Trap Agarose:アガロースビーズ結合抗GFP VHH抗体(Nanobody®)
GFP-Trap Magnetic Agarose:磁性アガロースビーズ結合抗GFP VHH抗体(Nanobody®)
GFP-Trap® Magnetic Particles M-270:磁気ビーズ(M-270)結合抗GFP VHH抗体(Nanobody®)(分子量の大きなタンパク質/複合体の免疫沈降に適した製品です)

GFP VHH抗体(Nanobody®)関連製品:抗GFP VHH抗体(Nanobody®)を使用した製品です。

 

15. 無料サンプルリクエストフォーム

プロテインテックでは、GFP-Trap®のサンプルを無償で提供しています。下記フォームよりご依頼ください。

無料サンプルリクエストフォーム

(※ 国内におけるプロテインテック製品の出荷および販売は、コスモ・バイオ株式会社を通じて行っております。
最寄りのコスモ・バイオ株式会社 代理店をご指定の上、ご依頼ください。)

16. FAQ

Q. GFP抗体を使用して、YFPやCFP等のGFP誘導体を検出することはできますか?

A. GFP誘導体を検出できるか否かは、GFP抗体の特性に依存します。GFPやEGFPとアミノ酸配列が類似しているGFP誘導体であれば、GFP抗体の多くはそのGFP誘導体を検出することができます。例えば、GFP-Trap®はAcGFP、Clover、EGFP、Emerald、GFP5、GFP Envy、GFP S65T、mGFP、mPhluorin、PA-GFP、Superfolder GFP、TagGFP、TagGFP2、monomericEGFP K206A、CFP、YFP、Citrine、eCitrine、eYFP、Venus、Ypet、BFP等を認識することができます(GFP-Trap®が認識できるすべての誘導体は「Fluorescent Protein Specificity by Nano-Trap[PDF]」をご覧ください)。

Q. 固定処理を実施してもGFPの蛍光は観察できますか?

A. 固定化の方法や手順によっては蛍光を観察できる場合もありますが、一概には回答できません。