SNAPタグおよびCLIPタグの概要
SNAPタグおよびCLIPタグは、外因的に添加される合成リガンドとの共有結合を触媒する「自己標識化タンパク質タグ(self-labeling protein tag)」です。酵素タンパク質に由来するSNAPタグおよびCLIPタグは、目的タンパク質(POI)に融合させることが可能で、細胞内解析や生化学的解析に使用されます。
- SNAPタグとは?
- CLIPタグとは?
- SNAPタグとCLIPタグの作用機構とは?
- SNAPタグとリガンドの複合体はどのように形成されるのか?
- CLIPタグとリガンドの複合体はどのように形成されるのか?
- SNAPタグおよびCLIPタグのサイズとは?
- SNAPタグを使用できるアプリケーションとは?
- CLIPタグを使用できるアプリケーションとは?
- SNAPタグにはどのリガンドが使用できるのか?
- CLIPタグにはどのリガンドが使用できるのか?
- SNAPタグ、CLIPタグ、Haloタグの違いとは?
- SNAPタグ、CLIPタグ、GFPタグの違いとは?
- ウェスタンブロットでSNAPタグやCLIPタグを検出する方法
- SNAPタグ/CLIPタグ融合タンパク質の免疫沈降(IP)
- 既に基質(リガンド)が結合しているSNAPタグ/CLIPタグ融合タンパク質のプルダウンアッセイは可能か?
- SNAPタグ/CLIPタグ融合タンパク質の溶出法
- SNAP/CLIP-tag-Trapの結合カイネティクスとは?
- SNAP/CLIP-tagの励起/蛍光波長について
SNAPタグとは、ヒトO6-alkylguanine-DNA-alkyltransferase(hAGT、O6-アルキルグアニンDNAアルキルトランスフェラーゼ)を遺伝子改変して作られた「自己標識化タンパク質タグ」です。SNAPタグは、例えば蛍光色素と結合させたグアニン(guanine)やクロロピリミジン(chloropyrimidine)等のO6‐ベンジルグアニン(O6-benzylguanine、BG)誘導体と反応し共有結合を形成します。SNAPタグは、目的タンパク質(POI)を標識するためのタンパク質タグとして使用できます。
CLIPタグは、SNAPタグを遺伝子改変したタンパク質タグです。つまり、CLIPタグも、ヒトO6-alkylguanine-DNA-alkyltransferase(hAGT、O6-アルキルグアニンDNAアルキルトランスフェラーゼ)を遺伝子改変して作られた「自己標識化タンパク質タグ」です。CLIPタグは、ベンジルグアニン誘導体の代わりに、ベンジルシトシン(benzylcytosine、BC)誘導体と反応するよう遺伝子改変されています。CLIPタグも目的タンパク質(POI)を標識するためのタンパク質タグとして使用できます。以降の解説は主にSNAPタグに関する内容ですが、CLIPタグでも同様です。SNAPタグとCLIPタグ間で違いがある場合は、別途解説を加えています。
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SNAPタグとCLIPタグの作用機構とは?
SNAPタグ融合タンパク質をコードするプラスミドをトランスフェクション(遺伝子導入)後、細胞または動物中でSNAPタグ融合タンパク質が発現します。発現させたSNAPタグ融合タンパク質は、蛍光色素を結合させたSNAPタグに特異的なリガンドとインキュベーションすることで、蛍光を発するようになります(9.参照)。または、ビオチンが結合したリガンドをSNAPタグに結合させることによって、担体に固定したストレプトアビジンやその他修飾ストレプトアビジンにビオチン-SNAPタグ融合タンパク質を結合させることができます。
一度SNAPタグにリガンドが共有結合すると、触媒中心が塞がれるため、それ以降にその他のリガンドは結合することができなくなります。したがって、リガンドを介するその他のアプリケーションは実行できなくなります。代わりに、塞がれた触媒中心の外部領域と結合する抗体やVHH抗体(別名:Nanobody®)を使用して、免疫沈降(IP)の実施やSNAPタグ融合タンパク質の検出が可能です(13.、14.、15.参照)。CLIPタグについても、同様の原則が当てはまります。
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SNAPタグとリガンドの複合体はどのように形成されるのか?
