余分なバンドのない免疫沈降を実施するVHH試薬

はじめに

免疫沈降(IP:Immunoprecipitation)は、ビーズに固定化した抗体によって目的タンパク質(POI:Protein of interest)をプルダウンする手法です。従来、免疫沈降実験には目的とする内在性タンパク質に対する抗体が用いられていましたが、現在ではタンパク質タグやペプチドタグ/エピトープタグに対する抗体も用いられています。例えば、免疫沈降で最も一般的なタンパク質タグの1つとして、緑色蛍光タンパク質(GFP:Green fluorescent protein)が挙げられます。

 従来型の抗体を用いる典型的な免疫沈降

通常、免疫沈降では抗体をプロテインA/Gビーズに固定化して、細胞ライセートから目的タンパク質をプルダウンします。免疫沈降のアッセイは3つのステップで構成されます。

  • 目的タンパク質を含有する細胞ライセートと抗体のインキュベーションを実施し、抗体と目的タンパク質の複合体を形成する。
  • 抗体にプロテインA/Gビーズを結合させ、抗体と目的タンパク質の複合体を回収する。
  • SDSサンプルバッファーを用いて目的タンパク質を溶出後、SDS-PAGEやウェスタンブロット(WB:Western blot)による解析を実施する。

上記手法を用いる場合は、目的タンパク質に対する未標識の従来型抗体を使用することができます。

しかし、従来型抗体は、免疫沈降を実施するにあたりいくつかの欠点が存在します。本稿では、従来型抗体を使用する際の問題点について解説します。

SDS-PAGEに出現する抗体重鎖と軽鎖
SDS-PAGEで出現する抗体鎖由来のバンド画像 免疫沈降に使用する抗体とプロテインA/Gビーズ間の相互作用は、SDSサンプルバッファーによる溶出の段階で容易に崩壊します。そのため、溶出タンパク質画分には目的タンパク質だけでなく、免疫沈降用抗体の重鎖と軽鎖も含まれることになります。SDS-PAGEを実施すると、目的タンパク質のバンドに加え、溶出した免疫沈降用抗体の重鎖と軽鎖のバンドが出現します(重鎖:約50 kDa、軽鎖:約25 kDa)

GFP-Trapと従来型GFP抗体の比較図(SDS-PAGE、従来型抗体の抗体鎖の検出)

抗体の重鎖と軽鎖はウェスタンブロットで検出されます

ウェスタンブロットを実施すると、免疫沈降用抗体の重鎖および/または軽鎖が目的タンパク質の近傍に検出される場合があります。この場合の理由として、次の2通りのケースが考えられます。

  1. 免疫沈降用抗体がウェスタンブロットに使用する一次抗体と同一の動物種/サブクラス由来の抗体である場合に生じます。ウェスタンブロット検出時に用いる二次抗体は、メンブレン上で目的タンパク質に結合したウェスタンブロット用抗体に加えて、溶出された免疫沈降用抗体の重鎖/軽鎖を検出してしまいます。
  2. ウェスタンブロット用抗体と免疫沈降用抗体の種/サブクラスが異なる場合であっても、ウェスタンブロット検出に用いる二次抗体の特異性によって生じる場合があります。二次抗体が両方の抗体に交差反応を示し、検出してしまいます。

目的タンパク質のバンドが検出されず、免疫沈降用の重鎖または軽鎖由来のバンドだけが検出されるケースもあります。その場合、実験結果の解釈が非常に困難となる場合があります。

共免疫沈降(Co-IP:Co-immunoprecipitation)では、免疫沈降用ビーズと特異的に結合するタンパク質(直接的に免疫沈降される既知タンパク質)は「ベイト(bait:餌、相互作用物質を釣るための「餌」となるタンパク質)」と呼ばれます。一方、免疫沈降されるタンパク質との相互作用物質は「プレイ(prey:餌食、餌で釣られるタンパク質)」と呼ばれます。共免疫沈降の場合、プレイタンパク質/ベイトタンパク質と抗体鎖のバンドを正確に判断する必要があるため、実験データの解釈はより複雑になります。
 

抗体鎖によって、共免疫沈降サンプルの質量分析データの解釈が困難になります

共免疫沈降の免疫沈降ビーズ結合画分に存在する抗体の重鎖と軽鎖は、質量分析(MS:Mass spectrometry)の解析を妨げる可能性があり、特に「オンビーズ消化(On-bead digestion)法」でサンプルを調製する場合は注意が必要です。オンビーズ法の場合、酵素によって消化された抗体から生じる複数のペプチドによって、質量分析で得られるデータが複雑になり、結果の解釈が困難になります。ただし、オンビーズ消化は免疫沈降タンパク質複合体を穏やかな条件で全量回収し、質量分析で解析することのできる好ましい手法です。

問題の解決方法
プロテインテックのGFP-Trap®は、抗体の重鎖・軽鎖のコンタミネーションがないGFPタンパク質の免疫沈降を実現します

既に概説した通り、免疫沈降用抗体の重鎖や軽鎖の存在は、免疫沈降の結果の解釈に影響を及ぼす可能性があります。そのため、プロテインテックは従来型抗体の代わりにVHH抗体(別名:Nanobody®)試薬の使用を推奨します。クロモテック(2020年よりプロテインテックの一部)のGFP-Trap®は、免疫沈降用ビーズに結合した約15 kDaの単一ドメイン抗体からなる製品です。このVHH抗体(別名:Nanobody®)は、SDSサンプルバッファーを用いて目的タンパク質の溶出操作を実施してもビーズ上に残存し、溶出することはほとんどありません。したがって、VHH抗体(別名:Nanobody®)のバンドがSDS-PAGEやウェスタンブロットに出現することはありません。さらに、GFP-Trap®を使用することで、ウェスタンブロットに使用できる一次抗体や二次抗体の選択の幅が広がります。さらに、穏やかな条件のオンビーズ消化法を採用して質量分析を実施する場合、VHH抗体(別名:Nanobody®)は一般的な抗体と比べて分子量が10分の1程度とサイズが小さいため、コンタミネーションするのはわずか4~7種類程度の抗体由来の既知配列ペプチドだけです。

GFP-Trap®の概要については、アルパカの「アリス」によるNano-Trapシリーズの紹介動画をご覧ください(言語:英語)。

 

プロテインテックでは、GFP-Trap®のサンプルを無償で提供しています。下記フォームよりご依頼ください。

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