抗体の交差反応性を確認するためには?

交差反応とは、1種類の特定の抗原に対して作製した抗体が、類似した構造領域を持つ抗原も認識することです。本記事では、抗体の専門家としての経験を基に、こうした現象がなぜ起きるのかについて解説すると共に、ご自身の実験において交差反応性が生じるか判断するためのツールを紹介します。


交差反応性とは?

抗体には、特異的抗原に対する親和性を決定する、特異的なアミノ酸配列(Fab領域に存在)があります。 抗原間の交差反応は、1つの特異的抗原に対して作製した抗体が、異なる抗原に対して競合的に高い親和性を示す場合に生じます。つまり、抗体は、抗体作製に使用したタンパク質(免疫原)とは異なるタンパク質を認識することができます。こうしたケースは、抗体が認識する構造領域が2つの抗原で類似している場合によく認められます。

交差反応性は、実験結果を不確かなものにする可能性があり、科学的再現性に好ましくない影響を与えます。そのため、関連性のあるタンパク質に対する抗体の交差反応性の試験は、試験の正確性を保証する試験といえます。

交差反応性を確認するには?

抗体の交差反応性を迅速かつ簡便に確認するには、抗体の免疫原となったタンパク質と、そのタンパク質と類似している他のタンパク質の相同性を評価します。こうした評価はNCBI-BLAST(外部サイト)を使用したペアワイズシーケンスアラインメントにより実行できます。NCBI-BLASTでは、抗体が類似タンパク質や別の動物種のタンパク質に対して交差反応性を示す可能性をチェックすることが可能です。交差反応性は、必ずしもネガティブな性質であるとは限らず、例えば種間で交差反応性を示す抗体であれば、同じ抗体を複数のモデル生物に使用することができます。
ポリクローナル抗体は、免疫原配列内の複数のエピトープを認識するという性質のために、交差反応性を示す可能性が高いことに留意してください。したがって、好ましくない交差反応性があると疑われる場合は、モノクローナル抗体(1つのエピトープのみを認識する均一のIgG抗体群)への変更を検討してください。それとは逆に、その他の動物種にも反応する抗体を探している場合、鎖長の長い組換えタンパク質に対して作製されたポリクローナル抗体を使用します。プロテインテックの抗体の95%が、鎖長の長いヒト組換えタンパク質を使用して作製されています。それはつまり、マウス、ラット、ショウジョウバエ、ゼブラフィッシュ等の非ヒトモデル動物で交差反応性を示す可能性が増すことを意味します。

交差反応性を予測する相同性の「適切な値」とは?

抗体開発に関する長年の経験や、大勢の顧客の皆様との仕事に基づくと、ほぼ確実に交差反応性を示すマジックナンバーは、免疫原の配列との相同性が「75%」以上であることがわかっています。相同性が60%を超えている場合は、交差反応性を示す可能性が高いと考えられますが、アッセイや、試料の特異的な挙動についての検証を行う必要があるでしょう。

使っている抗体は他の種と交差反応を起こすか?

免疫原タンパク質の配列と交差反応性を示す可能性のあるタンパク質の配列の相同性の程度に依存します。上述した通りNCBI-BLAST(外部サイト)を利用して、使用動物を具体的に選択します。

実施例:プロテインテックのP53 polyclonal antibody(カタログ番号:10442-1-AP)がヒツジ(Ovis aries)試料と交差反応性を示す可能性はどの程度あるか調べる。

Step 1:抗体の免疫原となった配列を調べる(配列情報がリンク先に記載されています)。

Step 2:配列情報をNCBI-BLAST(外部サイト)の「Enter Query Sequence」のボックスにペーストする。

NCBI-BLASTの入力ボックス画像

Step 3:「Standard」欄の「Organism」に、相同性を確認したい生物種を入力し検索する(生物種の学名を使用します)。

検索設定(生物種の入力欄)の画像

Step 4: 「BLAST」をクリックし、結果を確認する。

本抗体(カタログ番号:10442-1-AP)の免疫原は、ヒツジにおけるホモログと71%の相同性を示しているため、強い交差反応性を示す可能性があります。本抗体については、使用文献でもヒツジへの交差反応性が認められています。

検索結果の抜粋画像(相同性のパーセンテージ表示を確認)

ウェスタンブロット・免疫蛍光染色の実験で、交差反応を回避する方法

例えば、マウス組織にマウス由来の抗体を結合させる実験の場合、組織の免疫染色アッセイで交差反応が生じる可能性があります。Mouse-on-mouse染色に関するプロテインテックのブログ記事もご覧いただけますが、こうした問題に関する1つの解決策として、プロテインテックのCoraLite®シリーズ等の直接標識一次抗体のご利用をおすすめします。マルチプレックス化(多重染色)の場合、異なる動物種で作製した一次抗体を使用するよう留意します。したがって、それぞれ別の動物種を免疫原にして作製した二次抗体を使用します。

異なるIgGサブタイプのマウスモノクローナル抗体(例:IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3)を多重染色に利用することもできます。ChromoTek(クロモテック:2020年よりプロテインテックの一部)のNanosecondary®シリーズは、他の動物種やサブクラス抗体と反応性を示さないことが認められており、多重染色の最適なツールとなっています。

 

アルパカ由来の2種類の抗マウスNano Secondary、1種類の抗ウサギNano Secondaryを使用したHeLa細胞のマルチプレックス染色

アルパカ由来の2種類の抗マウスNano Secondary®と1種類の抗ウサギNano Secondary®を使用したHeLa細胞のマルチプレックス染色(多重染色)。

緑:マウス抗COX4 IgG1抗体+Alexa Fluor® 488標識アルパカ抗マウスIgG1 VHH抗体。

マゼンタ:マウス抗Tubulin IgG2b抗体+Alexa Fluor® 647標識アルパカ抗マウスIgG2b VHH抗体。

黄色:ウサギ抗Lamin抗体+Alexa Fluor® 568標識アルパカ抗ウサギIgG VHH抗体。

ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン(LMU-Munich)Core Facility Bioimaging部門にて撮影。(スケールバー:10µm)

二次抗体の交差吸着とは?

交差吸着二次抗体は、オフターゲット種に結合する免疫グロブリン(IgG)を除去するための追加の精製工程を経て製造されたポリクローナル抗体です。このプロセスによって交差反応性を示す抗体が減少し、種特異性が高くなります。実験条件によりますが、交差吸着処理済み(cross-adsorbed)の二次抗体や高度交差吸着処理済み(highly cross-adsorbed)の二次抗体として市販されている製品を利用できます。

関連資料

1. Polyclonal vs. monoclonal antibodies(ブログ)

2. Secondary antibody selection(ブログ)

3. Protein or peptide antigen? Advantages and disadvantages(ブログ)