植物研究におけるGFP(緑色蛍光タンパク質)の利用
GFPが植物研究で広く使用されている理由について解説します。
GFP(緑色蛍光タンパク質、green fluorescent protein)は、1962年に下村脩(しもむら おさむ)博士によってオワンクラゲ(Aequorea Victoria)より初めて単離された蛍光タンパク質です。しかし、その後GFPの完全な遺伝子配列がクローニングされ、大腸菌(E. coli)や線虫(C. elegans)等においてタンパク質マーカーとして利用されるようになるまでには30年以上の年月を要しました。以後、GFPは最も幅広く研究され、ライフサイエンス研究分野で頻繁に活用されるタンパク質の1つに発展しました。こうした成果に相応するようにGFPの重要性は認知され、ノーベル委員会は「緑色蛍光タンパク質(GFP)の発見とその応用」の業績を評価して、2008年に下村脩博士、Martin Chalfie博士、Roger Tsien博士にノーベル化学賞を授与しました。
GFPが植物研究にも広く使用されている理由とは?
GFPは、細菌や動物への応用に次いで、植物研究においても多目的に利用可能なツールとして確立されました。GFPは、際立って優れた特性によって、あらゆる種類の植物の研究において有力なレポータータンパク質の1つとなりました。
- 分子量=26.9kDaと比較的小型であり、目的タンパク質の機能に影響を及ぼさずN末端やC末端に融合させることが可能です。
- 基質や補因子を別途添加する必要がなく、GFPの蛍光を直接的に観察可能で、比較的光退色しにくい傾向があります。
- 幅広いpH・酸化還元電位で安定性を示します。この特性は、植物細胞の様々な細胞小器官に発現させたGFPを解析する上で特に重要となります。
- 変性剤中で長時間インキュベーションした後でも蛍光を発します。この特性は、例えば、6M塩酸グアニジン、8M尿素、1% SDS溶液等を用いたサンプル調製を実施する場合に重要となります。
- 高い熱安定性を示します。
- 異なる科や属の様々な植物において、細胞の種類や局在を問わず良好に発現します。
- 24時間経過してもほぼ分解せず安定的に発現し、植物細胞に対して軽度な細胞毒性しか示しません。
長年の間に、様々なGFPバリアント(誘導体、変異体/改変体)や別の種類の蛍光タンパク質が発見され、研究用ツールとして発展しています。
植物研究においてGFPが使用されるアプリケーションとは?
GFPは、単一の植物細胞から植物体に至るまで、植物研究における万能なレポータータンパク質として利用される機会が増加しています。
- in vivoのレポータータンパク質として、一過性発現系や安定発現系において形質転換した目的遺伝子の発現頻度を評価するために用いられます。
- 目的タンパク質の輸送や細胞内局在のモニタリングに用いられます。
- 全葉や植物体中のGFPを顕微鏡観察して、その様子を撮影します。
- 植物体の内部に存在するウイルスの挙動のモニタリングに用いられます。
- 研究施設等で導入遺伝子の挙動や遺伝子組換え植物のモニタリングに用いられます。
2008年以来、クロモテック(2020年よりプロテインテックの一部)のGFP-Trap®は、植物研究で幅広く利用されています。植物に導入したGFP融合タンパク質やGFP融合タンパク質と相互作用する物質を、免疫沈降(IP:Immunoprecipitation)によって定量/定性解析した250報以上の論文における使用実績があります。
GFP-Trap®が植物研究に有益な理由
- 細胞抽出液の液量が大容量の場合でも、GFP-Trap®のスラリー(slurry)が25μLあれば十分に目的物質を回収可能です。
一般的に、GFPタグ融合タンパク質等の組換えタンパク質は、植物内に低レベルで発現させることしかできません。したがって、グラム(g)単位で植物試料を使用する必要があり、約1~10mLにおよぶ大容量のライセートサンプルから目的タンパク質を抽出しなければなりません。GFP-Trap®は、GFPに対して高い親和性を示すため、わずか25μLのビーズスラリーを用いるだけで免疫沈降を実施可能です。
- 発現量の少ないタンパク質を効率的に捕捉します。
