免疫蛍光染色(IF)実験でNano-Secondary®(ナノセカンダリー)を使用する際のブロッキングの重要性について

IF実験では多くの場合、ブロッキング処理の操作を実施することで非特異的なバックグラウンドが軽減されるため、シグナル対ノイズ(バックグラウンド)比が向上し、良好な顕微鏡画像が得られます。ブロッキング処理が十分でないと、バックグラウンドが高くなってしまいます。


はじめに

免疫蛍光染色(IF)を実施するにあたり、サンプル調製時のブロッキング処理は非常に重要なステップとなります。ブロッキングを実施することで非特異的なバックグラウンドが軽減されるため、シグナル対ノイズ比が向上し、良好な顕微鏡画像が得られます。ブロッキング処理が十分でないと、バックグラウンドが高くなってしまいます。一方で、過剰なブロッキング処理は、特異的なシグナルをマスクしてしまうため注意が必要です。

ブロッキング処理の目的は、望ましくない染色反応につながるおそれのあるサンプル上の非特異的反応部位を予め遮蔽(阻害、ブロック)することで、一次抗体や二次抗体がサンプルと非特異的に相互作用することを防ぐことです。理論的には、ターゲットとなる抗原と結合しないタンパク質であれば、どのようなタンパク質でもブロッキング剤として使用することができます。実際には、「血清」や「タンパク質」を使用したブロッキングバッファーが一般的に使用されています。

顕微鏡のシルエット・免疫蛍光染色画像・アルパカイラスト

 

血清によるブロッキング

血清(非免疫血清、正常血清)は、サンプル中の非特異的エピトープをブロックできる様々なタンパク質を含有しています。また、血清には様々なクラスの免疫グロブリン(イムノグロブリン、抗体)分子が含まれているため、サンプル組織中のFc受容体(免疫グロブリンの分子構造が持つFc部位に結合する受容体タンパク質)と結合し、Fc受容体に対する一次抗体や二次抗体の非特異的結合を防止します。

一般的に、ブロッキング処理を実施する場合は、二次抗体の産生動物種(免疫動物種)と同じ動物由来の血清を使用します。ブロッキング溶液が一次抗体の作製に使用した動物由来である場合、二次抗体が目的物質をターゲットとする「一次抗体」の他に、ブロッキング溶液に含まれる目的物質とは関係のない「非特異的抗体」の両方を標識してしまい、一次抗体が本来示すはずの特異性が失われてしまいます。

例:「マウス由来」の一次抗体と「ヤギ由来」の二次抗体を組み合わせて使用する場合、ブロッキング処理に最も適した血清は「ヤギ血清」となります。

 

タンパク質によるブロッキング

タンパク質のブロッキング溶液には、BSA、カゼイン、スキムミルク/脱脂粉乳等のタンパク質を豊富に含有するバッファー溶液が挙げられます。バッファー中のタンパク質は、一次抗体や二次抗体が結合してしまうサンプル中の非特異的部位を先に被覆および占領し、抗体の非特異的な結合を防ぎます。

これらタンパク質のブロッキング剤を用いる方法は、比較的安価な手法です。また、マルチプレックス染色で異なる動物種由来の二次抗体を使用する際に適したブロッキング試薬です。

 

Nano-Secondary®(ナノセカンダリー)試薬を使用した免疫蛍光染色で推奨されるブロッキング方法

Nano-Secondary®試薬は単一ドメインのVHH抗体(別名:Nanobody®)です。Nano-Secondary®試薬は、アルパカを免疫動物として作製された二次抗体製品であり、ターゲットとする一次抗体に対して高い特異性を示す抗体クローンを選抜しています。さらに、遺伝子組換え技術により組換え(リコンビナント)抗体としての製造および精製が実施されているため、一貫した品質を示し、非常に低いバックグラウンドを示します。

Nano-Secondary®試薬には、従来型の抗体構造に含まれるFc領域が存在しません。そのため、Fc受容体との結合を最小限に抑えることを目的とした、アルパカまたはラマ血清によるブロッキング処理を実施する必要はありません。免疫蛍光染色にNano-Secondary®試薬を使用する際は、一般的なタンパク質のブロッキング溶液(例:4% BSA含有PBS溶液、スキムミルク含有PBS溶液)を使用すれば十分にブロッキングすることができます。

 

ブロッキング処理のプロトコール

多くの研究室では、確立されたブロッキング処理のプロトコールや定められたブロッキングバッファー組成に従って実験が行われていますが、すべてのサンプルに適したブロッキング溶液は存在しないため、ブロッキング処理は実験ごとに最適化する必要があります。すなわち、予備実験を行って、サンプルごとに最良の結果を得られる特異的抗体とブロッキングバッファー組成の組み合わせを見出すことが非常に重要となります。

詳細なブロッキングのプロトコールについては、アプリケーションノート「Blocking in immunofluorescence[PDF]」をご覧ください。