博士課程(海外)の面接試験対策—よくある質問と回答例—
博士課程に進学する際の面接試験を成功させるためによくある質問の回答例を紹介します。
面接試験は、博士課程への進学時に避けては通れない極めて重要な審査過程です。面接は指導教官や研究資金の助成団体(「funded PhD」公募の場合)が、あなたが博士号取得を目指す候補者として相応しいか否かを判断する場です。面接試験を困難に感じるかもしれませんが、準備を整えれば自信をもって面接に挑むことができ、最高の自分を演出することができます。
※本稿では、以下の英文記事を日本語訳して掲載しています。
https://www.ptglab.com/news/blog/example-phd-interview-questions-and-answers/
博士課程の面接試験では、研究プロジェクト案やこれまでの研究経験に関する短いプレゼンテーションを実施するケースも多くあります。披露すべき過去の経験がどの程度あるかによってプレゼンテーションの内容を適宜調整します。特に希望する進学先のプロジェクトと直接的に関係する経験がある場合は、学士課程や修士課程での研究活動、あるいは一般企業で携わった研究等の広範囲に渡る経験をぜひともアピールしてください。
プレゼンテーションの後は質疑応答の時間が設けられ、面接官からの質問に答えることになるでしょう。また、ご自身から面接官宛てに質問をする機会もあるはずです。面接官に質問する内容もいくつか準備しておくことをおすすめします。
本稿では、博士課程の面接でよく尋ねられる質問と、それに答えるためのヒントをまとめました。しかしながら、面接の内容は極めて多岐に及ぶため、本稿は面接対策の参考となる枠組みを提供することを目的としていることにご留意ください。
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「自己紹介をお願いします(“Tell us about yourself.”)」
この質問は、面接冒頭での典型的な質問であり、多くの場合アイスブレーカーとして用いられます。一番緊張する瞬間に落ち着いて幸先の良いスタートを切ることができるよう、練習しておくと良いでしょう。携わるプロジェクトや今までのキャリアについての詳細をすぐにでも話したくなるかもしれませんが、これらの話題について議論する十分な時間が後に設けられているはずです。まずは肩の力を抜いて面接に挑みましょう。その代わりに、アカデミアでの経歴や科学的関心・興味(例:生化学にとても関心があります)等に焦点を当て、博士課程で取り組みたいことを関連付けて簡潔に述べてください。
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「なぜ博士号を取得したいのですか?(“Why do you want to do a PhD?”)」
この質問は重要な質問です。自分自身にも問いかけて確信をもって答えられる内容にしておきましょう。博士号の取得は数年を費やす大掛かりな挑戦ですが、確固たる理由があれば、たとえ困難な時期がきても乗り越えることができるでしょう。
盛り込みたいポイント:
- 感銘を受けた学生時代の教授(A professor during your undergraduate degree that inspired you)
- 特定の疾病を抱える患者の治療を手助けしたいという強い想い(A desire to help improve the outcome of patients with a specific disease)(提案するプロジェクトと関連する内容にします)
- 博士課程で取り組みたい分野で実践を重ね、その領域の知見を深める活動に寄与したいという科学への熱意(A love for science that you want to put into practice and contribute to the collective knowledge in that area)
- 知的好奇心旺盛で問題解決を好む自身の性質を踏まえ、ご自身の特性と研究分野への興味を結び付けたいと考えていること(You are an inquisitive problem-solver and want to combine this with your interest in [topic])
ご自身と向き合って、博士号取得を目指す動機を誠実に考えましょう。正解はありません。博士号を取得したいと面接に臨むのであれば、おそらく正当な動機があるはずです。
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「このプロジェクトに取り組みたいと思った理由を教えてください/このプロジェクトを重要と考えた理由を教えてください(“Why do you want to work on this project/Why do you think this project is important?")」
この質問は、博士課程で携わるプロジェクトにおける研究提案と幅広い研究分野との関わりについて踏み込んで説明する機会です。携わるプロジェクトで将来の競争的研究費等の獲得を争うことになるような場合、この質問への回答は特に重要となります。プロジェクトが投資に値する価値があり、明快なインパクトのある結果をもたらす可能性を審査する教官たちに披露したいところです。また、博士号取得過程で使用される特定の研究手技・手法や、その先進性について、論文発表につながる可能性もあり得ることを論じることもできます。そのプロジェクトが共同研究につながる可能性がある場合は、共同研究の可能性や予想される成果を強調しましょう。
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「この研究グループで研究したいと思った理由を教えてください/このPIを希望した理由を教えてください(“Why do you want to work in this research group/for this PI?”)」
