Fab-Trap™が「”Fab”ulous(素晴らしい)」な理由
クロモテックのFab-Trap™(ファブトラップ)は、抗体のFabフラグメントを利用した免疫沈降(IP)用アフィニティ試薬です。
免疫沈降(IP:immunoprecipitation)には、従来型の完全長抗体、Fabフラグメント、VHH抗体(別名:Nanobody®)等、様々なフォーマットの抗体が使用されます。本稿では、Fabフラグメント抗体を利用したIP用アフィニティ試薬の特長と利点を解説します。
Fab-Trap™(ファブトラップ)とは?
免疫沈降(IP:Immunoprecipitation)は、特定のタンパク質抗原に対して特異的に結合する抗体を使用して、溶液中から目的タンパク質を捕捉、単離、濃縮する手法です。IPには従来型の完全長抗体、Fabフラグメント、VHH抗体(別名:Nanobody®)等の複数の異なる抗体フォーマットが使用されます。当社ブログ記事の「免疫沈降用の異なる抗体フォーマット(従来型抗体、Fabフラグメント、VHH抗体)の利点と制約」には、各抗体フォーマットの違いや利点に関する詳細な情報を掲載しています。IPで利用される抗体フォーマットの1つが、抗体のFab領域(Fragment, antigen-binding region、Fabフラグメント)です。プロテインテックでは、Fabフラグメントを結合させたIP用アフィニティ試薬である、クロモテック(2020年よりプロテインテックグループ)の『Fab-Trap™(ファブトラップ)』を販売しています。
免疫グロブリンG(IgG:Immunoglobulin G)のような二価抗体独特のY字型構造は、2つの主要なドメインである「Fcフラグメント」と「Fabフラグメント」に分けることができます。Y字型構造の抗原結合アーム部位にあたるFabフラグメントには、抗原結合部位が存在します。Fabフラグメントは、軽鎖全体(VLドメイン、CLドメイン)と重鎖の一部(VHドメイン、CH1ドメイン)で構成されます。Fabフラグメントを構成する軽鎖全体と重鎖の一部は、それぞれ約25kDa程度の分子量であり、ジスルフィド結合を介して架橋しています。
Fab-Trap™は、免疫沈降用アガロースビーズ担体に抗体のFabフラグメント部位を共有結合させたIP用アフィニティ試薬です。ビーズ担体に完全長抗体を結合させたIP用ビーズと比較して、Fab-Trap™はいくつかの利点を提供します。
以下の項では、従来の完全長抗体ではなく、Fabフラグメント抗体を使用する利点について解説します。
A:従来型の完全長抗体(重鎖:VH・CH1・CH2・CH3ドメイン、軽鎖:VL、CLドメイン)
B:目的タンパク質(POI)に結合したビーズ担体結合Fabフラグメント(Fab-Trap™)
C:Fab-Trap™を使用した免疫沈降の典型的なSDS-PAGE結果(I:インプット画分、FT:フロースルー画分、B:結合画分)
結合画分(B)には目的タンパク質に加え、還元SDS-PAGEによってジスルフィド結合が切断されて分離したFabフラグメント構成分子の重鎖(約25kDa)と軽鎖(約25kDa)が存在しています。
SDS-PAGEやWBを実施する際、アフィニティ試薬由来のコンタミネーションを最小限に抑えます。
Fab-Trap™の抗原結合部位にあたるFabフラグメントは、軽鎖全体と重鎖の一部で構成され、それぞれ~約25kDa程度の小さい分子量のタンパク質鎖です。したがって、Fabフラグメントは、SDSサンプルバッファーを用いて変性させると共溶出されますが、溶出後にSDS-PAGEやWBを実施しても~約25kDa未満のバンド1本のみが検出される程度に留まります。従来の完全長抗体の場合、軽鎖全体(約25kDa)と重鎖全体(約50kDa)で構成されるため、~約25kDaと~約50kDaの2本のバンドが検出されます。したがって、Fab-Trap™を使用する場合、SDS-PAGEやWBを実施しても25kDaより大きい分子量位置にIPで用いた抗体由来のコンタミネーションが検出されないため、免疫沈降の結果がより明瞭になり、結果の解釈が容易になります。
