SARS-CoV-2研究に蛍光タンパク質を活用する方法
新型コロナウイルスを含むウイルス研究には、緑色蛍光タンパク質(GFP)や赤色蛍光タンパク質(RFP)、その誘導体がよく使用されます。
緑色蛍光タンパク質(GFP:Green Fluorescent Protein)や赤色蛍光タンパク質(RFP:Red Fluorescent Protein)、その誘導体を含む蛍光タンパク質(FP:Fluorescent Protein)は、新型コロナウイルスを含むウイルスの研究に一般的に用いられています。多くの場合、蛍光タンパク質は、顕微鏡観察やセルソーティング(FACS:Fluorescence-activated cell sorting)実験の蛍光マーカーとして利用され、タンパク質精製、免疫沈降(IP:Immunoprecipitation)、タンパク質相互作用アッセイの「タグ」としても利用されます。本稿では、現在の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)研究における、蛍光タンパク質の利用方法に関する概要を紹介します。本稿で取り上げる内容はSARS-CoV-2に関する全ての情報を網羅するものではなく、また、紹介する論文の一部は査読のないプレプリントの研究であることに留意ください。
SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)と蛍光タンパク質
ウイルスタンパク質精製
タンパク質精製に蛍光タンパク質タグが利用される機会は、エピトープタブ/ペプチドタグと比べて多くはありませんが、SARS-CoV-2の構造成分の1つであるスパイクタンパク質(スパイク糖タンパク質)の受容体結合ドメイン(RBD:Receptor Binding Domain)の精製に黄色蛍光タンパク質(YFP:Yellow Fluorescent Protein)を使用した論文が公開されています(DOI: 10.1101/2020.04.16.045419)。論文の著者らは、哺乳類細胞でRBD-vYFP(Venus YFP)融合タンパク質を発現させ、抗GFP VHH抗体(別名:Nanobody®)を固定化した樹脂担体を用いて、細胞抽出物からRBD-vYFP融合タンパク質を単離しています。RBD-vYFP融合タンパク質は、酸性バッファーを用いて樹脂担体から溶出されました。RBDからvYFPを切断・除去するとRBDの安定性が損なわれたことから、完全長のRBD-vYFP融合タンパク質を使用してアッセイを実施しています。
クロモテック(2020年よりプロテインテックの一部)のGFP-Trap®等のNano-Trapシリーズは、RBDのようなウイルスタンパク質も含め、蛍光タンパク質融合タンパク質の精製に非常に適しています。Nano-Trapはタンパク質精製に利用できる他に、蛍光タンパク質融合ウイルスタンパク質の免疫沈降(IP)に利用でき、ウイルスや宿主細胞由来の潜在的な相互作用因子の探索に用いることができます。
蛍光顕微鏡観察
蛍光タンパク質は、レポータータンパク質として利用でき、顕微鏡観察でウイルスタンパク質を可視化するための理想的なツールです。本ブログ記事を投稿した時点では、2種類のアプローチが報告されています。
- 蛍光タンパク質を発現するレポーター遺伝子をウイルスゲノムに導入して、ウイルス自体を蛍光タンパク質で標識します。ウイルスが宿主細胞に感染し、ウイルスタンパク質が産生される際に蛍光タンパク質も発現します。その結果、感染細胞は蛍光タンパク質で標識され、蛍光シグナルによって可視化されます。
- ウイルスの構成タンパク質に蛍光タンパク質を融合し、組換え技術を用いて細胞中に発現させます。蛍光タンパク質シグナルは、構成タンパク質の局在解析、特性解析や相互作用物質の探索に使用できます。
超解像顕微鏡観察を実施する場合、蛍光タンパク質は光褪色しやすく、シグナル強度が比較的弱いことが欠点となり得ます。プロテインテックが提供するNano-BoosterシリーズのGFP-Boosterは、蛍光色素が結合した抗GFP VHH抗体(別名:Nanobody®)です。GFP-Boosterは、蛍光タンパク質に特異的に結合することでこのような欠点を克服し、シグナル強度を安定化および増強します。
プロテインテックのNano-Booster & Nano-Label(ナノブースター&ナノラベル)
フローサイトメトリー/FACS
フローサイトメトリーやFACS解析では、任意の蛍光色素や蛍光タンパク質で標識された細胞または細胞表面の蛍光シグナルを検出します。そのため、蛍光タンパク質は、フローサイトメトリーやFACSに利用することができます。
- 蛍光タンパク質を発現するウイルスを細胞に感染させます。感染した細胞を、蛍光シグナルに基づき計測・分取します。
- 蛍光タンパク質融合ウイルスタンパク質を発現する細胞を作製し、計測・分取します。
- 蛍光タンパク質融合ウイルスタンパク質を培地に添加して、細胞培養を実施します。ウイルスタンパク質と培養細胞が相互作用する場合、細胞表面上の分子に蛍光タンパク質融合ウイルスタンパク質が結合します。蛍光シグナルを示す細胞を計測します。
蛍光タンパク質のシグナル強度が不十分な場合や、蛍光タンパク質由来の蛍光波長以外で観察する場合は、プロテインテックのNano-Boosterをご検討ください。例えば、赤色チャネルでGFPを解析する必要がある場合、GFP-Booster Alexa Fluor® 647を使用することで、赤色蛍光色素が抗GFP VHH抗体(別名:Nanobody®)を介してGFP融合タンパク質に結合し、GFPの局在を赤色波長で確認することができます。
蛍光タンパク質を用いた論文紹介
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