蛍光標識ナノ二次抗体とは:Nano-Secondary®(ナノセカンダリー)の特性、アプリケーション、染色プロトコール
蛍光標識VHH二次抗体(Nanobody®)の特長と利点について解説します。
Nano-Secondary®(ナノセカンダリー)とは?
クロモテック(2020年よりプロテインテックの一部)のNano-Secondary®(ナノセカンダリー)は、高解像度&クリアなイメージングを可能にする次世代型の二次抗体試薬です。一次抗体と同時にインキュベーション可能な「ワンステップ染色(One-step immunostaining)」プロトコールを利用できるため、免役染色に要する時間を大幅に短縮することができます。Nano-Secondary®は、CoraLite® Plus色素やAlexa Fluor®色素で標識されたアルパカ由来のVHH抗体(別名:Nanobody®)からなる二次抗体です。高い親和性で動物種/サブクラス特異的に一次抗体と結合します。現在、プロテインテックではマウスIgGの各サブクラス、ウサギIgG/ヒトIgGにそれぞれ特異的に結合する各種Nano-Secondary®製品を提供しています。
図1:Nano-Secondary®は一次抗体と特異的に結合する、蛍光色素が標識されたアルパカ由来VHH抗体(別名:Nanobody®)です。
免疫染色実験における「ワンステップ染色」とは?
「ワンステップ染色」とは、一次抗体と二次抗体を同時にインキュベーションする手法です。ワンステップ染色法はインキュベーション時間を短縮し、数回にわたる洗浄操作の手間を省くことができます。一次抗体とNano-Secondary®の同時インキュベーションは、マルチプレックス染色(多重染色)、生細胞免疫染色に適用可能で、インキュベーション時間を短縮できることからフローサイトメトリー(FC:Flow cytometry)解析時の細胞生存率の改善につながります。
図2:同時免疫染色(ワンステップ染色) vs 通常の連続免疫染色(Sequential immunostaining)
βアクチンウサギポリクローナル抗体、ラミンB1ウサギポリクローナル抗体のいずれかと、ChromoTek Nano-Secondary® alpaca anti-rabbit IgG, recombinant VHH, Alexa Fluor® 647(カタログ番号:srbAF647-1)を使用したHeLa細胞の免疫染色。スケールバー:20 μm、撮影:CellInsight CX7 High-Content Screening(HCS)顕微鏡による落射蛍光イメージング(20倍対物レンズを使用)。
ワンステップ染色の実験プロトコール
Nano-Secondary®は、ターゲットのIgGに対して高い特異性と親和性を示す、「一価(抗原結合部位を1つのみ持つ抗体分子)」の二次抗体です。そのため、Nano-Secondary®を使用すれば、大きなクラスター(複合体)を形成することがなく、通常であれば別々にインキュベーションする必要のある一次抗体と二次抗体を同時にインキュベーションすることができます。その結果、1回のインキュベーションを実施するだけで免疫染色を完了させることができます。実際にワンステップ染色を実施する場合、一次抗体とNano-Secondary®を混合後、一次抗体を使用する際に通常用いられるプロトコールに従って免疫染色を行います。
図3:ワンステップ染色の実験手順
免疫蛍光染色用のワンステップ染色プロトコール
免疫蛍光染色(IF:Immunofluorescence)用のプロトコールはアプリケーションノート「One-step incubation with Nano-Secondaries®[PDF]」をご覧ください。
Nano-Secondary®を適用できるアプリケーションとは?
Nano-Secondary®は、免疫蛍光染色(IF)、超解像顕微鏡(SRM)観察、ウェスタンブロット(WB:Western blot)、フローサイトメトリー(FC)の各種アプリケーションに適用でき、ワンステップ染色法や通常の連続免疫染色法を利用して、ターゲットとする一次抗体を検出することができます。
図4:3種類のサブクラスが異なるマウス抗体と3種類の各サブクラス特異的Nano-Secondary®を使用したマルチプレックス免疫蛍光染色
試料:HeLa細胞。アルパカ由来VHH試薬であるNano-Secondary®を使用して免疫蛍光染色を実施し、共焦点顕微鏡で観察しました。左:マウス抗ラミン抗体(IgG2b)+Alexa Fluor® 488標識アルパカ抗マウスIgG2b VHH抗体、左から2番目:マウス抗MOT抗体(IgG3)+Alexa Fluor® 568標識アルパカ抗マウスIgG3 VHH抗体、左から3番目:マウス抗Vimentin抗体(IgG1)+Alexa Fluor® 647標識アルパカ抗マウスIgG1 VHH抗体、左から4番目:Merge画像。共焦点イメージング画像はライカTCS SP8顕微鏡を用いて撮影し(対物レンズ:100x油浸レンズ)、Huygens Professional(Scientific Volume Imaging(SVI)社)を用いてデコンボリューションを実施して取得しました。撮影:ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン(LMU-Munich)Core Facility Bioimaging部門(スケールバー:20 μm)。
図5:アルパカ由来の2種類の抗マウスNano Secondary®と1種類の抗ウサギNano Secondary®を使用したHeLa細胞のマルチプレックス染色(多重染色)