植物細胞のGFP融合タンパク質の発現レベルは微量であることが多いため、細胞ライセート中のGFP融合タンパク質濃度が非常に低くなる場合があり、時にはウェスタンブロット(WB:Western Blot)の検出限界値を下回ることがあります。しかし、GFP-Trap®は溶液中のGFPタグ融合タンパク質の存在量が極めて微量(<1ng)であっても、効率的に目的タンパク質と結合し、ウェスタンブロットで検出できるだけの濃度に濃縮することができます。
- 厳しい条件の溶解バッファーであっても免疫沈降に影響を及ぼしません。
植物細胞抽出物の免疫沈降を実施する際は、多くの場合、溶解バッファーにグリセロール、還元剤、界面活性剤等を添加して、GFP融合タンパク質を溶液中に可溶化させた状態にします。GFP-Trap®は、作用の強い成分の濃度が高くなったとしても、目的タンパク質に対する結合能や回収効率を損なうことなくパフォーマンスを維持します。
- 厳しい洗浄条件でバックグラウンドを最小限に抑えます。
多量の植物細胞を溶解した高濃度の植物細胞抽出液を免疫沈降すると、どのような種類の免疫沈降用樹脂担体であっても、非特異的な物質が結合する傾向があります。同様に、GFP-Trap®に使用されている抗GFP VHH抗体(別名:Nanobody®)が結合する樹脂担体についても、非特異的な結合が生じる場合があります。しかし、GFPタンパク質‐抗GFP VHH抗体(Nanobody®)からなる複合体は著しく高い安定性を維持し、何度も洗浄操作を実施可能で、界面活性剤や塩濃度の高い、厳しい洗浄条件のバッファーを使用することができます。そのため、ビーズ担体にGFP融合タンパク質が結合した状態を維持したまま、厳しい洗浄条件によって、植物タンパク質由来の非特異的なバックグラウンドを効果的に最小限に抑えることができます。
植物タンパク質サンプルのウェスタンブロットに推奨される抗体とは?
植物のGFPタグ融合タンパク質のウェスタンブロット解析を行う場合は、バックグラウンドが極めて低い結果を得られるため、プロテインテックのChromoTek GFP Monoclonal antibody(3H9)(ラットモノクローナル抗体)をおすすめします。
アプリケーションノート:シロイヌナズナ(A. thaliana)のGFP融合タンパク質の免疫沈降
プロテインテックは、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)で発現させたGFPタグ融合タンパク質の免疫沈降に関するアプリケーションノートを公開しています。このアプリケーションノートは、70報以上の査読付き論文を基に、サンプルの準備から免疫沈降で目的物質を回収するまでの各ステップについて、順を追って解説するプロトコールで構成されています。タバコ、イネ、ナス、ペチュニアやその他の植物で免疫沈降を実施する場合にも、このプロトコールを参考に実験を計画することができます。
アプリケーションノート「How to conduct a GFP-fusion protein immunoprecipitation of Arabidopsis thaliana plant samples with ChromoTek's GFP-Trap(言語:英語)」はこちらからダウンロードできます。
シロイヌナズナ(A. thaliana)のGFP融合タンパク質の免疫沈降[PDF](言語:英語)
プロテインテックではGFP-Trap®のサンプルを無償で提供しています。下記フォームよりご依頼ください。
(※ 国内におけるプロテインテック製品の出荷および販売は、コスモ・バイオ株式会社を通じて行っております。
最寄りのコスモ・バイオ株式会社 代理店をご指定の上、ご依頼ください。)
GFP-Trap®の概要については、アルパカの「アリス」によるNano-Trapシリーズの紹介動画をご覧ください(言語:英語)。
クラゲ画像:Sid Balachandran氏撮影(Unsplashより)
参考文献
R Y Tsien. The green fluorescent protein. Annu Rev Biochem. 1998;67:509-44.