自家蛍光を減らす方法

自家蛍光の原因と対処法について解説します。

免疫蛍光染色(IF)は、一般的な抗体ベースの手法であり、組織や細胞内のタンパク質の発現や分布を解析するために使用されます。従来の発色性染色と比較してIFを使用する利点の1つに、別々の蛍光色素の蛍光スペクトルを利用して同じスライド上の複数のターゲットを観察する多重染色が容易であることが挙げられます。また、比較的高感度で幅広いダイナミックレンジを有することから、高発現タンパク質と共に低発現タンパク質を観察することが可能で、タンパク質-タンパク質の共局在を確認することもできます。しかし、IFのアーチファクトの1つに特定の試料中の自家蛍光の存在があります。これにより発現量の少ないターゲットの発現がマスクされる場合や染色が不明瞭になる場合があります。残念ながら、この現象はスライドの特異的染色とノイズの識別を困難なものにします。

自家蛍光とは?

自家蛍光とは、抗原-抗体-蛍光色素相互作用による特異的な染色に起因しない、組織内のバックグラウンド蛍光であるとされます。自家蛍光にはいくつかの原因があり、この影響を最小限に抑えるための実験手順があります。

架橋固定による自家蛍光

組織固定のための一般的な方法は、ホルマリン等の化学的架橋剤の使用です。これらの固定剤は、タンパク質同士を結合させる共有結合の形成に作用し、組織の構造を保存する不溶性のメッシュを形成します。不適切なアルデヒド固定を行うと、アルデヒドとアミンが結合してシッフ塩基を形成し、自家蛍光が生じます(グルタルアルデヒド>パラホルムアルデヒド>ホルムアルデヒド、PMID:6404984)。
このような固定による自家蛍光は、幅広い蛍光スペクトルを示し、青、緑、赤のスペクトル領域で生じます(PMID:24722432)。また、試料の熱や脱水によっても自家蛍光が増加することがあり、その影響は赤色スペクトルでより大きくなります。自家蛍光を最小限に抑える最良の方法は、必要最小限の時間で試料を固定することです。水素化ホウ素ナトリウムによる処理も自家蛍光を抑えるために行われています(PMID:9765122)が、変動的な影響があるためにあまり推奨されません。別の方法としては、その他の固定剤を使用することです。例えば、冷エタノール(-20℃)等の有機溶媒で、これは細胞に適している固定剤です。

ホルマリン固定パラフィン包埋腎臓組織の自家蛍光画像(緑色フィルター) ホルマリン固定パラフィン包埋腎臓組織の自家蛍光画像(近赤外フィルター)
図1. 緑(左)と近赤外(右)のフィルターを使用して撮影した、染色していないホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)腎臓組織の内在性自家蛍光。近赤外フィルターを使用すると、バックグラウンドの自家蛍光がかなり目立たなくなります。

内在性色素の自家蛍光

自家蛍光は、組織由来の化合物が原因で発生することもあります。赤血球中のヘム基は、ポリフィリン環構造を持つために幅広いスペクトルの自家蛍光を示し、解析が難しくなる可能性があります(PMID:29058770)。これを最小限に抑える最良の方法は、固定前にPBSで灌流することです。しかし、死後に採取した組織や胚組織等の組織試料では、PBS灌流が不可能な場合があります。いくつかのケースでは、低pHでCuSO4およびNH4Clで処理することによって、またはH2O2で組織をブリーチすることによって、自家蛍光が低減することが認められています。
その他の問題のある内在性色素には、コラーゲン、NADH、リポフスチン等があります。コラーゲンは、発現量の多い偏在性の構造タンパク質で、300~450nm付近の青色領域の発光スペクトルを有しています。NADHは代謝で多くの役割を果たす必要不可欠な酵素であり、肝臓等の代謝が活発な細胞や組織ではその量が増加します。NADHは450nm付近の発光スペクトルを有しています(PMID:11830520)。したがって、コラーゲンやNADH等(青/緑のスペクトルを示す)の化合物濃度が高い組織を染色する場合、CoraLite®594CoraLite®647のような赤色から近赤外領域の発光スペクトルを持つ蛍光色素を選択すると、特異的な染色を自家蛍光と区別することができます。リポフスチンは、顆粒状の親油性色素であり、骨格筋、神経細胞、心臓等多くの組織のリソソームに、加齢とともに蓄積します。リポフスチンは広範なスペクトル領域で蛍光を示し、500~695nmの蛍光強度が最も高く、その顆粒状の外観により特異的染色と間違われる可能性があるという、別の問題がある化合物です。そうした現象が起きないようにするにあたり、親油性色素であるSudan Black B(ズダンブラックB/スーダンブラックB)はこの自家蛍光を効果的に排除することができます(PMID:10330448)。しかし、Sudan Black Bは近赤外波長領域で蛍光を発するため、多重染色パネルを計画する際に考慮しなければなりません。

Coralite標識抗体に関する詳細はこちらをご覧ください

自家蛍光トラブルシューティングのまとめ

自家蛍光が実験で問題になっている場合、これらの一般的な重要ポイントを押さえることで、いくつかの問題を解決し、自家蛍光を抑制できるかもしれません。

• 可能であれば、架橋固定剤の代替品を使用するか、グルタルアルデヒドの代わりにパラホルムアルデヒドを試してみてください。そして、固定時間は常に必要最低限にしましょう。
• 水素化ホウ素ナトリウムは、ホルマリンによる自家蛍光を低減させるために使用できます(結果にはばらつきがあります)。
• 赤血球を除去するために、固定前にPBSで組織を灌流します。
• Sudan Black B(ズダンブラックB/スーダンブラックB)やEriochrome Black T(エリオクロムブラックT)等の化合物は、リポフスチンの自家蛍光やホルマリンによる自家蛍光を低減させます。
• 試料の自家蛍光化合物よりも長い波長を発する蛍光色素を使用します。一般的には、CoralLite®647のような近赤外波長に近い蛍光色素が適しています。
• TrueVIEW(Vector Labs社)等の市販の試薬は、様々な原因による自家蛍光を低減させることが示されています。
• 免疫蛍光染色実験における自家蛍光と非特異的結合の程度を明らかにするために、必ず組織内在性コントロール(一次抗体または二次抗体を添加しないで実験)や一次抗体コントロール(二次抗体のみを添加して実験)を設定して実験してください。