心血管機能の中核因子:心血管疾患における電位依存性カルシウムチャネル
Hannah Joanne Lee著(英国Queen Mary University of London、Ph.D. Candidate)
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目次 はじめに |
はじめに
電位依存性カルシウムチャネル(Cavチャネル:Voltage-gated calcium channel)は、心臓や血管が正常に機能するための必須過程である細胞内へのカルシウムイオン(Ca2+)流入に極めて重要な役割を果たします。Cavチャネルの働きが変化すると、不整脈・高血圧・心不全等の幅広い心血管疾患が引き起こされます。Cavチャネルが心血管の病態に寄与する機構の解明は、正常なチャネルの機能を回復し転帰を改善する治療を開発するうえで極めて重要です。本稿では、心血管疾患の発症メカニズムにおいてCavチャネルが果たす役割やこれらのチャネルの働きを調節する薬剤について解説します。
電位依存性カルシウムチャネルとは?
電位依存性カルシウムチャネルはCa2+選択的な細孔(ポア)を形成する細胞膜内のタンパク質複合体で、興奮性細胞の細胞膜が脱分極して活性化するとこの通路が開口します。Cavチャネルは神経細胞や筋細胞に広く発現し、神経伝達物質の分泌、心筋細胞・骨格筋細胞・血管平滑筋細胞の興奮収縮連関(E-C coupling)、内分泌細胞によるホルモン分泌といった多様な生理学的事象に必須のタンパク質です。これらのイベントは膜電位変化(電気信号)がCa2+の内向き電流へ変換されることで開始し、Ca2+イオンはセカンドメッセンジャーとして機能します。
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図1. 電位依存性カルシウムチャネルが細胞膜にCa2+選択的細孔を形成する図。チャネルの開口によりカルシウムイオンは細胞内に拡散し、生理学的反応が誘発されます。 |
Cavチャネルの特徴
Cavチャネルには、高電位活性型(HVA:high-voltage activated type)・低電位活性型(LVA:low voltage-activated type)のサブタイプがあり、さらにサブユニットの違いで数種類のチャネルファミリーに分類されます。各チャネルファミリーは組織選択的に異なる発現を示し、異なる薬理学的特徴を有します。表1に示すとおり、心血管系組織に存在するCavチャネルは主にL型チャネルであり、これらのチャネルが心血管疾患に深く関与します。
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活性化型分類 |
チャネルファミリー |
α1サブユニット |
遺伝子 |
Ca2+電流のタイプ |
生理学的機能 |
|---|---|---|---|---|---|
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HVA |
Cav1 |
Cav1.1 |
CACNA1S |
L型 |
骨格筋における興奮収縮連関(E-C coupling) |
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Cav1.2 |
CACNA1C |
L型 |
心筋・平滑筋における興奮収縮連関 |
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Cav1.3 |
CACNA1D |
L型 |
心臓のペースメーキング |
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Cav1.4 |
CACNA1F |
L型 |
網膜における視覚の受容と伝達 |
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Cav2 |
Cav2.1 |
CACNA1A |
P/Q型 |
神経終末の神経伝達物質の放出 |
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Cav2.2 |
CACNA1B |
N型 |
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Cav2.3 |
CACNA1E |
R型 |
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LVA |
Cav3 |
Cav3.1 |
CACNA1G |
T型 |
神経系・心筋・平滑筋の反復活動電位 |
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Cav3.2 |
CACNA1H |
T型 |
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Cav3.3 |
CACNA1I |
T型 |
表1. 様々な電位依存性カルシウムチャネルと生理学的機能の分類
Cavチャネルは多岐にわたる生理学的反応で重要な役割を果たすことから、その機能障害や制御不全は、神経障害性疼痛、不整脈、片頭痛、高血圧、てんかん等の多様な疾患との関連が示唆されています。そのため、チャネルそのものやチャネル制御に関与する分子は、幅広い疾患に対する既存の医薬品や次世代創薬の重要なターゲットとして注目されています。
Cavチャネルと心血管疾患
Cavチャネルは、心筋や血管平滑筋の興奮収縮連関の主軸分子です。心筋細胞では、脱分極によってCavチャネルが開口するとCa2+が細胞内に流入します。リアノジン受容体への遊離Ca2+イオンの結合が引き金となり、筋小胞体に貯蔵されていたCa2+が放出され、細胞質側のCa2+濃度がさらに上昇します。この機構はカルシウム誘発性カルシウム放出として知られています(図2)。細胞質中の遊離Ca2+イオンがトロポニン・トロポミオシン複合体に作用すると、心筋収縮が開始します。このプロセスは厳密に制御されており、Ca2+は1回の拍動ごとにSERCAポンプを介して筋小胞体に回収されます。
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図2. 心筋細胞のカルシウム誘発性カルシウム放出。L型チャネルを介して流入したCa2+イオンがリアノジン受容体に結合すると、筋小胞体に貯蔵されていたCa2+イオンがただちに放出され、筋収縮が生じます。 |
