「Spot-Cap®(スポットキャップ)」はタンパク質精製実験における抗体系アフィニティ樹脂の制限を克服する

高い効率でワンステップのSpot-tag®融合タンパク質精製を実現します。

 

はじめに

組換えタンパク質を精製・回収するための確立された戦略として、ペプチドタグ融合タンパク質を発現後、アフィニティ樹脂を利用して精製する方法があります。ペプチドタグ(エピトープタグとも呼ばれる)とアフィニティ樹脂担体により、様々な純度と存在量のタンパク質を回収することができます。ただし実際に回収されるタンパク質の純度や収量は、精製するタンパク質によっても左右されます。
 

Spot-Cap、IgG系結合樹脂担体、化学リガンド系樹脂担体の比較(精製ステップ数、コスト、結合能、再利用、溶出効率、溶出条件、バッファー添加剤耐性)

表中の「抗体(IgG)系結合樹脂担体(IgG-based resins)」の長所である高い選択性(シングルステップでの精製と高いアフィニティ)と、「化学リガンド系樹脂担体(Ligand-based resins)」の長所である高い結合能(結合量)、様々な種類のバッファー中における安定性、および溶出の容易さ・効率性を兼ね備えることは可能でしょうか?

 

Spot-Cap®(スポットキャップ)とは?

Spot-Cap®(カタログ番号:eca-ep)は、アガロースビーズに結合した抗Spot-tag®VHH抗体(Nanobody®)です。VHH抗体(別名:Nanobody®)は、ラクダ科動物由来の重鎖抗体の結合ドメインで、単一ドメイン抗体(Single domain antibody)とも呼ばれます。Spot-Cap®は「抗体系樹脂担体」と「化学リガンド系樹脂担体」の長所を兼ね備えたタンパク質精製試薬になり得る新製品です。

Spot-tag®(Spotタグ®)とは?

Spot-tag®は、立体構造の制約が少ない、分子量約1.4kDaの12アミノ酸残基(アミノ酸配列:PDRVRAVSHWSS)からなるペプチドタグです。Spot-tag®は、構造が柔軟であることから、Spot-tag®を挿入して得られるSpot-tag®融合タンパク質は、タンパク質本来のフォールディングとすべての機能性を維持します。Spot-tag®は、目的タンパク質のN末端やC末端に融合させることが可能であり、膜貫通型タンパク質の場合は内部領域に融合させることも可能です。そのため、クローニングやタンパク質発現時に柔軟性を十分に発揮します。

chromotekのSpot-capタンパク質の構造

挿入されるSpot-tag®は分子量が小さく、タンパク質精製後に実施する様々なアッセイに対して適合性を示すため、精製後にタグを除去する操作は不要です。Spot-tag®は、分泌タンパク質、金属タンパク質、膜タンパク質、存在量の少ないタンパク質、分解しやすいタンパク質、複数のサブユニットを有するタンパク質複合体等の様々な種類のタンパク質の精製に使用することができます。

 

抗体(IgG)系樹脂担体と比較した場合のSpot-Cap®をタンパク質精製に使用する利点

高い結合能(結合量)

費用対効果の高いタンパク質精製を実施するには、高い結合能(結合量)が求められます。一般的な抗体(IgG)系樹脂担体は、結合能が低い傾向にあります。しかし、Spot-Cap®は>340nmol/1mL settled resin(>タンパク質10mg/1mL settled resin)と、一般的な免疫グロブリン系樹脂担体よりも10倍程度高い結合能を示します。

再生して繰り返し利用可能

高い結合能以外に「再生可能回数」も組換えタンパク質精製のコスト効率に寄与します。多くの場合、樹脂担体の再生は厳しいバッファー条件で実施するため、再生処理後の免疫グロブリン系樹脂担体の機能(結合性)に影響を及ぼします。対照的に、Spot-Cap®は厳しいバッファー条件を適用しても結合能を損なうことなく、最低5回は再生利用することができます。

高い親和性

樹脂担体が効率的に目的タンパク質(タグ融合タンパク質)と結合するには、樹脂担体の「アフィニティ定数(解離定数、Kd値)」がタグ融合タンパク質の濃度に対して10倍以上低い範囲であることが求められます。すなわち、使用する樹脂担体には高い親和性が必要です。発現量の少ないタンパク質の場合、高い親和性の精製用樹脂担体を使用しない限り、効率的に回収することはできません。Spot-Cap®の樹脂担体はSpot-tag®との親和性が高いため、低い濃度のSpot-tag®融合タンパク質を含む大容量のサンプルであっても、目的融合タンパク質と効率的に結合することができます。

4℃で穏やかに溶出可能

組換えタンパク質の安定性や構造の完全性への影響を最小限に抑えるには、低温で精製操作を実施する必要があります。親和性の高い抗体系精製用樹脂担体の場合、完全に目的タンパク質を溶出できない可能性があり、温度を下げることでさらに収量が低下するおそれがあります。対照的に、Spot-Cap®からSpot-tag®融合タンパク質を溶出する操作は、4℃での作業に最適化されており、一貫した穏やかな条件で溶出することができます。