指導教官の研究グループ、研究グループによる発表論文、共同研究等は徹底的に事前調査するようにしてください。できれば最近注目を集めた発表論文や新しい技術に着目しましょう。この回答には、研究グループへ加わることへのあなたのひたむきさや熱意を表すと同時に、研究グループや大学が誇る業績を盛り込みます。指導教官は、あなたが希望する研究目標が研究チームのテーマと合致しているか、そしてあなたが他の研究メンバーとうまくやっていけるか知りたいと考えています。
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「あなたはこのグループにどう貢献できますか?(“What can you bring to this group?”)」
この質問は、あなたの技術的なスキルとソフトスキルの両方を披露する機会です。回答は、これまでの研究経験や、得られたスキルやアイデアを活かしてどのようにラボに貢献できるかについて言及します。研究経験が十分にない場合は、いかに自分の学習能力が高く(例を挙げて説明しましょう)、科学のセンスに優れ、学習意欲があるかを述べます。4.で言及したように、将来の指導教官となる面接官は、あなたが研究チームに加わる価値のある人物であることを確かめたいと思っています。専門的なテクニックを持ち合わせていなかったとしても気にすることはありません。あなたはこれから学ぶために博士課程へ進学するのであり、博士課程に進むほとんどの人は限られたラボ経験しか持っていません。
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「この大学を選んだ理由を教えてください/この助成金プログラムに応募した理由を教えてください(“Why do you want to be at this university/on this funding program?”)」
博士号取得には多大な時間と費用がかかります。助成金提供者や大学関係者は候補者の研究目標が適合しているだけでなく、候補者が自分たちにコミットメントできるか知りたいと考えています。募集枠は限られ、その他の候補者との差別化を図る必要があります。この質問に対する回答のヒントは、応募先の機関や組織が誇る制度や施設に言及することです(オンラインで検索すれば容易に見つかるでしょう)。言及するポイントを以下に記載しました。
- 素晴らしい論文実績と助成金実績がある世界有数の研究機関である(A world-leading institution with an excellent publication and funding record)。
- 興味がある分野の共同研究、または自分にとって有益な共同研究を実施している(Research collaborations that interest you or could benefit you)(例:臨床試験や製薬会社との関わりが深い)。
- 大学で利用できる具体的な施設や設備(Specific facilities or equipment the university has to offer)(例:超解像顕微鏡)。
- 大学の理念に深く共感するところがある(The ethos of the university is one you closely align with)。
- 研修制度やインターンシップ・共同研究に参加する機会のある資金プログラムである(Funding programs that come with additional training and funding opportunities for internships and collaborations)。
研究以外の具体的理由は、助成金提供者に対して強調したいポイントです。このことは、博士号取得という自身の目的だけではなく、助成金提供者に対するコミットメントも示すものとなります。
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「あなたがこの博士号プロジェクトに適任である理由は何ですか?(“What makes you the right candidate for this PhD project?”)」
もし限られた経験しか積んでいなかった場合は回答するのが難しい質問ですが、ポジティブに自分を売り込むことを恐れてはなりません。研究に貢献したいという決意や願望、このプロジェクトへの意欲、技術スキル、プロジェクトがもたらすインパクトへの信念、自分がいかに指導教官の下やその研究グループで活動するのに適した人物であるかといった事柄を中心に回答しましょう。
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「このプロジェクトがもたらすインパクトをどのようなものにしたいですか?(“What would you like the impact of this project to be?”)」
研究内容のインパクトは、主に発表雑誌や次の助成金事業に投稿/応募可能なデータを取得できるかどうか等によって判断されます。この質問について討論する能力は、自身の博士号取得というミクロな視点を超えて、研究業界や研究自体に対するあなたの認識を示します。研究は論文発表やカンファレンスを通じて普及されます。プロジェクトのインパクトは、開始段階で明確になっていません。しかし、公明正大に論じることで、ご自身の成熟度を示すことができ、面接に有利に働くことになるでしょう。プロジェクト案には博士号取得という目的以上の意義があることを述べ、将来のさらなる研究につながる可能性を伝えます。
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「プロジェクト遂行時にどのような課題に直面することを想定していますか?(“What difficulties do you expect to encounter during this project?”)」