またSDSサンプルバッファーによる溶出法の代わりに、低pH溶出バッファーの使用やペプチド競合法等の穏やかな溶出法を採用すると、SDS-PAGEやWBの実施後に更なる解析を行う際に問題となる可能性のある、Fabフラグメントのコンタミネーションを軽減することができます。
SDS-PAGE解析での宿主細胞由来タンパク質のバックグラウンドを低減します。
Fabフラグメントの分子量は従来型抗体の3分の1程度(約50kDa)にすぎません。従来の完全長抗体と比べてFabフラグメントの分子量は小さいため、Fab構成分子の表面積の和も小さくなり、宿主細胞由来のタンパク質と非特異的に相互作用する可能性が軽減します。そのため、Fab-Trap™を使用するとバックグラウンドの低い結果が得られ、目的のタンパク質とは異なるタンパク質を誤って検出してしまう可能性が少なくなります。
厳しい洗浄条件を適用できるため、細胞由来の非特異的タンパク質の結合を防ぎます。
Fabフラグメントは従来型抗体と比較して厳しい条件の洗浄バッファーに耐性があるため、強力な作用を持つバッファーを用いた洗浄操作で非特異的な細胞タンパク質を効率的に洗浄および除去することができます。Fab-Trap™は、前述のFab-Trap™自体に細胞由来の非特異的タンパク質が結合しにくい特長と共に上記特性が合わさり、純度が高くバックグラウンドの低い免疫沈降を実現します。
質量分析(MS)データ中の夾雑物を低減します。
「オンビーズ消化(On-bead digestion)」法は、IP後に質量分析(MS:Mass spectrometry)を実施する場合、効率的で時間を節約できるMS解析用サンプルの前処理法です。Fabフラグメントの分子量は従来の完全長抗体よりも小さいため、オンビーズ法で調製したMSサンプル中の抗体由来のペプチド夾雑物を低減できることから、目的タンパク質の検出や相互作用タンパク質の解明を容易にします。
プロテインテックの関連アプリケーション:オンビーズ酵素アッセイ(On-bead Enzyme Assay)
プレインキュベーションが不要な試薬です。
Fab-Trap™のFabフラグメントはあらかじめアガロースビーズ担体に結合した状態になっています。すでにビーズ担体と結合しているため、一般的な未標識抗体を使用してIPを実施する場合に求められるプロテインAやプロテインGと抗体とのプレインキュベーションを必要としません。また、迅速にIPを実施できることで、分解しやすい安定性の低いタンパク質やタンパク質複合体のプルダウンを容易にします。さらに、プロテインAやプロテインGを使用する場合に必要なプレクリア処理も不要です。
様々な生物種および細胞に使用できます。
特定の細胞や生物種の中には抗体のFc領域(Fragment, crystallizable region)と結合してしまうタンパク質が存在します。例えば、免疫細胞のFc受容体や、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)等の細菌由来のプロテインA/G等が挙げられます。Fab-Trap™にはFc領域が存在しないため、Fc領域に結合してしまうタンパク質を産生する細胞やサンプルを用いた場合でも、労力を要するプレクリア処理をする必要がなく、バックグラウンドが低いIPを容易に実施することが可能です。
組換えFabフラグメントによる高い信頼性と再現性
クロモテックのFab-Trap™に使用されているFabフラグメントは、組換え体(リコンビナント抗体)として産生されます。遺伝子組換え技術を用いることで、ロット間で高い一貫性を示し、信頼性が高く再現性のある結果を得ることができます。組換え抗体とは対照的に、通常の抗体(動物血清由来やハイブリドーマ由来の抗体)はロットが異なるとバッチ間変動が大きくなり、IP実験の際に新たに最適化を必要とする場合があります。
まとめ
Fab-Trap™は、従来の完全長抗体を使用したIP用アフィニティ試薬に代わる優れた製品です。Fabフラグメントの分子量が小さいため、Fab-Trap™は、純度が高くバックグラウンドの低い良好なIPを実施することが可能です。さらに、IP後に実施する解析時の抗体由来のコンタミネーションを軽減します。また、IPに要する時間を削減し、様々な実験対象に使用することができます。
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