肝臓がんを理解する:その原因・診断・治療法

Selin Dayan-Özdurmus著(ドイツ癌研究センター(DKFZ)、博士研究員、ドイツ/ハイデルベルク)


肝臓がんは世界的にも重大な健康上の懸念事項であり、特に腫瘍学の分野において大きな課題となっています。代表的な病型としては、肝細胞癌(HCC:hepatocellular carcinoma)と肝内胆管癌(CCA:cholangiocarcinoma)が挙げられます。肝臓がんの罹患率、有病者数、予後は対象となる国や人種等の人口統計学的背景によって異なり、この疾患を包括的に解明する必要性を浮き彫りにしています。

プロテインテックの関連情報:がん

疫学・因子

肝臓がんの病型には胆管がんや混合型肝がん等も挙げられますが、大多数は肝細胞癌(HCC)です。肝臓がんは、B型肝炎ウイルス(HBV)やC型肝炎ウイルス(HCV)への感染を原因とする慢性のB型肝炎やC型肝炎、過度のアルコール摂取、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD*:Nonalcoholic fatty liver disease)、アフラトキシンへの曝露といった因子によって発症します。とはいえ、肝臓がんは世界的にみると均一に発生しているわけではなく、特にアジアやアフリカ等の肝炎ウイルス感染が流行している一部の地域では地域差が認められます。
アジアの一部地域では、幼少期からB型肝炎ウイルスへ曝露するリスクが高く、ワクチン接種プログラムを受けることができない場合があるため、ウイルス感染によるB型慢性肝炎は肝臓がんの主要なリスク因子となります。アフリカの一部の国でも同様に、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスの感染流行地域の存在が肝臓がんの有病率の高さに寄与しており、社会経済的要因や不十分な医療体制がこうした事態を悪化させています。
また、アジア・太平洋諸島の人々のような特定の集団の場合は、人種差も肝臓がんリスクに影響を及ぼし、遺伝的素因や文化的慣習が原因となって肝臓がんに罹患する割合が高くなっていると考えられます。このような違いも念頭に肝臓がんについて対処するならば、包括的なワクチン接種プログラム、スクリーニング検査の向上、飲酒等の改善可能なリスク因子を極力減らす努力等の、肝臓がんに特化した支援を重点化する必要があります。肝臓がんという世界的な負担に対してそのような取り組みを実践することで、肝臓がんの転帰を改善し負担を軽減することができると考えられます。

* 2023年に脂肪性肝疾患の病名と分類法が変更され、NAFLDはMASLD(Metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease)に名称変更されました[1]。脂肪性肝疾患(SLD)の中でアルコール摂取量が基準を下回り特定のリスク因子・代謝異常の基準を満たすとMASLDとみなされます。

性差

特筆すべき点として、肝臓がんの発症には性差が認められます。これまでも、男性は女性に比べてHCCに罹患しやすいことが示されています。性差による違いは、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスへの感染リスクの差の他にも、生活習慣やホルモンの影響等の潜在的リスク因子の違いといった複数の要因が関与すると考えられています。

生活習慣因子

肝臓がんの発症は生活習慣因子と関係がありますが、この生活習慣因子は予防や改善が可能です。慢性的な飲酒習慣や肥満は、肝臓がん発症のリスクを有意に高める生活習慣です。過度な飲酒は、HCCの前駆的な疾患となり得る肝硬変を誘発する可能性があります。同時に、肥満やメタボリックシンドロームは、世界的に肝臓がんの原因として増加傾向にある非アルコール性脂肪性肝疾患の発症に寄与します。アフラトキシン含有量の多い食品の摂取といった食事要因は、肝臓がん発症のリスクをさらに高めます。肝臓がんのリスクを低減するには、アルコール摂取を控えたり、体重管理を実践したり、バランスの取れた食事を摂るといった、健康的な生活習慣の推進が極めて重要です。

肝臓がんのリスク因子

分子マーカー

分子生物学の進歩によって、肝臓がんに対する理解は大きく変化しました。分子マーカーは、HCCを発症させる分子機構の根底にある重要な知見を提供し、臨床意思決定を支援する指標となります。

α-フェトプロテイン(AFP:Alpha-fetoprotein)

  • α-フェトプロテイン(AFP)は最もよく知られ、幅広く使用されているHCCのバイオマーカーの1つです。AFP値が高いということはHCCの徴候である可能性があるものの、AFP単独では特異性と感度が不十分であることに注意する必要があります。特に肝臓がんの初期段階では、AFPの値だけでがんを判別するのは困難です。とはいえ、AFP値の検査を超音波検査等の画像診断と併用することでHCCの早期発見の精度を高めると同時に、治療効果のモニタリングに役立てることができます。

プロテインテックの関連製品:AFP関連製品

グリピカン‐3(GPC3:Glypican-3)

  • グリピカン‐3(GPC3)は、HCC細胞に過剰発現する細胞表面タンパク質であり、HCCの診断や予後の判断に用いられるバイオマーカーとしての役割を果たします。研究では、非癌性肝組織とHCC組織を比較すると、HCC組織におけるGPC3の発現は増加することが示され、血清中のGPC3の値が上昇する例も認められることから、GPC3が良性の肝病変と悪性の肝病変を鑑別するバイオマーカーとしての役割を果たす可能性が示唆されています[2]。また、GPC3の発現はHCC患者における悪性度の高い腫瘍の挙動や予後不良と関係があるとされています。

プロテインテックの関連製品:GPC3関連製品

 