このような質問をされた場合、想定される具体的な技術的課題を討論します(例:初代細胞の培養条件を最適化する必要があるでしょう、あるいは血管性認知症モデルを研究するためのiPS細胞による新たなモデルを構築する必要があるでしょう)。この質疑応答では、あなたがプロジェクト内容を徹底的に検討し、課題を解決する気概にあふれていることを表現します。可能であれば、プロジェクトの課題を解決するための計画を述べ、議論しましょう。
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「自分の長所と短所は何だと思いますか?(“What are your strengths/weaknesses?”)」
この質問も面接でよく聞かれる質問の1つであるため、事前に対策を練りましょう。STARメソッド(STAR:Situation、Task、Action、Result)のようなフォーマットを使用して回答を構造化しつつ、具体例を用いて自分なりの回答を用意します。短所について述べる場合は、自分の短所への取り組み方に言及するか、前向きな内容に転換して説明します。プロテインテックのブログ記事「面接対策・方法(海外)—アカデミア・企業—」を参考にご覧ください。
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「博士号取得後は何をしたいですか?(“What do you want to do after your PhD?”)」
博士課程進学の面接をする時点で将来のキャリアプランが明確ではないと思いますが、よくある質問であるため回答を考えておくと良いでしょう。博士号を取得すれば、アカデミアでの研究職や教職等のキャリアを歩むことができます。それが自分のキャリアプランであったとすれば尚のこと、アカデミアや教育分野で働きたいという希望は強調しましょう。また、4年間以上に及ぶ博士課程(※国や人によって期間は異なります)にどのようなことがあっても良いように、選択肢を残している旨を伝えることも問題ありません。
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「挫折を経験したときのことや、それをどう乗り越えたのか説明してください(“Describe a time you experienced a setback and how you overcame it.”)」
一般的な面接でもよく登場する質問です。個人的な出来事ではなく、業務や学習の場での例を説明することをおすすめします。事前に準備して、STARフォーマットに従うことで、明確で印象的な回答ができるでしょう。もし、同様の状況に再び陥り異なる手段で対処したことがある場合は、そのことを強調しましょう。
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「プロジェクトに携わる間、どのようにモチベーションを維持しますか?(“How will you keep yourself motivated throughout the project?”)」
博士号取得を目指す原動力や、プロジェクトへの想いを具体的に述べましょう。博士課程の学生でいる間、山あり谷ありの経験をするだろうという認識を示すことで、博士課程進学後の困難について現実的に考えていることを面接官にアピールすることができます。博士課程の研究業務を離れた際に、リラックスでき、健康的なワークライフバランスの維持を助けてくれる趣味(例:運動、読書、料理、その他の趣味)について言及するのも良いでしょう。
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「この分野で最近公開された論文について述べてください(“What are some recent publications in the field?”)」
この質問は、あなたが事前にプロジェクトに関連する分野の論文を読んでいるか確認する目的で問いかけられます。いくつかの最新の文献を読んで、考察したり要約したりできるようにあらかじめ準備しておきましょう。この質問への回答は、博士課程のプロジェクトに対する姿勢と熱意、そして面接への万全の備えが示されます。
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「何か質問はありますか?(“Do you have any questions for us?”)」
面接官に尋ねる質問をいくつか用意しておきましょう。面接官への質問は、あなたの関心の高さや博士課程への進学を真剣に考えていることをはっきりと印象付けます。
質問例:
- もし指導教官と直接対話できる場合は、プロジェクトについて具体的な質問をしたり、研究テーマについて詳しい説明を求めることができます。
- 誰かに指導する機会はあるのでしょうか?(Will I have any teaching opportunities?)
- 研究の幅を広げられるようなサポートはありますか?(Are there opportunities and support available to disseminate my work?)(例:学術会議、論文発表)
- 研修やキャリア形成プログラムにはどのようなものがありますか?(What are the training and career development opportunities?)
- 学部や大学の何らかの開発計画は予定されていますか?(Are there any developments planned for the department or university?)
若手研究者向けのキャリアやライフプランに関するその他のヒントを、プロテインテックホームページ(英語版:www.ptglab.com)のECR(Early Career Researcher)Hubで紹介しています。
Lucie Reboud著(マンチェスター大学博士課程在籍(がん領域)、プロテインテック インターン生)