Nano-Booster(ナノブースター)に関するFAQ
GFP-BoosterとRFP-Boosterに関するよくある質問を紹介します。
クロモテック(2020年よりプロテインテックグループ)のNano-Boosterは、高い特異性を示しサイズがわずか2~3nmと極めて小さいことから、従来の蛍光顕微鏡観察だけでなく、超解像蛍光顕微鏡観察に最適な抗体製品です。GFP-BoosterやRFP-Boosterは、GFP(緑色蛍光タンパク質)またはRFP(赤色蛍光タンパク質)に対して高い特異性を示すアルパカ重鎖抗体由来の結合ドメイン(別名:VHH抗体、Nanobody®)と、抗体ドメインに共有結合させた蛍光色素で構成されています。
発売以来、クロモテックのNano-Boosterは通常の免疫蛍光イメージングや、dSTORM(Direct Stochastic Optical Reconstruction Microscopy)法、STED(Stimulated Emission Depletion)法、3D-SIM(3D Structured Illumination)法等の超解像免疫蛍光イメージングの両方に利用されています。本稿では、プロテインテックのテクニカルサポートに多く寄せられる、GFP-BoosterとRFP-Boosterに関するよくある質問とその回答を紹介します。
プロテインテックの製品紹介:Nano-Booster & Nano-Label
GFP-BoosterはどのようなGFPバリアントを認識しますか?
GFP-Boosterは、以下に示す一般的なGFPバリアントと特異的に結合します。
- シアン:eCFP、CFP
- 緑:eGFP、wtGFP、GFP S65T、AcGFP、TagGFP、tagGFP2、sfGFP、pHluorin、mClover
- 黄色:eYFP、YFP、Venus、Citrine
製品検索:GFP-Booster
RFP-BoosterはどのようなRFPバリアントを認識しますか?
RFP-Boosterは、以下に示す一般的なRFPバリアントと特異的に結合します。
- mRFP、mCherry、mRFPruby、mPlum
製品検索:RFP-Booster
Nano-Boosterは固定サンプル(例:メタノール固定)にも使用できますか?
はい、使用できます。Nano-Boosterは、よく用いられる一般的な固定試薬(例:パラホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、メタノール)で固定した後も、固定前と同等の良好な染色パフォーマンスを発揮します(C Kaplan, H Ewers. Nat Protoc. 2015、Ries, et al. Nat Methods. 2012)
Nano-Boosterは生細胞イメージングに使用できますか?
観察対象が細胞表面上に発現させたGFP/RFP融合タンパク質であれば使用できます。
Nano-Boosterは約15kDaのタンパク質からなる蛍光ナノプローブであり、透過処理を施していない細胞の場合、細胞膜を透過できません。したがって、目的のGFP/RFP融合タンパク質が細胞内に発現する場合は、細胞の固定処理と透過処理が必要になります。生細胞イメージングを実施したい場合は、透過処理の代わりに、マイクロインジェクション法やエレクトロポレーション法によってNano-Boosterを細胞内に導入することも可能ですが、例外的な方法であり適用事例はほとんどありません。
Nano-Boosterで細胞外GFP/RFP融合タンパク質を染色するプロトコールを教えてください。
Nano-Boosterを細胞に添加し(希釈倍率1:25)、4℃で15分間インキュベーションします。その後、細胞を洗浄して蛍光を観察します。本プロトコールは細胞膜上に発現するGFP/RFP融合タンパク質を対象にした場合を想定しています。
Nano-Boosterは生細胞の細胞膜を透過できますか?
Nano-Boosterは約15kDaのタンパク質からなる蛍光ナノプローブであり、透過処理を施していない細胞の場合、細胞膜を透過できません。生細胞の細胞内にNano-Boosterを送達する必要がある場合は、一般的にタンパク質導入法(例:エレクトロポレーション)やタンパク質導入試薬の利用を検討しますが、これまでのプロテインテックの経験と収集した知見では、マイクロインジェクション法が最も効率的な方法です。
GFP-BoosterとRFP-Boosterを同時に使用して共染色することはできますか?
はい、GFP-BoosterとRFP-Boosterを併用することができます。例えば、推奨プロトコールではインキュベーション時にNano-Boosterを希釈倍率1:200で希釈して使用します。共染色を実施する場合、異なる色素を標識したGFP-Booster(例:GFP-Booster ATTO488、カタログ番号:gba488)とRFP-Booster(例:RFP-Booster ATTO594、カタログ番号:rba594)各1μlをBlocking buffer 200μlに添加します。
超解像顕微鏡観察に推奨される標識色素はどれですか?