SNAPタグは、DNA修復に関与する酵素であるヒトO6-alkylguanine-DNA-alkyltransferase(hAGT)を遺伝子改変して開発されたタンパク質タグです。SNAPタグタンパク質はO6-benzylguanine(ベンジルグアニン、BG)と反応します。したがって、蛍光色素やビオチン等で標識されたグアニン残基やピリミジン残基を有するリガンドがSNAPタグの基質として機能します。リガンドによるSNAPタグの標識反応の際、リガンドのベンジル置換基がSNAPタグの触媒中心と共有結合を形成します。
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CLIPタグとリガンドの複合体はどのように形成されるのか?
CLIPタグは、SNAPタグを遺伝子改変したタンパク質タグです。CLIPタグの場合、基質としてベンジルグアニン(BG)の代わりにベンジルシトシン(BC)を使用します。したがって、CLIPタグには、蛍光色素やビオチン等で標識したシトシンを有する基質を使用することができます。SNAPタグとCLIPタグは同一細胞で同時に使用できます。
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SNAPタグおよびCLIPタグのサイズとは?
SNAPタグは182アミノ酸残基からなり、分子量は19.4kDaです。CLIPタグも182アミノ酸残基からなり、分子量は同じく19.4kDaです。
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SNAPタグを使用できるアプリケーションとは?
SNAPタグは以下のアプリケーションに使用できます。
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- 免疫蛍光染色(IF)等の細胞系アッセイ/イメージングアッセイ
- 免疫沈降(IP)
- タンパク質精製
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CLIPタグを使用できるアプリケーションとは?
CLIPタグは以下のアプリケーションに使用できます。
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- 免疫蛍光染色(IF)等の細胞系アッセイ/イメージングアッセイ
- 免疫沈降(IP)
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SNAPタグにはどのリガンドが使用できるのか?
細胞透過性の蛍光色素(TMR(Tetramethylrhodamine、テトラメチルローダミン)、Oregon Green等)や、非細胞透過性のAlexa Fluor® 488、546、647等で標識されたリガンドを、顕微鏡観察用の蛍光色素基質として使用できます。さらに、ビオチンやマレイミド等の標識リガンドを使用できます。
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CLIPタグにはどのリガンドが使用できるのか?
細胞透過性蛍光色素(TMR、CLIP-Cell™ 505)や細胞非透過性蛍光色素(CLIP-Surface™ 488、547、647)等で標識されたリガンドが販売されています。さらに、ビオチン等の標識リガンドも基質として利用可能です。
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SNAPタグ、CLIPタグ、Haloタグの違いとは?
Haloタグは、SNAPタグやCLIPタグと同様に、タグと特異的に結合する外因性基質(外因性リガンド)を用いて検出します。Haloタグは、Rhodococcus rhodochrous(ロドコッカス・ロドクラウス)のハロアルカンデハロゲナーゼ(haloalkane dehalogenase)をコードするDhaA遺伝子に由来します。Haloタグの活性部位は、クロロアルカン(chloroalkane)を有する基質と結合し、不可逆的な結合を形成します。
Erdmannら(2019)は、シリコンローダミン誘導体(SiR(Si-rhodamine)系色素)を使用したライブセルイメージングにおける、SNAPタグとHaloタグを定量的に比較しました。著者らは、「共焦点顕微鏡およびSTED顕微鏡でSiR系色素の単色イメージングをする場合は、Haloタグを使用した方が蛍光が強く、急速に退色しないことから、第一の選択肢としてHaloタグ融合をまず実施することを推奨する("For single-color imaging of SiR-based dyes, by either confocal or STED microscopy, we recommend Halo tagging as a first choice, since it provides fluorescence that is brighter and less prone to bleaching rapidly")」と結論付けています。
特性 |
SNAPタグ |
CLIPタグ |
Haloタグ |
発見/最初の論文投稿 |
2008 |
2008 |
2008 |
由来 |
human O6-alkylguanine-DNA-alkyltransferase (ヒトO6‐アルキルグアニン‐DNA‐アルキルトランスフェラーゼ) |
human O6-alkylguanine-DNA-alkyltransferase (ヒトO6‐アルキルグアニン‐DNA‐アルキルトランスフェラーゼ) |
Rhodococcus rhodochrous 由来 Haloalkane dehalogenase(ハロアルカンデハロゲナーゼ) |
構造 |
単量体 |
単量体 |
単量体 |
反応基質 |
O6-benzylguanine(O6‐ベンジルグアニン、BG)誘導体 |
Benzylcytosine(ベンジルシトシン、BC)誘導体 |
Chloroalkane(クロロアルカン)誘導体 |
リガンド |
色素、蛍光色素、ビオチン(細胞透過性/細胞非透過性の両方で使用可)、免疫沈降用ビーズ標識リガンド |
色素、蛍光色素、ビオチン(細胞透過性/細胞非透過性の両方で使用可)、免疫沈降用ビーズ標識リガンド |
色素、蛍光色素、ビオチン(細胞透過性/細胞非透過性の両方で使用可)、免疫沈降用ビーズ標識リガンド |
励起波長/最大蛍光波長 |
標識蛍光色素の特性に依存 |
標識蛍光色素の特性に依存 |
標識蛍光色素の特性に依存 |
鎖長/分子量 |
アミノ酸残基数:182残基 |
アミノ酸残基数:182残基 |
アミノ酸残基数:297残基 |
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SNAPタグ、CLIPタグ、GFPタグの違いとは?
