抗体アプリケーションで使われる用語・略語

WB:Western blot、ウェスタンブロット

ウェスタンブロット(WB)とは、組織ライセートや細胞ライセート等のサンプル中に存在する特定タンパク質の発現量やその修飾変化を評価するために使用される半定量的な生化学的分析手法です。ウェスタンブロット法では、はじめに細胞や組織等の生体サンプルをバッファーに溶解することで、タンパク質を可溶化させた組織ライセートや細胞ライセートを調製します。続いてサンプル中のタンパク質を変性させ、SDS-PAGE(ポリアクリルアミド電気泳動)を実施します。SDS-PAGEではゲルにアプライしたタンパク質が分子量に従って分離します。その後、ゲル上のタンパク質をメンブレン(ニトロセルロース膜やPVDF膜)に転写します。転写後、目的タンパク質に特異的な一次抗体を添加することでメンブレン上のタンパク質を捕捉し、続けて酵素や蛍光色素で標識された二次抗体を用いて検出します。最後にフィルムや特殊なカメラを使用することで現像・画像化します。写真や画像上では、メンブレンにバンド状になって出現した目的タンパク質を確認することができます。

IP:Immunoprecipitation、免疫沈降

免疫沈降(IP)とは、抗体を使用して、細胞ライセートや組織ライセートサンプル中に含まれる特定のタンパク質や翻訳後修飾産物等を沈降させ、目的タンパク質を単離・濃縮するための生化学的手法です。免疫沈降法は、目的タンパク質と相互作用する物質の同定にも使用されます(参照先:CoIPの項目)。免疫沈降法を用いてタンパク質を単離する工程では、一般的に免疫沈降用ビーズ(アガロースビーズや磁気ビーズ等)にあらかじめ結合させた抗体を使用します。抗体とライセートサンプルをインキュベートすることで形成させた抗体-タンパク質複合体はマグネットや遠心分離によって回収され、洗浄ステップを経て最終的に溶出されます。

RIP:RNA immunoprecipitation、RNA免疫沈降

RNA免疫沈降(RIP)とは、免疫沈降(IP)法の一種であり、リボヌクレオタンパク質(RNAを含む核タンパク質)やRNAに結合したタンパク質を標的とする抗体を使用して免疫沈降を実施することで、同タンパク質と共にRNAを単離・回収することができる生化学的手法です。RNA免疫沈降によって分離したRNAを解析する際は、RT-PCRやcDNAのシーケンシング解析を実施します。

Immunoelectron microscopy:免疫電子顕微鏡法、免疫電顕法

免疫電子顕微鏡(免疫電顕)法とは、金(金コロイド、金ナノ粒子)をはじめとする重金属等で標識した抗体を用いて組織染色を行い、電子顕微鏡(Electron Microscope)下でタンパク質を観察する手法です。免疫電子顕微鏡法を用いると光学顕微鏡よりも高い解像度でタンパク質の局在を解析・評価することができます。

IHC:Immunohistochemistry、免疫組織化学

免疫組織化学(IHC)とは、組織の構造・形態が維持された状態の組織切片サンプル上で特定のタンパク質を染色・可視化するための生化学的手法です。免疫組織化学では、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織や凍結(OCT包埋)組織を調製し、通常のミクロトームや凍結ミクロトーム(クリオスタット)で薄切した切片をスライドガラス上にのせてから抗体で染色します。間接的に検出する場合、酵素や蛍光色素で標識された二次抗体を利用して、発色や蛍光シグナルを光学顕微鏡または蛍光顕微鏡下で観察します。その際、組織切片内の細胞構造を明確にするために、一般的にヘマトキシリン・エオジン液による対比染色を並行して実施します。蛍光染色では、多くの場合DAPIによる核染色が実施されます。

ICC/IF:Immunocytochemistry/Immunocytochemistry、免疫細胞化学/免疫蛍光染色

免疫細胞化学(ICC)/免疫蛍光染色(IF)とは、細胞の構造・形態が維持された状態の細胞サンプル中の特定タンパク質を染色・可視化するための生化学的手法です。免疫細胞化学/免疫蛍光染色では、主に細胞サンプルに対して蛍光標識抗体を適用し、細胞内や細胞表面の目的タンパク質を染色します。並行して、核染色剤であるDAPIによる対比染色も一般的に実施されます。DAPI以外の核染色剤が使用される場合もあります。免疫細胞化学(ICC)と免疫蛍光染色(IF)という用語は区別される場合もありますが、プロテインテックの製品データシートでは両者を同義語として使用しています。

FC/FACS:Flow cytometry/Fluorescence-activated Cell Sorting、フローサイトメトリー/蛍光活性化セルソーティング