Nano-Boosterは超解像顕微鏡観察に非常に適した製品です。Nano-Boosterは従来型抗体(長径15nm)よりもサイズが小さい(2~3nm)ため、エピトープ‐蛍光色素間の距離が短くなり、結合誤差を最小限に抑え、より正確かつ標識密度の高い顕微鏡画像が得られます。使用する顕微鏡の設定条件や、照射レーザーの種類に応じて、使用する色素を選択します。プロテインテックでは、各手法に対して以下の色素を推奨します。
- STED(Stimulated Emission Depletion)法:ATTO647N、Abberior STAR 635P
- STORM(Stochastic Optical Reconstruction Microscopy)法:ATTO488/594/647N、Alexa Fluor® 647
- SIM(Structured Illumination)法:ATTO488/594
Nano-Boosterに別の蛍光色素を標識することはできますか?
はい、クロモテックの未標識のGFP VHH recombinant binding protein(カタログ番号:gt-250)に各色素メーカーの説明書に従って活性化NHS蛍光色素を標識することが可能です。
Nano-Boosterにはいくつの色素分子が結合していますか?
Nano-Booster1分子につき、平均1分子の蛍光色素が結合しています(DOL=0.8~1.2)。Nano-Boosterは組換え発現されたリコンビナントモノクローナルVHH抗体であるため、単一エピトープを認識し、1分子のNano-Boosterは、1分子の標的蛍光タンパク質を標識します。
Nano-Boosterの濃度を教えてください。
お届けするNano-Boosterの濃度は、0.5g/L(範囲:0.5~1g/L)です。免疫蛍光染色(IF:immunofluorescence)で良好な結果を得られるよう希釈倍率1:200~1:1,000に調製して使用することを推奨します。
GFP-BoosterとRFP-Boosterを併用して2色の超解像顕微鏡観察を実施することはできますか?
可能です。2種類のNano-Boosterを用いて2波長の蛍光を解析するSTORM顕微鏡観察(dual-color STORM)を実施した論文が発表されています(M Bleck, et al. PNAS. 2014、E Platonova, et al. ACS Chem Biol. 2015)。
Nano-Boosterを用いて酵母の免疫蛍光染色を実施することは可能ですか?
可能です。Nano-Boosterのサイズは小さく酵母の細胞壁を透過できるため、Nano-Boosterを用いた酵母の免疫蛍光染色は、従来型抗体(IgG)を用いる方法よりも容易に実施できます。Nano-Booster(GFP-Nanobody)を用いた酵母の免疫蛍光染色のプロトコール最適化に関する論文が発表されているので、こちらをご参照ください(C Kaplan, H Ewers. Nat Protoc. 2015)。
Nano-Boosterを用いた免疫蛍光染色実験に使用可能な細胞・生物種を教えてください。
Nano-Boosterは、培養細胞、酵母、組織切片、ハエ、ゼブラフィッシュ、マウス等に使用可能です。線虫(C. elegans)における検証試験については、良好な結果が得られていません。
Nano-Boosterは組織切片の免疫組織化学(IHC)に使用可能ですか?推奨されるプロトコールはありますか?
GFP-BoosterやRFP-Boosterを用いた、凍結切片やパラフィン包埋切片の免疫組織化学(IHC:Immunohistochemistry)サンプルにおける成功例が報告されています。例えば、浮遊切片を用いた免疫蛍光染色の実験条件が掲載された論文が発表されています(V Heimer-McGinn, et al. Neurosci Lett. 2013)。
しかしながら、GFP-BoosterやRFP-Boosterの結合には、蛍光タンパク質中のエピトープ構造の維持が必要となる可能性があり、サンプルや実験条件について個別に検討が必要となります。
抜粋(V Heimer-McGinn, et al. Neurosci Lett. 2013より)
“For analysis of dendritic spines mice were anesthetized and transcardially perfused with PBS and then 4% para-formaldehyde/PBS. Brains were post-fixed in 4% PFA/PBS for 1 hour and 50μm sagittal sections cut using a Leica Vibratome. Floating brain sections were incubated for 2 hours in blocking solution (3 % Bovine Serum Albumin (BSA), 5 % Normal Goat Serum (NGS) and 0.2 % Triton X100 in PBS) and then incubated overnight with GFP booster Atto 488 (1:200 in 2 % BSA, 5 % NGS in PBS). Sections were then washed 4x20 mins in PBS and mounted on microscopy slides using Fluoromount (Sigma-Aldrich, Arklow, Ireland).”