新規オルガノイドモデルによるミクログリアの機能や疾患の研究

ミクログリアは「中枢の免疫担当細胞(immunocompetent cell)」とも呼ばれる脳内に存在するグリア細胞の1つです。研究者らはミクログリアを含有する新たなヒト脳オルガノイドモデルの構築に成功しました。実際の脳をより模倣した条件で、正常/病態ミクログリアの生理学・病理学研究が可能になります。


2023年5月、ソーク研究所(米国カリフォルニア州ラホヤ)のGage教授が主導する研究チームは、「iHBO(immunocompetent Human Brain Organoid)」と命名した新規オルガノイドモデルの構築と検証に関する画期的研究成果をCell誌掲載の論文で発表しました(PMID:37172564)。新たなヒト脳オルガノイドモデルは、血管新生が生じた脳オルガノイド内でヒト多能性幹細胞(hPSC)由来のヒトミクログリア(hMGs:human microglia)の研究を可能にします。ミクログリアを含有する脳オルガノイドモデルでは、生体におけるミクログリアの発生と、ミクログリアが分岐突起を伸縮させて活動する免疫感知(immune-sensing)特性を再現することに成功しました。このことは、ミクログリアの遺伝子発現に及ぼすヒト脳環境の影響を実証するとともに、生理的状態や病的状態に応答するミクログリア表現型の調査を可能にします。

グラフィカル・アブストラクト(ミクログリア共培養、マウスへの移植、顕微鏡観察・検出)

図1. グラフィカル・アブストラクト(引用:Schafer et al. CellPMID:37172564

筆頭著者であるSchaferらは、ヒト多能性幹細胞(hPSC)由来の皮質オルガノイドを作製し、ミクログリアの由来となる細胞である赤芽球骨髄球前駆細胞(EMP:Erythromyeloid progenitor)を皮質オルガノイドに組み込みました。その際、赤芽球骨髄球前駆細胞(EMP)がオルガノイド内に高い効率で浸潤する様子をライブイメージングにより可視化し、ミクログリアが発生時のヒト脳内に侵入する様子のモデル化および観察を実現しました。このオルガノイドと赤芽球骨髄球前駆細胞(EMP)のコロニー形成過程では、共培養開始後35~42日の間に、最も効率的に赤芽球骨髄球前駆細胞(EMP)が定着することが判明しました。しかし、赤芽球骨髄球前駆細胞(EMP)由来のミクログリア様細胞は、in vitro下で6週間経過後に原始的な「ラミファイド型(分枝状の形態)」様の形態を示した一方、成熟した恒常性ミクログリアに特徴的なマーカー発現は欠如していました。そのため、この細胞は十分に分化していない状態であると推測され、ミクログリア細胞特有の表現型を獲得するには培養環境が不十分であることが示唆されました。In vitroではミクログリアが分化せず次第に減少してしまうため、著者らはこれらの制約を克服するために、赤芽球骨髄球前駆細胞(EMP)と共培養したオルガノイドをヒト型ミクログリアが存在しないマウスに移植するアプローチを試みました。その結果、赤芽球骨髄球前駆細胞(EMP)由来のミクログリアは長期間生存し、ヒト脳内のミクログリアに認められる特徴と極めて類似した、成熟した恒常性ミクログリア特有の表現型を示しました。

結論として、今回報告された新たなヒト脳オルガノイドモデルは、脳の発生や疾患発症におけるミクログリアとヒト神経環境との間の相互作用の研究に使用できる可能性があります。このことは神経細胞と環境の複雑性をモデル化することにつながり、神経科学分野にとって極めて重要なステップであると考えられます。

著者らはオルガノイドの構築にプロテインテックのHumanKine®(ヒューマンカイン)組換えタンパク質を使用しました。

  • BMP-4(カタログ番号:HZ-1045
  • SCF(カタログ番号:HZ-1024
  • TPO(カタログ番号:HZ-1248
プロテインテックのHumanKine®(ヒューマンカイン)サイトカイン&増殖因子について

プロテインテックのHumanKine®(ヒューマンカイン)組換えタンパク質は、アニマルフリーの原材料を使用してヒト細胞(HEK293細胞)発現系で産生されたサイトカインおよび増殖因子です。大腸菌等の細菌(原核細胞)発現系により産生されるタンパク質は、リン酸化やグリコシル化(糖鎖修飾)等の翻訳後修飾を受けていません。多くのタンパク質は生物学的活性を発揮するために、真核生物の発現系でのみ施される糖鎖修飾等の翻訳後修飾やプロセシングを必要とします。つまり、「本物」のヒトタンパク質にはヒト細胞発現系が必要となります。

すべての『HumanKine®組換えタンパク質』製品は、自社のcGMPグレードラボで厳格な品質管理規定に従って製造されます。

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