博士論文の執筆ガイド:成功に導くポイント10選
Kathryn Green著(Nottingham大学、博士課程最終学年)
博士論文の執筆を前に、憂鬱な気分を抱えている人も多いでしょう。何年もの努力の成果を1つの論文にまとめるという作業の重圧に圧倒されそうに感じているのは、きっとあなただけではありません。
1. 文献調査と精読プロセスを体系化する
博士論文の緒言には、研究成果の背景を適切に説明するための包括的な文献レビューが盛り込まれます。過去に読んだ重要文献を漏れなく管理するために、自分に合った文献管理の仕組みを確立しておくと後々大いに役立ちます。収集・精読した論文の管理方法は多岐にわたり、例えば既読文献を専用フォルダで管理する方法等が挙げられます。実践的なテクニックの1つが、各文献のキーワードや主要な知見を1つにまとめた一覧ファイルの作成です。あらかじめ用意しておくと、論文執筆時に目的の文献を容易に参照することができます。
2. 文献管理ツールを活用する
文献の精読と並行して、参考文献の整理・管理も徹底しましょう。文献管理ツールを活用すれば、作業時間を大幅に節約できると同時に参考文献情報を正確なフォーマットでリスト化できます。無料の文献管理ツールも数多く存在しますが、所属する機関が特定の文献管理ソフトをライセンス契約している場合もあるので、事前に確認してみましょう。本格的な論文執筆作業に入る前に、使用する文献管理ツールの操作方法を把握しておくと作業がスムーズに進みます。また、多くの文献管理ツールには利用する参考文献に注釈やメモを残す機能が備わっています。この機能は、既読文献の管理や文献調査の進捗を把握する際にも重宝します。
表1. 研究者や学生に人気の文献管理ツール
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Web版は無料で利用可能 |
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ブラウザ上で管理する文献管理ツール。文献情報やPDFを簡単に取り込める便利な拡張機能付き |
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インストール型の無料デスクトップアプリ |
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無料版のストレージ容量は最大2 GB。ウェブブラウザからの文献情報の直接保存・引用プラグインを搭載 |
3. 所属機関が定めるガイドラインを事前確認する
多くの大学は参考文献の引用法や論文の体裁について、独自の規定を設けています。実際に執筆する前にあらかじめ確認しておくよう留意しましょう。
4. 論文の構成は早めに計画しておく(ただし、計画の変更には柔軟な姿勢で対応する)
論文の全体的な構成を初期段階から計画しておくと、実際に執筆する際の優れた指針となります。論文の構成案は正式な文書の形式をとる必要はなく、各章で題材にする内容と共に、主な見出しと小見出しを箇条書きで整理する程度で十分です。早めに準備しておくことで論文の全体像が具体化し、論文執筆作業に対する心理的な抵抗感を和らげることができます。また、論文構成の抜け漏れや、論理を補強すべき箇所、重点的に掘り下げたい点を明確にするうえでも役立ちます。ただし、実際に執筆を進めていくと当初の案の見直しが必要になる場合があるということも念頭に置いておきましょう。研究成果から新たな関連性が見えてきたり、様々な角度から論文のストーリーを展開できることが明らかになるケースは珍しくありません。また、作成した構成案について指導担当者やプロジェクトチームと意見を交わすと非常に有益な情報が得られます。
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5. 快適な環境づくりを意識する
執筆に集中できるスタイルは人それぞれで、論文の執筆場所に関する正解やルールはありません。自宅の方が執筆作業がはかどるという人もいれば、ラボで執筆するのを好む人もいます。重要なのは、自分にとって最適な環境を整えるという点です。執筆空間を快適に保ち、必要な資料やデータを揃え、ストレスなく高い生産性を維持できるように工夫しましょう(もちろん、コーヒーをすぐに用意できる環境も重要な条件の1つです)。連日同じ場所でこつこつと執筆作業に取り組んでいると、退屈さを感じて集中力が途切れることがあるかもしれません。そんな時は、環境を変えて気分転換を図るのも有効な手段です。お気に入りのカフェや図書館へ出向いてみたり、温暖で緑豊かな地域に居住しているのであれば公園等へ足を運んでみましょう。
6. 冒頭から順序通りに執筆する必要はない
論文の執筆方法は多種多様で決められた手順はなく、必ずしも1章から順番に書き進める必要はありません。最初に緒言(Introduction)、次に方法(Methods)、結果(Results)、考察(Discussion)の順番で各章を書いていくのが合理的に思えるかもしれませんが、実際には大半の人が最終的な論文構成とはまったく異なる順序で各章を書き進めます。また、執筆範囲を扱いやすい単位に細分化すれば、その時々の状況に合わせてセクション間を自由に行き来しながら執筆を進められます。ずっと同じトピックに取り組み続けると気力を消耗してしまいますが、この方法ならモチベーションを維持しやすくなります。
7. 小さな締切りをこまめに設定する
小さな目標や締切りを設定することで、完了タスクと今後のタスクの管理がスムーズになります。やるべき作業の多さに思い悩む代わりに、次に目指すべき具体的な目標に意欲的に取り組めるでしょう。これらの締切りを達成するたびに自分へのご褒美を用意してモチベーションを維持しましょう。
8. 休息をとる
論文執筆中は、意識して休憩を挟むことが非常に重要です。生産性の高い状態を常に維持できる人はいません。1日のスケジュールに、昼食や午前中のコーヒー休憩といった休息時間を組み込んでおくと効果的です。この方法であれば、作業の区切りの目安となる目標時間も生まれます。あるいは、ポモドーロ・テクニックのように、25分間作業した後は5分間の休憩をとると決めて、集中力を維持するための定期的な休息を挟む方法も効果的です。執筆中に思考停止状態になって行き詰まってしまうことはよくあり、いつのまにか堂々巡りに陥り作業効率が落ちてしまいます。このような事態に陥った場合は一旦手を止め、デスクから離れて休息をとるのが賢明です。リフレッシュして作業に戻れば、休憩前よりも格段に集中して取り組めることを実感できるでしょう。
9. 生産性と執筆した文字数は常に等しいとは限らない
人はその日の成果を目に見える形で確認し、自分の生産性に満足感を得ようとする傾向があります。しかし、博士論文の執筆に関していえば、生産性は書いた文字数で可視化できるとは限らないということを心に留めておきましょう。500ワード執筆できた日もあるのに、今日は50ワードしか執筆できなかったと悲観的にならないでください。生産性はワード数だけでなく、図表の作成、批判的思考、論文読解、結論の取りまとめといった成果としても現れます。そのため、長時間机に向かった後に文字数がほとんど増えていなくても自分を責める必要はありません。
10. 自分のための時間を捻出する
博士論文の執筆は精神的にもきつく困難な作業だからこそ、自分のための時間を意識して捻出しましょう。ランニングや散歩、友人との交流、ゲーム、スポーツ観戦、良書を読むことなど、内容は何であれ、日々の楽しめる習慣をできる限り継続しましょう。何を楽しむかは自由です。重要なのは、そのための時間を確保し続けることです。博士課程の最後の数か月は精神的・体力的に消耗しやすい時期です。この大切な期間は特に自分自身のケアを怠らないよう心がけましょう。
博士論文のために多大な労力を費やした研究はすでにそのほとんどを終えているはずです。あとは博士号取得に向けた最後のステップが残っているだけです。自分自身への思いやりを忘れずに、自分のポテンシャルを信じて乗り切りましょう。
