ゲスト寄稿 | エボラ治療薬開発の標的候補分子
エボラウイルスとエボラ出血熱について解説します。
Simon Hackett著
本稿の投稿日の1日前である2014年12月1日、エボラ出血熱(エボラウイルス病)の大流行が始まってちょうど1年が経過しました。現在西アフリカを席巻しているこのウイルス性の伝染病では、これまでに5000名の死亡が報告されています。WHOはこの流行を「現代における最も深刻で重大な公衆衛生上の緊急事態(the most severe acute public health emergency seen in modern times.)」と述べています1。ここ数ヶ月の間に、エボラウイルスは、感染した援助隊員を介して、スペインやアメリカ等、さらに遠方の国々にまで広がっています。エボラウイルス伝染病がインフルエンザやHIV等の他のウイルス性の伝染病と異なるのは、60~70%という驚異的な致死率だけでなく、この感染症に伴う壊滅的な症状があることです。
エボラ出血熱の流行は、その名の通り、フィロウイルスと呼ばれる科に属するエボラウイルスによって拡大しています。エボラウイルスの起源は、フルーツコウモリと考えられていますが2、コウモリからヒトへの感染経路は、正確には特定されていません。エボラ出血熱が初めて発生したのは1976年のスーダンで、それ以来、1995年にコンゴ民主共和国で流行し、2007年にコンゴで再び流行が発生しています(ただし、現在の大流行よりもはるかに小規模なものです)。
回避機構
ほとんどのウイルスと同様に、エボラウイルスは、細胞膜上の特定の細胞表面受容体、特に内皮細胞3とマクロファージ4に付着します。その後、ウイルスのエンベロープは、細胞膜と融合し、その結果、細胞質ゾルにウイルスが放出されます。細胞内に侵入した後、エボラウイルスは非常に速い速度で複製します。この複製速度は、細胞が新しいタンパク質を生合成する速度と宿主の免疫システムの応答速度の両方を上回ります。ウイルスが、単球、樹状細胞、マクロファージ等の免疫細胞を好んで標的とすることから、IL-1β、TNFα、IL-6等の炎症性サイトカインが大量に分泌されます。内皮細胞の崩壊に加えてサイトカインの分泌を原因とする炎症誘発状態が同時に生じると、血管が損傷し大量出血が生じます。しかし、宿主細胞により炎症性サイトカインが大量に分泌されているにもかかわらず、エボラウイルスは、VP35タンパク質やVP24タンパク質を発現させ、インターフェロン産生をダウンレギュレーションすることで、インターフェロン応答を回避することに成功しています5。こうしたエボラウイルスの研究で、研究者らは、インターフェロンや炎症性サイトカインを特異的に検出するELISAを使用して、感染動物のインターフェロン濃度を定量しています。エボラウイルスが免疫系による撲滅を回避できるのは、このウイルスにそのような特徴があるからです。
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限られた選択肢
エボラウイルスの病態生理に関する多くの研究が行われているにもかかわらず、治療の選択肢は限られているのが現状です。医師らは、ウイルス感染マウスに由来し、タバコ細胞で産生された3種類のキメラモノクローナル抗体からなる開発段階の治療薬ZMappを患者に投与し、一部の患者の症状を改善することに一定の成功を収めました6。しかし、ZMappの供給量は限られており、信じられないほど高価であることが、主に第三世界の国々で発生する感染症の場合は大きな障壁となっています。さらに、ZMappは、通常、医薬品が医療施設での使用を承認されるために通過しなければならない厳格な臨床試験を行っていません。その他のエボラ出血熱の治療法として挙げられる治療は多くが支持療法であり、この感染症に対する治療法が大いに必要とされています。
その他のアプローチ
IFITMタンパク質ファミリーと同様に、BST2タンパク質(CD317としても知られています)もまた、ウイルスに対する宿主の防御に関与していると考えられています。BST2は、B細胞、形質細胞、形質細胞様樹状細胞で発現し、その発現はインターフェロンの分泌に起因します。BST2は、エボラウイルスをはじめとする感染した細胞から、出芽後のウイルス粒子拡散を阻害することが示されています7。治療のターゲットという点に関して、Dr. YasudaはBST2の発現誘導が感染者の抗ウイルス反応を誘導する新規のアプローチとなる可能性を示唆しています。
エボラ出血熱は、政府と研究者の双方にとって、人道的にも科学的にも大きな課題であることは明らかです。エボラウイルスが細胞に感染し破壊する分子メカニズムを解明することで、この壊滅的な感染症を管理するために特化した治療法を開発し、最も必要とされる国で新たな治療法を利用できるようになることが期待されています。
エボラウイルス研究に関連する抗体
ターゲット | カタログ番号 | 抗体タイプ | アプリケーション | 文献 |
IL-1β | 16806-1-AP | ポリクローナル | WB, IHC, IF, FC, ELISA | 308 |
IL-1β | 66737-1-Ig | モノクローナル | WB, IP, IHC, IF, FC, Cell treatment, ELISA | 10 |
TNFα | 60291-1-Ig | モノクローナル | WB, RIP, IHC, IF, Cell treatment, ELISA | 186 |
IFITM1 | 11727-3-AP | ポリクローナル | WB, IP, IHC, IF, FC, ELISA | 22 |
IFITM1 | 60074-1-Ig | モノクローナル | WB, IP, IHC, IF, FC, ELISA | 49 |
IFITM2 | 12769-1-AP | ポリクローナル | WB, IP, IHC, IF, FC, ELISA | 33 |
IFITM2 | 66137-1-Ig | モノクローナル | WB, IHC, IF, FC, ELISA | 16 |
IFITM3 | 11714-1-AP | ポリクローナル | WB, IP, IHC, IF, FC, CoIP, ELISA | 91 |
IFITM2/3 | 66081-1-Ig | モノクローナル | WB, IP, IHC, IF, FC, ELISA | 12 |
BST2 | 13560-1-AP | ポリクローナル | WB, IHC, IF, FC, CoIP, ELISA | 16 |
参考文献
- WHO Director-General addresses the Sixty-fourth Session of the Regional Committee for Africa(WHO, 3 November 2014)
- C J Peters, J W LeDuc. An introduction to Ebola: the virus and the disease. J Infect Dis. 1999 Feb:179 Suppl 1:ix-xvi.
- V M Wahl-Jensen, et al. Effects of Ebola virus glycoproteins on endothelial cell activation and barrier function. J Virol. 2005 Aug;79(16):10442-50.
- M Bray, T W Geisbert. Ebola virus: the role of macrophages and dendritic cells in the pathogenesis of Ebola hemorrhagic fever. Int J Biochem Cell Biol. 2005 Aug;37(8):1560-6.
- C F Basler, G K Amarasinghe. Evasion of interferon responses by Ebola and Marburg viruses. J Interferon Cytokine Res. 2009 Sep;29(9):511-20.
- The creator of ZMapp is 99 percent certain it works(Aljazeera America, October 24, 2014)
- J Yasuda. Ebolavirus Replication and Tetherin/BST-2. Front Microbiol. 2012 Apr 2:3:111.