共免疫沈降(Co-IP)の実施方法

「共免疫沈降(Co-IP:Co-immunoprecipitation)」または「プルダウンアッセイ(Pull-down assay)」とは、目的タンパク質とその相互作用因子の免疫沈降(IP)を指します。

 

免疫沈降(IP:Immunoprecipitation)は、VHH抗体(Nanobody®)や抗体等を使用して細胞抽出物から特定のタンパク質を単離するために用いられる手法です。「共免疫沈降(Co-IP:Co-immunoprecipitation)」や「プルダウンアッセイ(Pull-down assay)」と呼ばれる手法の場合は、特定のタンパク質を免疫沈降すると共に、そのタンパク質と相互作用する物質もプルダウンして解析します。共免疫沈降では、免疫沈降用ビーズと特異的に結合するタンパク質(直接的に免疫沈降される既知タンパク質)は「ベイト(bait:餌、相互作用物質を釣るための「餌」となるタンパク質)」と呼ばれます。一方、免疫沈降されるタンパク質との相互作用物質は「プレイ(prey:餌食、餌で釣られるタンパク質)」と呼ばれます。共免疫沈降において、ベイトタンパク質は、免疫沈降用ビーズ(アガロースビーズ、磁気ビーズ等)と結合しているVHH抗体(Nanobody®)や抗体に捕捉されて直接的に免疫沈降されます。一方、プレイタンパク質は、ベイトタンパク質と共に間接的に免疫沈降されます。そのため、共免疫沈降はベイトタンパク質の相互作用因子の濃縮や相互作用物質の同定に用いられます。

プロテインテックの解析アプリケーション:免役沈降(IP)

本稿では、GFP融合タンパク質をベイトタンパク質として、相互作用するプレイタンパク質を免疫沈降する実験方法について解説します。ここで解説する共免疫沈降は、免疫沈降用ビーズに結合した抗GFP VHH抗体(Nanobody®)からなるGFP-Trap®の使用を想定しています。ただし、本稿で解説した原理は、GFP以外のタグタンパク質に対する抗体や、従来型抗体を使用した免疫沈降等にも適用されます。

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タグ:蛍光タンパク質タグ

 

GFP-Trap、GFP融合ベイトタンパク質、プレイタンパク質が結合した模式図

GFP-ベイトタンパク質はGFP(淡緑色)とベイトタンパク質(暗緑色)からなる融合タンパク質です。ベイトタンパク質はプレイタンパク質(赤)と相互作用します。共免疫沈降時、添加したGFP-Trap®はGFP-ベイトタンパク質と結合します。

 

共免疫沈降の5つのステップ

共免疫沈降の一般的な手順は次の通りです。

 

1. 細胞ライセートの調製

細胞ライセートの調製方法は、対象とする生物種、ベイトタンパク質やプレイタンパク質によって異なります。

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共免疫沈降用ライセートの模式図細胞溶解後の可溶性成分

 

2. GFP-Trap®によるベイトタンパク質およびプレイタンパク質の捕捉

細胞ライセートにGFP-Trap®を添加し、4℃で1時間インキュベーションします。

共免疫沈降で、GFP-Trapとライセートをインキュベーションする時の模式図

 

3. ベイトタンパク質とプレイタンパク質間の結合を維持した状態での未結合分子の洗浄除去

免疫沈降ビーズを数回洗浄し、ビーズに結合しなかった分子を除去します。洗浄ステップ時、プレイタンパク質はベイトタンパク質と結合している状態を維持している必要があります。

共免疫沈降の洗浄操作の模式図

 

4. 結合しているベイトタンパク質およびプレイタンパク質の免疫沈降ビーズからの溶出

SDSサンプルバッファーや酸性溶出バッファーを使用して、ベイトタンパク質およびプレイタンパク質を免疫沈降ビーズから溶出します。

共免疫沈降した目的タンパク質をGFP-Trapから溶出する模式図

 

5. SDS-PAGE、ウェスタンブロット(WB)、または質量分析(MS)による、ベイトタンパク質およびプレイタンパク質の解析

ベイトタンパク質およびプレイタンパク質を含有する溶出液をSDS-PAGEやウェスタンブロット(WB)、または、質量分析(MS)で解析します。

プロテインテックの解析アプリケーション:ウェスタンブロット(WB)

