論文査読の10ステップ

出版論文を査読する際のやり方・ポイントについて解説します。


Jaime Fernández Sobaberas著(ドイツ/ハイデルベルク大学生化学専攻、博士課程3年)

科学論文が出版される際に実施される「査読(ピア・レビュー)」は、アカデミアにおける研究や論文発表の過程で極めて重要な役割を担います。論文の出版前にあらかじめ査読が実施されることにより、研究成果が科学コミュニティに広く発表・発信される前段階において、専門家はその研究成果に対するクオリティ、妥当性、重要性の評価を実施することが可能となります。査読者から論文著者にフィードバックとして提供される、包括的かつ建設的な査読コメントは、総合的な科学的知見の向上に寄与します。本稿では、科学論文の査読に伴う重要な手順と考慮すべき点について解説します。

※本稿では、以下の英文記事を日本語訳して掲載しています。
https://www.ptglab.com/news/blog/how-to-review-a-scientific-paper-in-10-easy-steps/

 

論文査読の10ステップのドーナツグラフ

1. 査読の目的を理解する

論文の査読を開始する前に、査読の目的を理解しておきましょう。論文の査読を依頼された理由や、具体的にどのような点に着目すべきかを考えます。査読の目的は、著者が論文を改善するのに役立つであろう、公正かつ偏見のない建設的なコメント・批評を提供することであるという点を心に留めておきましょう。

2. 論文の内容を把握する

まずは論文を熟読し、内容を正確に理解しましょう。研究課題、方法、データ解析、結果、結論には特に注意を払いましょう。ご自身の専門分野に関連する内容に着目しつつ、懸念のある箇所があれば明確にしておきます。

3. 論文の構成と明瞭性を評価する

全体的な論文の構造、構成、執筆内容の明瞭性を評価しましょう。抄録(Abstract)が研究の簡潔な要約になっているか、緒言(Introduction)が研究背景を効果的に説明しているかを吟味しましょう。着想の論理的な流れ、見出しや小見出しの使い方、記載内容や表現の明瞭性を評価します。説明の追加や再編集をした方が有益と思われるセクションがあれば指摘します。

4. 研究方法を評価する

採用した研究手法の適切性と厳密性を評価しましょう。研究デザイン、サンプルサイズ、データ収集法、統計解析等の妥当性を評価・判断します。また、別の研究者が再現実験を実施可能なくらいに、研究方法の項目が適切に記述されているか確認します。さらに結果の妥当性に影響を及ぼす可能性のある、研究方法の潜在的な欠陥や限界があれば書き留めておきます。研究に使用した試薬すべてについて、例えば使用したすべての抗体のRRID(Research Resource Identifier)やカタログ番号のような固有の識別子が記載されているかも確認しましょう。

5. 結果および解析法を評価する

論文に示された結果および解析法を検証します。得られたデータが研究課題を裏付けているか、統計解析の手法が適切かどうかを評価します。データの矛盾点や欠落部分、意図的に歪められたおそれのある箇所がないかということも確認してください。そして結果の有意性と実験結果から示唆される事柄を検討し、論文に示されたエビデンスによって記述された結果が裏付けられているか検討します。論文に添付されているすべての参考資料/補足資料にも目を通し、主要な発見を裏付けるのに十分なエビデンスが提示されていることを確認します。

6. 考察および結論を評価する

考察の項目で述べられた結果の解釈を評価します。著者らが研究結果に対して偏りのない客観的分析を行っているか検討します。また、研究課題や研究全体の主題に合致した結論が示されているか評価します。著者とは異なる解釈や今後の研究につながる可能性のある事柄があれば査読コメントとして指摘します。

7. 倫理的な考慮事項について検討する

科学論文を査読する際は、倫理的事項についても気を配らなくてはなりません。インフォームドコンセントの取得、参加者のプライバシーの保護や機密情報保持、不利益の最小化等の研究倫理ガイドラインや倫理基準を遵守しているか評価します。特にヒトや実験動物を対象とする研究の場合は、研究デザインや研究手法が倫理規範に則しているか評価します。倫理的な懸念事項がある場合は、査読コメントとして指摘し、是正案や改善策を提案しましょう。

8. 参考文献や引用文献を確認する

論文に記載された参考文献や引用文献が、正確で内容に関連性があり、最新の知見であることを確認しましょう。本文中で言及されているすべての出典が参考文献リストに掲載され、参考文献リストと本文中の引用箇所が合っていることを確認します。参考文献が信用できる情報源からの引用であることを確認し、その信頼性と妥当性を評価したうえで、論文の内容の裏付けに貢献しているか評価します。参考文献の欠落や不正確な引用に気付いた場合は指摘し、必要に応じて適切な差替え案を提案しましょう。

9. 建設的なフィードバックを行う

論文を査読する場合は、相手に敬意を持ち、建設的なフィードバックを提供することを心がけましょう。論文の長所と短所を明確に概説し、改善すべき具体的な提案をします。コメントは具体的に記述し、内容を裏付ける関連文献も示すとより良いでしょう。その際、個人に対する攻撃や軽蔑的な表現になっていないか十分に確認し注意を払うようにしてください。

10. 査読内容を要約する

主な指摘事項を簡潔に要約して、査読を締めくくります。その際、著者の論文において高い新規性を提示している部分や良く出来た方法論等の長所にも着目して強調すると良いでしょう。そして、鍵となる重大な弱点や改善が必要な箇所について説明しましょう。最後に、論文の受理、修正、掲載拒否等に関する総合的な提言事項を記載します。

 

科学論文の査読は、科学研究のクオリティと完全性に貢献する極めて重要なプロセスです。本稿で述べた手順に従うことで、著者にとって価値のあるフィードバックを提供し、研究の質を向上させ、科学的知識の進歩に貢献することができるでしょう。客観性、公平性をもって、科学的卓越性の推進にコミットメントするよう留意して、論文査読のプロセスに取り組むことが重要です。