黄色:ウサギ抗Lamin抗体+Alexa Fluor® 568標識アルパカ抗ウサギIgG VHH抗体。緑:マウス抗COX4抗体(IgG1)+Alexa Fluor® 488標識アルパカ抗マウスIgG1 VHH抗体。マゼンタ:マウス抗Tubulin抗体(IgG2b)+Alexa Fluor® 647標識アルパカ抗マウスIgG2b VHH抗体。共焦点イメージング画像はライカTCS SP8顕微鏡を用いて撮影し(対物レンズ:100x油浸レンズ)、Huygens Professional(Scientific Volume Imaging(SVI)社)を用いてデコンボリューションを実施して取得しました撮影:ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン(LMU-Munich)Core Facility Bioimaging部門(スケールバー:10 μm)。
Nano-Secondary®は蛍光ウェスタンブロットのマルチプレックス検出に有用
蛍光ウェスタンブロットでマルチプレックス検出を実施する際に、Nano-Secondary®を複数同時に使用可能です。蛍光ウェスタンブロット法を用いたマルチプレックス検出では、同一のメンブレン上の複数のターゲットを同時に染色・解析できます。蛍光ウェスタンブロット法では、メンブレンを何度もストリッピング(抗体除去)およびリプローブすることなく、複数のターゲットを同時に確認できます。実際にマルチプレックス検出を実施する場合、一次抗体とNano-Secondary®を混合後、一次抗体を使用する際に通常用いられるプロトコールに従ってウェスタンブロットを行います。
図6:HEK293T細胞ライセートを用いたGFP-TOM70、β-Tubulin、GFPのマルチプレックス蛍光染色ウェスタンブロット
一次抗体とNano-Secondary®は、全て同時にメンブレンへ添加してインキュベーションしました。緑:ウサギ抗GFP抗体(カタログ番号:pabg1)+Alexa Fluor® 488標識アルパカ抗ウサギIgG VHH抗体。マゼンタ:マウス抗β-Tubulin抗体+Alexa Fluor® 647標識アルパカ抗マウスIgG2b VHH抗体。
Nano-Secondary®の分子量/サイズとは?
Nano-Secondary®の分子量は約15 kDaです。150 kDa~160 kDa程度の分子量を有する従来型の二次抗体(IgG)と比較し、1/10程度のサイズであり、非常に小型の二次抗体です。サイズが小さいため組織浸透性が著しく向上します。さらに、エピトープ‐蛍光色素間の距離が短くなるため結合誤差を最小限に抑え、高解像度の画像を撮影することができます。したがって、Nano-Secondary®はSTED(Stimulated emission depletion)顕微鏡法、STORM(Stochastic Optical Reconstruction Microscopy)法等の超解像顕微鏡観察に用いることができる最適なプローブとなります。また、組織、臓器、生体全体のイメージングにNano-Secondary®を使用すると、Nano-Secondary®のサイズが小さいため非常に良好な画像が得られるといった利点を提供します。
対象とするマウス一次抗体のサブクラスに留意してください
Nano-Secondary®は各サブクラスに特異的な抗体です。マウスで産生された一次抗体を使用する場合、事前にアイソタイプ/サブクラスを必ず確認してください。Nano-Secondary®はマウスのIgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3を別々のサブクラスと認識して、それぞれに特異的に結合します。ウサギIgGの場合、サブクラスは存在しません。したがって、抗ウサギIgG Nano-Secondary®は、アイソタイプがIgGであるすべてのウサギ一次抗体と結合することができます。
Nano-Secondary®の特異性について
Nano-Secondary®は、アイソタイプ/サブクラス特異的な二次抗体であるため、ターゲット動物種以外のIgGとは交差反応性を示しません。ターゲット動物種以外のIgGに交差反応性を示すVHH抗体(別名:Nanobody®)は、Nano-Secondary®を開発する際のスクリーニングで除外されています。交差反応性を検証した動物種は、製品の添付説明書(データシート)または製品ページの「Species Reactivity」に掲載されています。Nano-Secondary®の詳細についてはこちら(Proteintech HP Nano-Secondary®)をご覧ください。プロテインテックはターゲットとする一次抗体だけを認識して結合するVHH抗体(別名:Nanobody®)を選別し、Nano-Secondary®として製品化しています。そのため、プロテインテックのNano-Secondary®は非常にバックグラウンドが低く、実験前にアフィニティ精製や交差吸着処理等の前処理を実施する必要はありません。現在、プロテインテックでは、ウサギIgG、マウスIgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3をターゲットとするNano-Secondary®を提供しています。
図7:Nano-Secondary®はサブクラス特異的な二次抗体であり、ターゲット動物種以外のIgGとは交差反応性を示しません。
