国際単位(IU)で示されるHumanKine®組換えタンパク質の比活性の算出方法
組換えタンパク質の生物学的活性は、一元化された標準品(WHOスタンダード)と比較する方法によって「国際単位(IU)」に基づく比活性として算出することができます。
国際単位(IU)とは?
国際単位(IU:International Unit)とは、物質の生物学的活性を示す尺度です。国際単位(IU)は、組換えタンパク質、ビタミン類、ホルモン、医薬品、ワクチン等の生体に対して効力を示す物質を定量する際に一般的に用いられています。組換えタンパク質の分野では、国際単位(IU)は、活性を数値化した共通の単位であることから、異なるメーカーが製造・販売する同じタンパク質の活性を比較するうえで特に重要です。国際単位(IU)の測定の多くは、WHOが提供する一元化された「WHO国際標準品(WHO international standard)(nibsc.org)」を使用して実施されます。WHO国際標準品には、国際共同研究で保証された手順に基づき合意された力価(potency)が割り当てられており、標準品を参考値(リファレンス)とすることで異なる製品の力価、比活性を求めることができます。WHO国際標準品は、英国に拠点を置くNIBSC(National Institute for Biological Standards and Control)より入手することができます。
国際単位(IU)の測定方法
組換えタンパク質の活性は、「比活性(Specific Activity:総タンパク質 1 mgあたりの活性・力価、単位:unit/mg、IU/mg)」として表すことができます。特定の組換えタンパク質の比活性を国際単位(IU)で表すためには、通常、同一アッセイ系でWHO国際標準品と組換えタンパク質を比較し、両者の活性の比率を求めることによって決定します。WHO国際標準品には、あらかじめ定められた国際単位(IU)の値が割り当てられているため、アッセイで得られた活性値(例:ng/mL、µg/mL等)の比に基づいて、組換えタンパク質の力価、比活性を求めることができます。プロテインテックのヒト細胞由来組換えタンパク質である『HumanKine®(ヒューマンカイン)』製品の国際単位(IU)で示される比活性は、以下の4段階の手順を用いて決定されます。
- 国際標準品の力価/比活性を確認します。
- 国際標準品とHumanKine®タンパク質を同一のアッセイで測定します。
- アッセイで得られた活性評価の値(EC50)をそれぞれ確認します。EC50における国際標準品とHumanKine®の比を求めます。
- 得られた比に基づき、HumanKine®タンパク質の活性を国際単位(IU)で表される比活性に換算します。
国際単位(IU)に基づく比活性の計算例:IL-7(カタログ番号:HZ-1281)の場合
本項では、HumanKine® IL-7タンパク質(カタログ番号:HZ-1281)を例に挙げ、国際単位(IU)で表される比活性の測定方法について順を追って解説します。
1. 国際標準品の力価/比活性を確認します。
-
- 使用する国際標準品を選定します:Interleukin-7 WHO Reference Reagent(NIBSC Product Number:90/530)
- 国際標準品の力価を確認します:100,000 units(U)/アンプル
- アンプル中のIL-7の量(質量)を確認します:約1µg
- 国際標準品の比活性を計算します:100,000 U/µg(すなわち1x108 IU/mg)
2. 国際標準品とHumanKine®タンパク質を同一のアッセイで測定します。
- HumanKine®タンパク質とWHO国際標準品の両方を同一のアッセイで測定し、IL-7による容量依存的なマウス2E8細胞の増殖誘導能を評価します。このアッセイによって両タンパク質の「EC50(ng/mL)」を求めます。
HumanKine® IL-7の活性曲線
HumanKine® IL-7のEC50:1.079 ng/mL
IL-7 WHO(NIBSC)国際標準品の活性曲線
IL-7 WHO国際標準品のEC50:2.727 ng/mL
3. アッセイで得られた活性評価の値(EC50)をそれぞれ確認します。EC50における国際標準品とHumanKine®の比を求めます。
EC50(IL-7 WHO国際標準品) |
EC50(HumanKine® IL-7) |
EC50比 |
2.727 ng/mL |
1.079 ng/mL |
2.53 |
4. 得られた比に基づき、HumanKine®タンパク質の活性を国際単位(IU)で表される比活性に換算します。
国際単位(IU)に基づく比活性(specific activity)(IU/mg)=国際標準品の比活性×EC50の比
比活性(IL-7 WHO標準品) |
EC50比 |
比活性(HumanKine®IL-7) |
1x108 IU/mg |
2.53 |
2.53x108 IU/mg |
国際単位(IU)に基づく比活性を求めるにあたって考慮すべき事項
組換えタンパク質製品の国際単位(IU)に基づく比活性を求める最も正確な方法は、直接的に特定のタンパク質とWHO国際標準品を比較、キャリブレーションする方法です。WHO国際標準品の活性は標準品の各タンパク質間で異なるため、すべての国際標準品の組換えタンパク質において国際単位(IU)で示される比活性(IU/mg)が一致するという仮定に基づき、公式的にng/mLからIU/mgに変換することは避ける必要があります。さらに、タンパク質の生物学的活性の決定は、アッセイ方法自体のパラメーターに大きく依存します。例えば、細胞の応答性、培地組成、刺激を与える時間等の様々な実験条件の変動がアッセイ感度に影響を及ぼします。そのため、各メーカーが提供するタンパク質の比活性の値は、同じ標準品をキャリブレーションに使用しているとしても、アッセイ方法自体に違いがある場合があり、各社で異なる比活性を報告している可能性があることに留意する必要があります。
タンパク質 |
NIBSC Standard |
比活性 |
比活性 |
比活性 |
比活性 |
IL-7 |
90/530 |
2.53x108 IU/mg アッセイ法:マウス2E8細胞増殖試験 |
1x108 IU/mg アッセイ法:PHA活性化ヒト末梢血リンパ球増殖試験 |
1.17x108 IU/mg アッセイ法:マウス2E8細胞増殖試験 |
5x107 IU/mg アッセイ法:マウスIxN/2B細胞増殖試験 |
そのため、実験を行う際は、各社の組換えタンパク質を段階希釈して、どの濃度が目的のアプリケーションに最も適しているか予備実験を実施するのが最も良い方法です。プロテインテックのウェブサイトに掲載している比活性の値は、WHO国際標準品に対する過去の試験結果を基にした参考値です。ただし、国際単位(IU)で表される比活性の測定方法は、HumanKine®製品に対して日常的に実施している方法ではありません。