フローサイトメトリー(FC)とは、フローサイトメーターと呼ばれる細胞解析装置を利用する実験手法全般を指し、主に蛍光標識抗体によって染色した細胞の解析等に利用されます。例えば、細胞マーカー抗体を用いてバッファー中に懸濁した細胞をあらかじめ染色することにより、特定タンパク質を発現する細胞集団サブセットを特定し、その発現レベルを定量化することができます。フローサイトメトリー実験の抗体染色ステップでは、一般的に細胞表面に発現する膜タンパク質をターゲットにして行われますが、細胞質や核に局在する細胞内タンパク質を検出することもできます。細胞内タンパク質を対象とする場合、細胞に透過処理を施してから抗体で染色します。プロテインテックでは「細胞内フローサイトメトリー(Intracellular flow cytometry)」で検証している製品の場合、製品データシートには「FC (Intra)」と記載しています。フローサイトメトリーでは、蛍光標識抗体を用いた細胞染色と並行して、生細胞だけを解析対象とするために生細胞/死細胞判定試薬を用いた対比染色を実施します。FACSは、フローサイトメトリー解析の一種であり、蛍光標識した細胞集団をフローサイトメーターで測定・解析するとともに、蛍光シグナルに基づいて細胞を個別にソーティング・分取する手法です。

CoIP:Co-immunoprecipitation、共免疫沈降

共免疫沈降(CoIP)とは、免疫沈降(IP)の一種であり、目的タンパク質と相互作用する物質を同定するために使用される手法です。共免疫沈降を実施する場合、相互作用因子と複合体を形成しているタンパク質に特異的な抗体を使用して複合体全体を沈降させ分離・回収します。免疫沈降後、ウェスタンブロットや質量分析(MS)を実施することによって、分離サンプル中に含まれる相互作用因子の有無やその発現レベルの解析、新規の相互作用タンパク質のスクリーニング・同定を行います。

ChIP:Chromatin immunoprecipitation、クロマチン免疫沈降

クロマチン免疫沈降(ChIP)とは、免疫沈降(IP)の一種であり、特定タンパク質のDNA結合部位を明らかにするために使用されます。クロマチン免疫沈降を実施する場合、細胞のDNAとタンパク質間の架橋(クロスリンク)操作を実施し、その後細胞溶解とDNAの切断・断片化処理を行います。続いて、DNA相互作用タンパク質に対する抗体を用いて免疫沈降を行います。免疫沈降後、サンプル中に含まれるDNAに対してPCR、qPCR、マイクロアレイ、シーケンシング等の解析を実施します。

Direct ELISA:Direct enzyme-linked immunosorbent assay、直接ELISA法

直接ELISA法とは、酵素等で標識された抗体を用いてプラスチックプレート等の基材上に固相化したタンパク質を検出するための手法です。直接ELISA法では、はじめにタンパク質サンプルを基材表面に固相化します。続けて、酵素等で標識された抗体とインキュベートします。基質を添加すると、抗体に標識された酵素の作用によって基質が変換され、基質の種類に応じて定量可能な発色、蛍光、発光シグナルを得ることができます。

Indirect ELISA:Indirect enzyme-linked immunosorbent assay、間接ELISA法

間接ELISA法は、直接ELISA法と類似の手法ですが、検出時に目的タンパク質特異的な未標識抗体(一次抗体)とともに酵素標識された抗イムノグロブリン抗体(二次抗体)を利用する点が直接ELISA法とは異なります。二次抗体を用いることによって得られるシグナルを増幅することができます。

Sandwich ELISA:Sandwich enzyme-linked immunosorbent assay、サンドイッチELISA法

サンドイッチELISA法とは、同一タンパク質に対する2種類の抗体(マッチドペア抗体)を用いて、生体液中のタンパク質濃度を測定・定量化するために利用されるELISA法の一種です。サンドイッチELISA法では、最初に96ウェルプレート等の基材表面に第1の抗体(捕捉抗体/キャプチャー抗体)を固相化します。続けて、適切なバッファーで希釈した生体液サンプル(血清、血漿、細胞培養上清、尿、脳脊髄液、細胞・組織ライセート/ホモジネート等)を添加して、生体液中の目的タンパク質をプレート上の抗体で捕捉します。洗浄後、主にHRP等の酵素で標識された第2の抗体(検出抗体)を加え、その後基質を添加して発色させた後、プレートリーダー等でOD値を測定・数値化します。サンドイッチELISA法では、捕捉抗体と検出抗体の抗体ペアでタンパク質を「サンドイッチ(挟む)」することによって、粗精製サンプル中の目的タンパク質に対する特異性と感度を向上させています。濃度既知の標準タンパク質(スタンダード)の希釈系列を調製し、サンプルと同時に測定することによって検量線(スタンダードカーブ)を作成することができ、スタンダードカーブにサンプルの測定値を当てはめることで濃度を算出することができます。