GFP(Green Fluorescent Protein、緑色蛍光タンパク質)は、内因性の蛍光タンパク質です。励起波長を照射すると、タンパク質自体が蛍光を発します(厳密に述べると、GFPはβバレル構造を有しており、GFPが発する蛍光はβバレル構造の中心に位置する3つのアミノ酸残基の環化および酸化によって生じます。この化学反応によって、2つの環状構造を有する発色団が形成されて蛍光が発生するのです)。SNAPタグやCLIPタグとは異なり、別途、基質やリガンドを用意する必要はありません。化学発光色素と比較した場合、一般的にはGFPタンパク質の耐光性や量子収率は劣ります。
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ウェスタンブロットでSNAPタグやCLIPタグを検出する方法
ChromoTek(クロモテック、ドイツ)の高感度なanti-SNAP/CLIP-tag rat monoclonal antibody(カタログ番号:6F9)を使用してウェスタブロットを実施できます。本製品は、ウェスタンブロットでの検証が実施されています(クロモテックは2020年10月よりプロテインテックグループの一部になりました)。
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SNAPタグ/CLIPタグ融合タンパク質の免疫沈降(IP)
効率的な免疫沈降(IP)を実現するには、クロモテックのSNAP/CLIP-tag-Trap Agaroseがおすすめです。SNAP/CLIP-tag-Trapは、免疫沈降用アガロースビーズに結合した抗SNAP/CLIPタグVHH抗体(別名:Nanobody®)からなる製品です。
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既に基質(リガンド)が結合しているSNAPタグ/CLIPタグ融合タンパク質のプルダウンアッセイは可能か?
既にSNAPタグ/CLIPタグ融合タンパク質がリガンドに結合している状態であっても、プルダウンアッセイは可能です。 クロモテックのSNAP/CLIP-tag-Trapは、触媒中心と重複しない領域のエピトープに結合します。したがって、SNAP/CLIP-tag-Trapを使用して、既に基質(リガンド)が結合しているSNAPタグ/CLIPタグ融合タンパク質の免疫沈降やプルダウンアッセイを実施することができます。
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SNAPタグ/CLIPタグ融合タンパク質の溶出法
SNAP/CLIP-tag-Trapによるプルダウン後、100mMクエン酸(pH3)、または200mMグリシン(pH2.5)を使用してビーズに結合した融合タンパク質を溶出することができます。
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SNAP/CLIP-tag-Trapの結合カイネティクスとは?
SNAP/CLIP-tag-Trapに使用されているVHH抗体の結合カイネティクス(速度論)は特性解析を実施済みです。
結合速度
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解離定数 |
結合速度定数 |
解離速度定数 |
SNAP/CLIP-tag-Trap |
1.40 x 10-9 |
1.14 x 105 |
1.60 x 10-4 |
SNAP/CLIP-tag-Trapは、発現量の少ないタンパク質の効率的なプルダウンを実現します。
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SNAP/CLIP-tagの励起/蛍光波長について
SNAP/CLIP-tagは、酵素由来のタンパク質タグであり、内因性の蛍光を発しません。蛍光検出する場合は蛍光標識された外因性リガンドを使用するため、励起波長および蛍光波長は標識された蛍光色素に依存します。例えば、Alexa Fluor® 488の場合、最大励起波長は490nmで最大蛍光波長は525nmです。
プロテインテックでは、Nano-Trapのサンプルを無償で提供しています。下記フォームよりご依頼ください。
(※ 国内におけるプロテインテック製品の出荷および販売は、コスモ・バイオ株式会社を通じて行っております。
最寄りのコスモ・バイオ株式会社 代理店をご指定の上、ご依頼ください。)
参考文献