共免疫沈降サンプルのウェスタンブロットの模式図

GFP抗体(左レーン)およびプレイタンパク質抗体(右レーン)を使用して検出した共免疫沈降サンプルのウェスタンブロット(WB)

 

共免疫沈降実験で良好な結果を得るには、コントロールの設定が重要となります。

どのような共免疫沈降実験においても、コントロール実験は重要な役割を担います。共免疫沈降の結果を判断する場合や必要に応じてトラブルシューティングを実施する場合、コントロール実験の結果が非常に重要です。プロテインテックが共免疫沈降を実施する際は、GFP-ベイトタンパク質、プレイタンパク質、GFPタンパク質の、3種類の異なるタンパク質を分析します。本稿では示していませんが、多くの場合、GAPDH等のローディングコントロールも同時に検出します。共免疫沈降実験全般において、得られた結果が偽陽性なのか偽陰性なのかを判断できるように、様々なコントロール実験を組み合わせて行うのが一般的です。

プロテインテックの製品紹介:タグ抗体&ローディングコントロール抗体

 

1. ポジティブコントロール実験

ポジティブコントロール実験では、プレイタンパク質が存在しない条件で、GFP-ベイトタンパク質やGFPタンパク質をプルダウンします。以下の図(イラスト)で示されるように、GFP-ベイトタンパク質やGFPタンパク質は、インプット画分および結合画分(免疫沈降実施後にビーズに結合していた画分)で検出されるはずです。ポジティブコントロール実験は、所定の実験条件でGFPベイトタンパク質の免疫沈降が適切に行われていることを確認するために実施するもので、共免疫沈降を行う際は実験ごとに必ず実施する必要があります。

共免疫沈降のポジティブコントロール実験で期待されるウェスタンブロットの結果の模式図

 

2. ネガティブコントロール実験

ネガティブコントロール実験では、ベイトタンパク質が存在しない条件で、プレイタンパク質をプルダウンします。ベイトタンパク質がGFPのような分子量の大きなタグタンパク質を含む融合タンパク質である場合は、タグタンパク質単体に対するプルダウンを実施します。ネガティブコントロール実験を行って、GFPタグタンパク質単体が存在する一方、GFP-ベイトタンパク質が存在しない場合には、プレイタンパク質が免疫沈降されないことを確認します。以下の図(イラスト)で示されるように、プレイタンパク質は、インプットサンプルでは検出されますが、結合画分では検出されないはずです。

共免疫沈降のネガティブコントロール実験で期待されるウェスタンブロットの結果の模式図

 

3. 共免疫沈降実験

ポジティブコントロール実験とネガティブコントロール実験で予想通りの結果が得られた場合は、免疫沈降の本実験を実施します。本番の実験では、インプットサンプル中で、GFP-ベイトタンパク質とプレイタンパク質が共にインキュベーションされます。結合画分にプレイタンパク質とGFP-ベイトタンパク質の両方が検出された場合は、ベイトタンパク質が存在することによってプレイタンパク質が免疫沈降されていると結論付けることができます。一連の実験により、ポジティブコントロール実験とネガティブコントロール実験の結果も併せて、プレイタンパク質とベイトタンパク質が互いに相互作用していることが証明されます。

免疫沈降の本実験におけるウェスタンブロットの模式図

 

共免疫沈降の全実験は3種類の実験で構成されます。論文等では、共免疫沈降の実験データは一般的に以下のように示されます。

ポジティブコントロール・ネガティブコントロール・本実験、すべてのウェスタンブロットの結果の模式図

 

コントロール実験は、実験結果を適切に解釈するために必要不可欠な実験です。プレイタンパク質がプルダウンされない、あるいはプレイタンパク質が非特異的にプルダウンされるといった問題は、すべてのコントロール実験の結果を確認することによってのみ、特定および解決されます。そのため、コントロール実験を含めることは、誤った結果の解釈は避けるために非常に重要となります。

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