バックグラウンドが低く、高い特異性を示すNano-Secondary®の特性により、マルチプレックス染色(多重染色)が可能になります。競合他社の抗ウサギIgG用二次抗体は、事前にマウス血清を使用して交差吸着処理を実施されていますが、わずかに交差反応が確認されます。
Nano-Secondary®が一次抗体に結合する仕組み
Nano-Secondary®は一次抗体(IgG)に対して部位特異的に結合するため、免疫染色における抗体の結合様式の不確実性を回避することができます。Nano-Secondary®は、データシートに記載されている通りに、一次抗体のFc領域またはFab領域に対して特異的に結合します。現在販売中のNano-Secondary®は十分な特性解析および検証試験が実施されています。
図8:Nano-Secondary®の一次抗体への部位特異的結合:抗ウサギIgG Nano-Secondary®は、ウサギ一次抗体のFc領域を認識するVHHモノクローナル抗体(別名:Nanobody®)とFab領域を認識するVHHモノクローナル抗体(別名:Nanobody®)の2種類のVHH抗体(別名:Nanobody®)で構成されています。VHH抗体は2種類とも、化学量論的に2分子のAlexa Fluor®蛍光色素が標識されています。1分子のウサギ一次抗体には、合計4分子のVHH抗体(別名:Nanobody®)が結合します。抗マウスIgG用Nano-Secondary®の場合も同様に、Nano-Secondary®を構成するVHH抗体の一次抗体結合部位や化学量論的標識分子量が判明しています。マウスIgG用のNano-Secondary®は、ターゲットとする一次抗体のサブクラスの違いによって4種類の製品を提供しています。各製品の一次抗体結合部位等の詳細情報は、データシートまたは製品ページの詳細情報をご確認ください。Nano-Secondary®の詳細についてはこちら(ptglab.co.jp:ChromoTek Nano-Secondary®)をご覧ください。
Nano-Secondary®に対する蛍光色素の標識度(DOL:degree of labeling)とは?
Nano-Secondary®には、化学量論的に均一なCoraLite® Plus蛍光色素またはAlexa Fluor®蛍光色素が標識されています。Nano-Secondary®を構成するVHH抗体(別名:Nanobody®)には、2分子または3分子のCoraLite® Plus蛍光色素/Alexa Fluor®蛍光色素が標識されています。各製品の標識分子数/標識度(DOL)は、データシートまたは製品ページの詳細情報をご確認ください。
Nano-Secondary®の製造法について
Nano-Secondary®は、アルパカを免疫動物として取得されたVHH抗体(別名:Nanobody®)の発現クローンから産生されるため、実験動物を介さずに製造されます(アニマルフリー)。高いレベルの品質管理基準に加えて、遺伝子組換え技術を用いた生産体制は、実質的にロット間変動が認められない、信頼性および安定性の高いアルパカ単一ドメイン抗体製品の提供を可能にします。また、組換え抗体としての生産体制により、安定的な供給が可能です。
Nano-Secondary®の特性解析および検証試験の実施法について
プロテインテックはNano-Secondary®の検証試験として、生化学的手法を用いるほかに従来型の二次抗体と比較試験を行い、特性評価を実施しています。
- 生化学的手法として、免疫蛍光染色(IF)およびウェスタンブロット(WB)によってNano-Secondary®を検証しています。一次抗体を添加した細胞および添加しない細胞を用いて検証試験を実施しています。
- さらに、従来型の二次抗体の試験結果と比較することで、Nano-Secondary®の性能を評価しています。
Nano-Secondary®を構成するVHH抗体(別名:Nanobody®)のアミノ酸配列、およびコードする遺伝子配列の解析が実施されています。さらに、Nano-Secondary®に用いられるモノクローナルVHH抗体クローンは、徹底的な特性解析と検証試験が実施されており、交差反応性、親和性、熱安定性、標識度(DOL:degree of labeling)が決定されています。VHH抗体(別名:Nanobody®)の詳細についてはこちら(ptglab.co.jp:About Nanobodies)をご覧ください。
図9:一次抗体だけでなく二次抗体も重要です(Don’t forget about citing your secondaries!)
引用元:CiteAb Blog(citeab.com)
VHH抗体(別名:Nanobody®)とは?
Nano-Secondary®に使用されるVHH抗体(別名:Nanobody®)とはどのような抗体なのでしょうか?
アルパカ、ラマ、ヒトコブラクダ等のラクダ科動物は、通常のIgG抗体に加え、IgGの重鎖のみで構成される特殊なIgGである「重鎖抗体:Heavy chain antibody、Heavy chain-only antibody)」を産生します。重鎖抗体は、従来型の抗体重鎖に存在するCH1ドメインと軽鎖全体が欠損しています。ラクダ科動物に由来する重鎖抗体の抗原結合ドメインのみからなる抗体が、Nanobody®としても知られる、VHH抗体(VHH:variable heavy domain of heavy chain antibody)です。
図10:VHH抗体(別名:Nanobody®)の由来である重鎖抗体と従来型抗体との比較画像
VHH抗体に関する詳細な情報はこちら(ptglab.co.jp:About Nanobodies)をご覧ください。