抗SARS-CoV-2組換えVHH抗体(Nanobody®)
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD:Receptor-binding domain)をターゲットとするVHH抗体(別名:Nanobody®)を紹介します。
アルパカ等のラクダ科動物に由来するVHH抗体(別名:Nanobody®)は、従来型抗体(IgG等の重鎖/軽鎖からなるイムノグロブリン)の代わりに利用可能な、単一の抗原結合ドメインを特徴とする分子量の小さい抗体です。プロテインテックの抗SARS-CoV-2 VHH抗体は、その強力な中和作用、独自のエピトープ認識構造、小さなサイズ、高い安定性と可溶性、迅速な組織浸透を特徴とします。このような小型の中和抗体試薬は、プロテインテックが提供するSARS-CoV-2抗体の製品群の中でも有用な選択肢となり得ます。
プロテインテックはSARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)をターゲットとする12種類の新規VHH抗体の販売を開始しました。
SARS-CoV-2のスパイクタンパク質(Sタンパク質)をターゲットとする従来型のIgG抗体に加え、プロテインテックはChromoTek製品(クロモテックは2020年10月よりプロテインテックグループの一部になりました)としてSARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)をターゲットとする12種類の新たな抗SARS-CoV-2 VHH抗体の販売を開始しました。本製品群では、単一のエピトープに結合する一価抗体(クローン番号:NM1220~NM1230)と、アビディティ効果(Avidity:2つ以上または複数の抗原結合部位が標的抗原エピトープと同時に相互作用することによって生じる累積結合強度または機能的親和性)を通じて高い親和性を示す二価抗体である「バイパラトピック(bi-paratopic)抗体」(クローン番号:NM1266、NM-1267)の2つのタイプのVHH抗体を提供しています。全12種類の抗体クローンはそれぞれが独自のエピトープを認識し、SARS-CoV-2 RBDとACE2(アンジオテンシン変換酵素II、コロナウイルス受容体)のインターフェース領域と結合するものや、インターフェースとは異なる部位に結合するものがあります。
バイパラトピックVHH抗体クローン(クローン番号:NM1267)は、SARS-CoV-2変異株のRBDバリアントに結合します。
バイパラトピックVHH抗体の1つであるChromoTek SARS-CoV-2 Spike Recombinant VHH [NM1267](カタログ番号:sc-NM1267)は異なる2つの領域に結合します。エピトープの1つはSARS-CoV-2 RBDとACE2のインターフェースの内部に位置し、もう1つはインターフェースの外側に位置します。バイオレイヤー干渉法(BLI:Bio-Layer Interferometry)による結合親和性解析では、本抗体(カタログ番号:sc-NM1267)はSARS-CoV-2のうちRBD変異株であるB.1.1.7系統(アルファ株)、B.1.351系統(ベータ株)、P1系統(ガンマ株)、P3系統(シータ株)、A.23.1.系統の変異株に対して同等の親和性を示しました。前述の変異株に対する結合親和性よりも若干低いものの、B.1.617.2(デルタ株)、B.1.429(イプシロン株)、B.1.617.1(旧カッパ株)に対しても高い結合親和性を示しました。さらに、本抗体(カタログ番号:sc-NM1267)はSARS-CoV-2野生株(非変異株)やB.1.351系統(ベータ株)変異株に対して強力な中和作用を示しました。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)研究にVHH抗体を採用する利点
- VHH抗体は、従来型の抗SARS-CoV-2抗体が認識しないユニークな三次元構造に結合します。
- 分子量が約15 kDaと小型の抗体であるため、複数クローンのVHH抗体を利用すれば、同一ターゲットの様々なエピトープに対して結合させることができます。
- VHH抗体は、治療応用研究で重要な要素となる強力な中和効果を発揮し、多価抗体または多パラトピック抗体の形で作製・利用することができます。
- VHH抗体は分子量の小さい小型の抗体であるため、優れた組織浸透性を示します。
- VHH抗体は可溶性が高く化学安定性に優れ、コンパクトな折りたたみ構造を示します。そのため、様々な実験条件で使用可能であり、厳しい条件下でも結合親和性は維持されます。
- VHH抗体にはFc領域が存在しないため、抗体依存性増強(ADE:Antibody dependent enhancement)のような有害となり得る事象の発生を防ぐことができます。その免疫原性の低さは、治療ツールとして応用できる可能性があります。
プロテインテックが製造・販売する抗SARS-CoV-2スパイクタンパク質VHH抗体の各クローンは、Wagnerらの研究論文を基に開発された抗体です(TR Wagner, E Ostertag, et al. 2021)。
アプリケーション
- 中和アッセイ
- マルチプレックスACE2競合アッセイ
- エピトープマッピング
抗SARS-CoV-2スパイクタンパク質リコンビナントVHH抗体一覧
製品名 | クローン番号 | アプリケーション | 交差種 |
SARS-CoV-2 Spike Recombinant VHH [NM1220] | NM1220 | BLI, Multiplex ACE2 competition assay | ウイルス |
SARS-CoV-2 Spike Recombinant VHH [NM1221] | NM1221 | BLI, Multiplex ACE2 competition assay | ウイルス |
SARS-CoV-2 Spike Recombinant VHH [NM1222] | NM1222 | BLI, Multiplex ACE2 competition assay | ウイルス |
SARS-CoV-2 Spike Recombinant VHH [NM1223] | NM1223 | BLI, Multiplex ACE2 competition assay | ウイルス |
SARS-CoV-2 Spike Recombinant VHH [NM1224] | NM1224 | BLI, Multiplex ACE2 competition assay | ウイルス |
SARS-CoV-2 Spike Recombinant VHH [NM1226] | NM1226 | BLI, Multiplex ACE2 competition assay | ウイルス |
SARS-CoV-2 Spike Recombinant VHH [NM1227] | NM1227 | BLI, Multiplex ACE2 competition assay | ウイルス |
SARS-CoV-2 Spike Recombinant VHH [NM1228] | NM1228 | BLI, Multiplex ACE2 competition assay | ウイルス |
SARS-CoV-2 Spike Recombinant VHH [NM1229] | NM1229 | BLI, Multiplex ACE2 competition assay | ウイルス |
SARS-CoV-2 Spike Recombinant VHH [NM1230] | NM1230 | BLI, Multiplex ACE2 competition assay | ウイルス |
SARS-CoV-2 Spike Recombinant VHH [NM1266] | NM1266 | BLI, Multiplex ACE2 competition assay | ウイルス |
SARS-CoV-2 Spike Recombinant VHH [NM1267] | NM1267 | BLI, Multiplex ACE2 competition assay | ウイルス |
参考文献
関連製品