最適な二次抗体の選び方とは?
アプリケーションごとに最適な二次抗体を選択する方法を解説します。
二次抗体(Secondary Antibody)とは一次抗体を標的とする抗体であり、一次抗体が産生された動物種由来の免疫グロブリン(Ig)に対して特異的に結合します。二次抗体は一次抗体を介した研究対象分子/タンパク質の間接的検出に利用され、シグナルの増幅効果や様々な検出システムへの拡張性等の利点を通じて標的分子/タンパク質の検出を容易化します。一般的に、二次抗体を用いた標的分子の効率的な検出のために、二次抗体には酵素・蛍光色素・ビオチン等の各種物質が予め標識されています。二次抗体を利用する間接検出法は、標識済み一次抗体を使用する直接検出法と比較して、以下に示すようないくつかの利点を提供します。
シグナルの増幅/感度の向上 ‐ 一次抗体1分子に対して複数の二次抗体分子が結合するため、シグナルが増幅され、感度が向上します。
柔軟性・互換性 ‐ 様々な非標識一次抗体と組み合わせることができるため、1種類の二次抗体を様々なターゲットタンパク質の検出に流用することができます。
検出システムの拡張性 ‐ 目的のアプリケーションに合わせて、酵素・蛍光色素・ビオチン等の各種標識済み二次抗体の中から柔軟に選択することができます。例えば、単一の非標識一次抗体に対して、ウェスタンブロット(WB:Western blot)検出時にはHRP標識二次抗体を適用し、免疫蛍光染色(IF:Immunofluorescence)やフローサイトメトリー(FC:Flowcytometry)解析を実施する際には蛍光色素標識二次抗体を選択することができます。
豊富な市販品 ‐ ほとんどの免疫動物に対する二次抗体を様々なメーカーから入手できます。さらに、幅広い標識物質オプションの中から任意の標識物質を選ぶことができます。
一次抗体は、標識二次抗体を使用するか(間接検出法)、直接標識一次抗体を使用して(直接検出)検出できます。
プロテインテックは、ウェスタンブロット(WB)、免疫蛍光染色(IF)、免疫組織化学(IHC)、フローサイトメトリー(FC)、ELISA等の様々なアプリケーションで非標標識の一次抗体を高感度に検出する、幅広い二次抗体製品をラインアップしています。
最適な二次抗体の選び方とは?
アプリケーションごとに最適な二次抗体を選択するためには、複数の要素を考慮する必要があります。ターゲット分子/タンパク質を高感度かつ高精度に検出するうえで重要なポイントを以下に記載します。
1. 交差動物種とアイソタイプ特異性 ‐ 二次抗体は、一次抗体を産生した免疫動物(宿主動物)の免疫グロブリン(Ig)アイソタイプを特異的に認識するものである必要があるとともに、一次抗体の免疫動物とは異なる動物種で産生されたものである必要があります。例えば、免疫動物がマウス由来の一次抗体を検出する場合、二次抗体はマウス以外の動物種で産生された抗マウス免疫グロブリン(Ig)抗体を選択します(例:ヤギ由来抗マウスIgG抗体)。さらに、二次抗体は一次抗体の特定アイソタイプ(クラス/サブクラス)に特異的である必要があります。一次抗体がポリクローナル抗体の場合、そのほとんどのアイソタイプはIgGとなります。そのため、二次抗体としてIgGの重鎖と軽鎖の両方を認識する抗体を選択します(例:抗IgG(H+L)抗体/抗IgG(H&L)抗体)。一方で、一次抗体がモノクローナル抗体の場合、任意のIgGサブクラスを持つ単一クローンの抗体として産生されます。そのため、検出には特定アイソタイプ(クラス/サブクラス)を認識可能な二次抗体を選択する必要があります。
2. 抗体タイプ(クローナリティ) ‐ 一般的に抗体試薬はポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体のいずれかの抗体タイプに分類されます。ポリクローナル抗体は、同一抗原上の複数のエピトープを認識する不均一な抗体集団です。一方、モノクローナル抗体は抗原上の同一かつ単一のエピトープを認識する均一な抗体集団です。どちらのタイプの二次抗体を選択するかを判断するためには、目的のアプリケーションにおいて「特異性」と「感度」のどちらを優先すべきかを考慮することも重要となります。一般的に、モノクローナル二次抗体はポリクローナル二次抗体よりも優れた「特異性」を有し、ターゲットタンパク質の検出時に高い特異性が求められるアプリケーションに適しています(例:特定アイソタイプの一次抗体を特異的に検出する必要がある場合)。また、ポリクローナル二次抗体はモノクローナル二次抗体よりも「感度」が高い傾向にあり、高い感度が求められるアプリケーションに適しています(例:存在量の少ないターゲットを検出するような場合)。