AFPポリクローナル抗体を使用したヒト肝臓がん組織の免疫組織化学染色(IHC:Immunohistochemistry)
AFP抗体を使用したヒト肝臓がんの免疫組織化学染色。

AFP抗体(カタログ番号:14550-1-AP、希釈倍率1:100)を使用したパラフィン包埋ヒト肝臓がんの免疫組織化学染色(x10)。

 

DCP(Des-gamma-carboxy prothrombin)

  • DCPは、別名PIVKA-II(Protein induced by vitamin K absence or antagonist-II)としても知られる、HCCの診断やモニタリングに使用されるもう1つのバイオマーカーです。HCC患者の血清中のDCP値は高く、特にがんが進行している患者はその値が高くなります。DCP値の高さは、腫瘍の大きさ、脈管侵襲、生存アウトカムの低下と相関が認められています[3]。AFPマーカーと同様に、多くのケースでDCPは画像検査と併用され、HCCの画像診断の精度向上や治療マネジメントに役立てられています。

遺伝子変異・遺伝子異常

  • 遺伝子変異や遺伝子の異常はHCCの発症や進行に寄与します。TP53、CTNNB1、TERT遺伝子の変異のような、特定の遺伝子異常について特性解析を実施することで、予後に関する知見が得られ、HCC治療の実施にあたっての指標とすることができます。例えば、CTNNB1変異の存在はがんの病勢進行と関連するとされ、TERTプロモーターの変異は悪性度の高い腫瘍の挙動と関連があります。

プロテインテックの関連製品:TP53関連製品
              CTNNB1関連製品
              TERT関連製品

マイクロRNA(miRNA)

  • マイクロRNAは、遺伝子発現に関与する低分子ノンコーディングRNAです。miRNAの発現異常は、肝臓がんを含め様々ながんと関係があるとされています[4]。HCCの診断・予後・治療効果の予測や評価に用いることができる可能性のあるバイオマーカーとして、具体的なmiRNAが同定されています。例えば、miR-21、miR-122、miR-221はHCCでは発現変動が認められることが報告されており、診断マーカーや予後マーカーとしての役割を果たす可能性があります[5]。

血中循環腫瘍細胞(CTC:Circulating tumor cell)

  • 血中循環腫瘍細胞は、原発腫瘍から血流に流入したがん細胞であり、腫瘍増悪や転移に関するバイオマーカーとしての役割を果たします。末梢血中のCTCの検出や特性解析を行うアプローチは、HCC患者の治療効果のモニタリングや再発予測に有用である可能性が示唆されています[6]。免疫磁気分離法やマイクロ流体デバイスのような技術によってCTCの捕捉や解析が可能になり、腫瘍生物学や治療の有効性に関する知見を得ることができるようになっています。

 

パスウェイポスターライブラリー

 

分子マーカーは診断や予後を予測する用途に加え、HCCの治療ターゲットとして有望視されています。血管内皮増殖因子(VEGF:Vascular endothelial growth factor)経路やmTOR(mechanistic Target of rapamycin)経路のような特定分子のシグナル伝達経路をターゲットにした薬剤治療は、特定のバイオマーカープロファイルを有するHCC患者における有効性が示されています。さらに、PD-1(Programmed cell death protein 1)やCTLA-4(Cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4)のような免疫チェックポイント分子をターゲットとするがん免疫療法は、HCC患者サブセットにおける有望な結果が示されており、分子マーカーに基づく治療法の可能性を浮き彫りにしています。

プロテインテックの関連製品:VEGF関連製品
              mTOR関連製品
              PD-1関連製品
              CTLA-4関連製品

最後に

肝臓がんは、その複雑な病因、性差、公衆衛生への重大な影響を特徴とする、早期発見が困難で再発率の高さを課題とする疾患です。肝臓がんの発症予防、早期発見、治療方針の進歩を目指すにあたり、改善も可能な生活習慣因子や分子マーカー等の肝臓がん発症に関与する多面的な決定因子の研究や対策は欠かすことのできない取り組みです。臨床医、研究者、政策立案者が連携する協調的な取り組みの促進は、包括的かつ肝臓がんに特化した介入の推進につながります。そうした努力を重ねることで、肝臓がんが世界的に蔓延する脅威ではなく、克服可能な疾患となる未来を目指すことができるでしょう。


参考文献

[1]: M E Rinella, et al. A multisociety Delphi consensus statement on new fatty liver disease nomenclature. J Hepatol 2023 June 20.

[2]: M Capurro, et al. Glypican-3: a novel serum and histochemical marker for hepatocellular carcinoma. Gastroenterology. 2003 Jul;125(1):89-97.

[3]: B I Carr, et al. Clinical evaluation of lens culinaris agglutinin-reactive alpha-fetoprotein and des-gamma-carboxy prothrombin in histologically proven hepatocellular carcinoma in the United States. Dig Dis Sci. 2007 Mar;52(3):776-82.

[4]: A Morishita, et al. MicroRNAs in the Pathogenesis of Hepatocellular Carcinoma: A Review. Cancers (Basel). 2021 Jan 29;13(3):514.

[5]: P-S Huang, C-J Liao, et al. Functional and Clinical Significance of Dysregulated microRNAs in Liver Cancer. Cancers (Basel). 2021 Oct 26;13(21):5361.

[6]: M Salehi, Z M Lavasani, et al. Circulating Tumor Cells as a Promising Tool for Early Detection of Hepatocellular Carcinoma. Cells. 2023 Sep 12;12(18):2260.

||
New chat

Able

正在加载,请稍候...