特集 : 細胞周期とチェックポイントの制御
細胞周期チェックポイントタンパク質の役割は、内部因子と外部因子を統合して、細胞が細胞周期の次の段階に進む準備ができているかどうかを判定することです。
細胞周期チェックポイントタンパク質の役割は、内部因子と外部因子を統合して、細胞が細胞周期の次の段階に進む準備ができているかどうかを判定することです。
細胞周期とは何か?
細胞周期(すなわち細胞分裂周期) とは、1つの細胞が分裂・複製して2つの娘細胞が生じる際に細胞内で起こる一連のイベントのことです。細胞が細胞周期を通過するかどうかは、細胞質内のタンパク質によって制御されています。
サイクリン依存性キナーゼとがん抑制タンパク質(腫瘍抑制タンパク質、tumor suppressor proteins) は、細胞分裂の刺激因子および調節因子です。昨今の研究では、エピジェネティックマークの影響と細胞周期の制御に焦点を当てた検証が続けられており、細胞分裂と癌に関する研究が多く報告されています。それらの研究は、細胞分裂プロセスには、遺伝子損傷を避けるための正確なチェックポイントが必要とされることを強調しています。
制御分子には2つの重要なクラスがあります。
- サイクリン ― サイクリン依存性キナーゼ(CDK: cyclin-dependent kinase)酵素を活性化することによって、細胞が細胞周期の次の段階へ進むかどうかを制御するタンパク質の一群
- CDK ― 転写、mRNAプロセシング、および神経細胞分化の調節に関与するプロテインキナーゼのファミリー
主要な細胞周期チェックポイントは何か?
細胞周期は次の3つの主要チェックポイントに基づいています。
- G1期―DNA完全性と細胞サイズ
- G2期―DNA損傷と染色体複製
- M期―動原体と紡錘体の結合
チェックポイントタンパク質の重要な役割は、DNA損傷を検出し、損傷した染色体が修復されるまで細胞周期の進行を遅らせるようシグナルを送ることです(図1)。
図1. 細胞周期とそのチェックポイント
細胞周期の特定の段階の研究に最適なマーカーは何か?
以下にいくつかのマーカーを提案いたします。
1. DNAマーカーとしてのCDC25A/B/Cは、G1/S期の研究に適したマーカーです(図2)。
図2. 1:50の希釈倍率のCDC25A抗体(カタログ番号: 55031-1-AP) およびAlexa Fluor 488コンジュゲートAffiniPureヤギ抗ウサギIgG(H+L) を使用した(4% PFA) 固定ヒト乳癌組織の免疫蛍光染色結果。
2. 核内に高蓄積したサイクリンB1は、G2/M期の研究に使用できるマーカーです(図3)。さらに、G2/Mチェックポイントでは、サイクリンDの発現が減少する必要があります(図4)。
図3. 1:500の希釈倍率でサイクリンB1抗体(品番: 28603-1-AP)を使用したパラフィン包埋ヒト扁桃炎組織スライドの免疫組織化学(40倍レンズ下)。Tris-EDTAバッファー(pH9) で加熱抗原賦活化を行った。 | 図4. 室温で1.5時間インキュベートした1:10000の希釈倍率のサイクリンD1抗体(カタログ番号: 60186-1-Ig)を使用した、HepG2、SW 1990、およびNIH/3T3細胞株のウエスタンブロット。 |
3) サイクリンD1は、細胞周期G1/Sの移行に必要であり、G2/Mチェックポイントのマーカーとしても使用できます。
CCND1(サイクリンD1) は、PRAD1またはBCL1とも呼ばれ、高度に保存されたサイクリンファミリーに属します。そのメンバーは、細胞周期全体にわたってタンパク質量が増減することを特徴とします。CCND1は、CDK4またはCDK6と複合体を形成し、細胞周期のG1/S期移行に必要なCDK4/CDK6活性を調節する、制御サブユニットとして機能します。CCND1遺伝子は11q13に位置し、マントル細胞リンパ腫(MCL: mantle cell lymphoma) では染色体転座により過剰発現していることが報告されています。CCND1は、腫瘍抑制タンパク質Rbと相互作用することが示されており、この遺伝子の発現はRbによる正の制御を受けます。CCND1の過剰発現は、癌の早期発症、および腫瘍の進行と転移のリスクと相関します。
4) 有糸分裂装置の標識には、リン酸化ヒストン3(pHH3:phospho histone 3)に対する抗体を使用します。
5) 免疫組織化学において、Ki-67抗原に特異的な抗体は、G1からMまでのすべての周期細胞を標識します(図5)。
図5. 1:1000の希釈倍率でKI67抗体(カタログ番号: 27309-1-AP) を使用したパラフィン包埋ヒト扁桃炎組織スライドの免疫組織化学(40倍レンズ下)。Tris-EDTAバッファー(pH9) で加熱抗原賦活化を行った。
6) サイクリンA/CDK2(図6、CDK2抗体、カタログ番号: 0122-1-AP) は細胞周期のうちG2期で最も多量に存在するのに対し、サイクリンB/CDK1発現量はM期で最大になります。
CDK2(サイクリン依存性キナーゼ2)は、CDKN2とも呼ばれ、プロテインキナーゼスーパーファミリーであるCMGC Ser/Thrプロテインキナーゼファミリーにおける、CDC2/CDKXサブファミリーに属します。CDK2は、細胞周期の制御に関与します。CDK2は減数分裂に不可欠ですが、有糸分裂には必須ではありません。選択的スプライシングによって生成される2種類のアイソフォームがあります。
図6. 1×10^6個のHepG2細胞を0.2μgのCDK2抗体(カタログ番号: 10122-1-AP、赤色)と対照抗体(青色) によって染色しました。90% MeOHで固定し、ブロッキングは3% BSA(30分) で行いました。1:1000の希釈倍率のAlexa Fluor 488コンジュゲートAffiniPureヤギ抗ウサギIgG(H+L)。
サイクリン関連抗体:
カタログ番号 |
抗原名 |
機能 |
CDK1-Specific |
細胞周期 (G2–M期) |
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CDK2 |
細胞周期 (G1–S期) |
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CDK2 |
細胞周期 (G1–S期) |
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CDK3 |
細胞周期 (G0–G1–S期) |
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CDK4 |
細胞周期 (G1–S期) |
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CDK6 |
細胞周期 (G1–S期) |
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CDK6 |
細胞周期 (G1–S期) |
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CDK8 |
転写 |
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CDK9 |
転写 |
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CDK10 |
転写, 細胞周期 (G2–M期) |