プロテインテックのMulti-rAb(マルチ・ラブ)組換え二次抗体は、ポリクローナル抗体のような「高い検出感度」とモノクローナル抗体の「優れた特異性」を兼ね備えた新しいタイプの二次抗体です。Multi-rAbは、同一のIgG上に位置する重複しないエピトープを認識するリコンビナント(組換え)モノクローナル抗体を混合したカクテルタイプの二次抗体です。種間交差反応性を最小限に抑え、高いシグナルと低いバックグラウンドを示す製品を実現するために、Multi-rAbに含まれる各クローンはプロテインテックラボにおける厳格なスクリーニング戦略を介して取得され、厳密な特性解析によって選抜されました。各クローンは、実際のアプリケーション検証と最適化によって、カクテル化する複数クローンの組み合わせのパターンが選択/決定され、最高水準のパフォーマンスを発揮する新タイプの二次抗体は完成しました。
MCF-7細胞の免疫蛍光染色。緑:ZO-1抗体(カタログ番号:21773-1-AP)。マゼンタ:Alpha Tubulin抗体(カタログ番号:66031-1-Ig)。検出にはMulti-rAb CoraLite® Plus 488-Goat Anti-Rabbit Recombinant Secondary Antibody (H+L)(カタログ番号:RGAR002)とMulti-rAb CoraLite® Plus 647-Goat Anti-Mouse Recombinant Secondary Antibody (H+L)(カタログ番号:RGAM005)を使用しました。 |
ラット脳FFPE切片の免疫蛍光染色。緑:GFAP抗体(カタログ番号:16825-1-AP)。赤:NeuN抗体(カタログ番号:66836-1-Ig)。検出にはMulti-rAb CoraLite® Plus 488-Goat Anti-Rabbit Recombinant Secondary Antibody (H+L)(カタログ番号:RGAR002)とMulti-rAb CoraLite® Plus 594-Goat Anti-Mouse Recombinant Secondary Antibody (H+L)(カタログ番号:RGAM004)を使用しました。 |
3. 免疫動物(宿主動物) ‐ 免疫動物とは抗体を産生する動物種を指し、宿主動物やホスト動物とも呼ばれます。二次抗体の産生に使用された免疫動物の種類と一次抗体の産生に使用された免疫動物の種類は、一般的に異なる組み合わせの動物種となる必要があります。市販の一次抗体試薬の大半はウサギまたはマウスを免疫動物に用いて作製されています。また、市販されている多くの二次抗体はヤギを免疫動物に用いて作製されています。
マルチプレックス(多重化)実験を実施する場合、使用するすべての非標識一次抗体はそれぞれが異なる免疫動物に由来する抗体であることが推奨されます。また、二次抗体は二次抗体同士の相互作用/交差反応を避けるために、同一の免疫動物から作製された抗体を使用することが推奨されます。この対策により、ターゲット以外の動物種由来の一次抗体と二次抗体間での非特異的交差反応、または二次抗体同士の非特異的交差反応を回避することができます。
4. 抗体フォーマット ‐ 完全長抗体やフラグメント抗体等の多岐に及ぶフォーマットの二次抗体が市販されています。二次抗体フォーマットの選択肢は、二次抗体を適用するアプリケーションによって異なります。例えば、F(ab’)2やFab‘等のフラグメント抗体は、完全長抗体よりも分子量が小さく組織浸透性に優れるため、固定動物組織や培養細胞サンプルの免疫組織化学(IHC)や免疫蛍光染色(IF)に適しています。また、フラグメント二次抗体はFc領域が除去されているため、特定の細胞種(B細胞、NK細胞、マクロファージ、樹状細胞等)に存在するFc受容体に対して二次抗体のFc領域が非特異的に結合することが原因となって生じるバックグラウンドが発生しにくく、Fc受容体が豊富に発現するサンプルへの使用に極めて適しています。ただし、フラグメント抗体の分子量は小さく、標識できる色素や酵素の分子数が少なくなるため、完全長抗体よりも感度が低くなる傾向にあるという点に留意する必要があります。
完全長IgG抗体をペプシンやパパインで酵素的に分解処理してF(ab’)2やFab‘等のフラグメント抗体を作製します。
プロテインテックは、超解像顕微鏡アプリケーションにおいて、高い解像度で低いバックグラウンドの鮮明な画像撮影を実現するために開発された次世代型の組換え二次抗体『Nano-secondary®(ナノセカンダリー)試薬』を提供しています。Nano-Secondary®試薬は、CoraLite® Plus色素やAlexa Fluor®色素で標識されたアルパカ由来のVHH抗体(別名:Nanobody®)からなる二次抗体です。高い親和性で動物種/サブクラス特異的に一次抗体と結合します。従来型抗体よりもサイズが小さいため、組織浸透性に優れ、高解像度のイメージングを実現します。