穏やかな競合溶出法で溶出可能

抗体系タンパク質精製用樹脂担体は、最大2mMの高濃度ペプチド溶液か、特定の競合物質を添加して溶出する必要があります。競合物質を添加する方法は、精製後に実施するアプリケーションに干渉するおそれがあり、取り除く作業は単調で時間を要します。抗体系タンパク質精製用樹脂担体から目的タンパク質を溶出する場合によく用いられるその他の方法として、pH2程度の酸性条件のバッファーを使用する方法があります。しかしながら、酸性条件のバッファーによる溶出方法は、目的タンパク質を損傷させる場合があるため、精製後に目的タンパク質の構造や機能を評価するアッセイの実施時には適した方法ではありません。Spot-Cap®の場合は、わずか0.1mMのSpot-peptideによって目的タンパク質を溶出することが可能であり、余分なSpot-peptideは溶出後にフィルターろ過や透析によって容易に除去することができます。

迅速なワンステップのタンパク質精製

抗体(IgG)系樹脂担体は、選択性や親和性が高いため、通常は1回の精製ステップで、純度の高い組換えタンパク質を得ることができます。溶出操作を1回で完了できることで、溶液中の精製タンパク質濃度は高くなり、コストを抑えることができます。さらに、目的タンパク質に影響を及ぼすおそれのある洗浄バッファーや溶出バッファー等に目的タンパク質を暴露する機会を最小限に抑えられます。化学リガンド系樹脂担体は特異性が低い傾向にあるため、追加の精製操作を必要とする場合があります。Spot-Cap®はSpot-tag®に対する選択性が高いため、発現細胞由来のタンパク質(宿主細胞由来タンパク質)のコンタミネーションを最小限に抑えることができ、ワンステップの操作で目的タンパク質を精製することができます。

膜タンパク質精製を実施する場合の界面活性剤の適合性

膜タンパク質の場合、精製時にタンパク質が溶液中に可溶化した状態を維持するために、臨界ミセル濃度(CMC:critical micelle concentration)よりも高い濃度の界面活性剤溶液を使用して精製操作を行います。タンパク質を可溶化した時にペプチドタグが界面活性剤で被覆され精製用樹脂担体と接触できなくなる場合は、ペプチドタグを挿入する場所を検討しなければなりません(ペプチドタグは、N末端、C末端、タンパク質の内部に挿入できます。ただしタンパク質修飾の過程で切断されず、輸送や局在に干渉しない部位に挿入する必要があり、タンパク質局在に干渉しないことが多いC-末端側への挿入が好ましい場合があります)。疎水性相互作用によって成り立つIgGの複雑な構造は、界面活性剤によって損なわれる可能性があるため、抗体系樹脂担体は界面活性剤を含有する溶液中で不安定になるおそれがあります。しかし、Spot-Cap®に使用されている抗Spot-tag®VHH抗体(Nanobody®)は、2% DDM、2% NP-40、2% Triton X-100等の界面活性剤濃度の高い溶液中でも、Spot-tag®と結合する機能を維持します。また、Spot-tag®はタンパク質内部に挿入可能なだけでなく、N末端とC末端の両方に挿入可能です。

還元剤・カオトロピック剤の適合性

様々なバッファーに適合し化学的に安定な精製用樹脂担体の利用は、精製するタンパク質が特定のバッファー条件に敏感である場合だけでなく、特別に調製したバッファーを使用して取り扱う必要がある場合にも有利です。バッファー条件に敏感なタンパク質を可溶化するには、還元剤あるいはカオトロピック剤のような成分を含有する特別なバッファーが必要となる場合があります。還元剤やカオトロピック剤を含有するバッファーの多くは抗体系精製用樹脂担体には適合しません。還元剤によって免疫グロブリン中のジスルフィド結合が切断され抗体の形状が崩壊するため、抗体系精製用樹脂担体を使用する際は還元剤の有無や濃度に注意する必要があります。対照的に、Spot-Cap®は1M NaCl等の塩濃度の高いバッファーや、2M尿素等のカオトロピック剤、あるいは10mM DTT、10mM β-メルカプトエタノール、10mM TCEP等の還元剤を含有するバッファー中でも、Spot-tag®と結合する機能を維持します。

 

まとめ

Spot-Cap®(スポットキャップ)は、Spot-tag®融合タンパク質精製用樹脂担体であり、アガロースビーズに結合した新規VHH抗体(Nanobody®)で構成されます。Spot-Cap®は、Spot-tag®融合タンパク質を回収するために高い結合能と選択性を発揮できるよう開発されています。Spot-tag®融合タンパク質は、4℃の温度条件で0.1mMの低濃度Spot-peptide溶液を用いてSpot-Cap®から効率的に溶出することができます。Spot-Cap®のタンパク質精製用樹脂は複数回再生可能であるため、従来型のIgG抗体を使用した樹脂よりもコスト効率に優れる代替品となり得ます。本稿で述べた特徴によって、Spot-Cap®は目的タンパク質を高純度かつ高回収率で精製することができます。

Spot-tag®に関する詳細な情報はこちらをご覧ください:https://www.ptglab.co.jp/products/chromotek-nanobody-based-reagents/about/spot-capture-detection-system/

タンパク質精製用Spot-Cap®に関する情報は製品ページをご覧ください:https://www.ptglab.co.jp/products/Spot-Cap-and-Peptide-eca-ep.htm