左:一次抗体(青)とNano-Secondary®(緑)の複合体。右:一次抗体と従来型ポリクローナル二次抗体(水色)の複合体。(赤:標識蛍光色素、ピンク:エピトープ)
HeLa細胞の免疫染色。使用抗体:抗Lamin B1ウサギポリクローナル抗体/Alexa Fluor® 568標識ChromoTek Nano-Secondary® alpaca anti-human IgG/anti-rabbit IgG抗体(カタログ番号:srbAF568-1)。共焦点イメージング画像およびGated STEDイメージング画像は、ライカTCS SP8 STED 3X顕微鏡による775nmのDepletion Laser照射によって取得しました。撮影:ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン(LMU-Munich)Core Facility Bioimaging部門。
5. 標識物質 ‐ どの標識二次抗体を使用するかは、主に(ⅰ)二次抗体を使用するアプリケーションの種類、(ⅱ)適用するアプリケーションにおける検出方法の2つの要因に基づいて決定します。ウェスタンブロットを実施する際の例を挙げると、化学発光検出の場合はHRP(Horseradish peroxidase)等の酵素標識二次抗体、蛍光検出の場合は蛍光色素標識二次抗体の使用が推奨されます。以下の表には、アプリケーションの種類と検出方法に基づいて推奨される標識物質をまとめました。
アプリケーション |
使用する標識二次抗体 |
ウェスタンブロット |
• 酵素標識二次抗体(化学発光検出:HRP*1、比色検出:AP*2) • 蛍光標識二次抗体(蛍光検出) |
免疫組織化学 |
• 酵素標識二次抗体(発色IHC:HRP、HRP-polymer*3) • ビオチン標識二次抗体(シグナルを増幅して観察したい場合) • 蛍光IHCの場合は蛍光標識二次抗体 |
免疫蛍光染色 |
• 蛍光標識二次抗体 • HRP標識二次抗体(TSA法*4検出) |
フローサイトメトリー |
• 蛍光標識二次抗体 • 酵素標識二次抗体 • ビオチン標識二次抗体(蛍光標識ストレプトアビジンと併用) |
ELISA |
• ビオチン標識二次抗体 • 酵素標識二次抗体 |
*1 HRP:Horseradish peroxidase(西洋ワサビペルオキシダーゼ)
*2 AP:Alkaline phosphatase(アルカリホスファターゼ)
*3 HRP-polymer:ポリマー化HRP
*4 TSA法:Tyramide signal amplification(チラミドシグナル増幅)法
6. 交差吸着抗体 ‐ 交差吸着処理済み(Cross-adsorbed、Pre-adsorbed)二次抗体とは、ターゲット動物種・アイソタイプ以外の免疫グロブリンに結合するIgGを除去する目的で追加の精製工程を実施したポリクローナル抗体です。二次抗体がサンプル中の内在性IgGや、マルチプレックス染色で併用するオフターゲットの一次抗体と結合してしまった場合、交差反応による高いバックグラウンドや非特異的シグナルの原因となります。交差吸着処理の工程では、アフィニティ精製済みのポリクローナル二次抗体を、二次抗体の作製に使用した免疫動物以外の動物種に由来する免疫グロブリン(Ig)を固定化したカラムや血清タンパク質を充填したカラムに通します。この交差吸着処理を実施することで、抗体の特異性が向上します。
プロテインテックのMulti-rAb組換え二次抗体はオフターゲット種のIgGに対する交差反応性を最小限に抑えるべく選抜された組換えモノクローナル抗体をカクテル化した新しいタイプの二次抗体です。そのため、高度交差吸着処理(Highly cross-adsorbed)済みの従来型二次抗体と同等レベルの種特異性を示し、バックグラウンドを低減します。
ウサギIgG、マウスIgG、ヒトIgG、ラットIgG、ブタIgG、ウシIgGを総IgG換算で100 ng/wellとなるようにウェルにコーティングしました。検出には、0.125 μg/mLのMulti-rAb HRP-Goat Anti-Rabbit Recombinant Secondary Antibody(H+L)(カタログ番号:RGAR001)を使用しました。得られた結果は、RGAR001はウサギIgGに対する特異性が極めて高く、試験に供したその他の動物種とは反応しないことを示しています。