Cavチャネルの機能変化は、不整脈や高血圧等の疾患を引き起こします。L型チャネルの開閉時間は、Ca2+流入による脱分極状態が維持される心筋の活動電位のプラトー相に関与します。ティモシー症候群(Timothy Syndrome)はCavチャネルのサブユニットCav1.2をコードするCACNA1C遺伝子の機能獲得型変異により生じる遺伝性疾患で、Cavチャネルの閉鎖が遅くなり再分極の時間が健常人よりも長くなります(QT延長)。CACNA1C遺伝子の変異によるサブユニットの機能喪失は、ブルガダ症候群(Brugada Syndrome)の一因ともなります。ST上昇を伴う特発性心室細動が認められるブルガダ症候群にはいくつもの遺伝子変異が関与しますが、CACNA1C変異ではCa2+流入が減少し再分極の時間が短縮します。どちらの疾患も不整脈・心室細動が引き起こされるとともに、心血管系の異常による突然死のリスクが増加します。
興味深いことに、Cav1.2を含むL型Ca2+チャネルの機能を阻害するベラパミルを用いても、この病態を十分に管理できないことが少なくありません。ティモシー症候群の原因となる遺伝子変異もチャネルの開口機構と立体構造に変化をもたらすと考えられ、薬剤の結合親和性や遮断効率の低下等がベラパミルによるチャネルの遮断効果に悪影響を及ぼすため、CACNA1C変異による病態の治療時にCa2+チャネルの直接阻害薬としての効果が限定的になると考えられています。β遮断薬の単剤投与、あるいはβ遮断薬とCa2+チャネル遮断薬(Ca2+拮抗薬)を併用する投薬治療は、不整脈の原因になる様々なメカニズムに対処し、病状を管理するために用いられます。ただし、心拍数を適切に管理するには、多くの場合ペースメーカーを装着する必要があります。
心血管疾患の投薬ターゲットとしてのCavチャネル
Ca2+チャネル遮断薬は心血管疾患の投薬治療に幅広く用いられる医薬品で、大きくジヒドロピリジン系薬と非ジヒドロピリジン系薬に分類されます。
表2. 心血管疾患に用いられるCa2+チャネル遮断薬の分類
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Ca2+チャネル遮断薬 |
対象疾患 |
|---|---|---|
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ジヒドロピリジン系 |
アムロジピン(Amlodipine) |
高血圧・狭心症 |
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フェロジピン(Felodipine) |
高血圧 |
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イスラジピン(Isradipine) |
高血圧 |
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ニカルジピン(Nicardipine) |
高血圧・狭心症 |
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ニフェジピン(Nifedipine) |
高血圧・狭心症 |
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ニソルジピン(Nisoldipine) |
高血圧・狭心症 |
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非ジヒドロピリジン系 |
ベラパミル(Verapamil) |
不整脈・高血圧・狭心症・肥大型心筋症 |
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ジルチアゼム(Diltiazem) |
不整脈・高血圧・狭心症・頻脈性心房細動・心房粗動 |
ジヒドロピリジン系薬はL型Cavチャネルを特異的に遮断し、血管平滑筋細胞へのCa2+の流入を阻害します。その結果、血管が拡張し、血圧が低下して後負荷が低減することで、心臓は一定量の血液を供給するために過剰に活動する必要がなくなります。ジヒドロピリジン系薬は、心拍数や心伝導への効果は限定的で、主に血管平滑筋に作用することから、高血圧や狭心症等の治療によく用いられます。
非ジヒドロピリジン系薬は心筋細胞のチャネルに対してより選択的に作用する傾向があり、Ca2+流入抑制を介して心拍数を低下させ、心収縮力の抑制、房室結節の伝導速度の低下、洞結節の自動能の抑制等の効果を示します。
ベラパミルは非ジヒドロピリジン系に分類されるフェニルアルキルアミン系Ca2+チャネル遮断薬で、幅広い心血管疾患の治療に有効です。フェニルアルキルアミン系Ca2+チャネル遮断薬は心筋細胞に選択的で、興奮伝導や心室筋細胞に主に作用します。これらの医薬品を投薬すると、冠動脈や末梢動脈の血管拡張が生じ、心収縮力の抑制、心拍数低下、房室伝導遅延等の効果が認められます。ジルチアゼムはベンゾチアゼピン系のCa2+チャネル遮断薬で、組織選択性は低く心臓と血管の双方に作用し、ベラパミルと類似した効果を発揮します。これらの医薬品はともに、心筋細胞へのCa2+流入抑制を介した心収縮力の抑制や電気伝導の遅延による心拍数低下作用があるため、心房細動や上室性頻拍の治療に効果を示すほか、心臓の酸素要求量を低下させる作用もあり、狭心症の治療にも効果的です。
最後に
Cavチャネルは、心血管機能に極めて重要な制御因子であり、興奮収縮連関や心調律の維持において中心的な役割を担います。このような機構に関与するチャネルの調節不全は、不整脈・高血圧・心不全等の多岐にわたる心血管疾患に寄与します。一連のプロセスや病態の背後にある分子機構を解明することで、現在では多くの心血管疾患の第一選択薬となったCa2+チャネル遮断薬のような、特定の分子を標的にした治療法の開発が可能になりました。Cavチャネルに関する更なる研究は、現在の治療法を改善し、心血管疾患だけにとどまらず様々な病態を治療できる新規の治療法の開発を可能にすると考えられます。
プロテインテックの電位依存性カルシウムチャネル研究用抗体
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ターゲット |
Cat No. |
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CACNA1C |
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CACNA1G |
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Calmodulin 1/2/3 |
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RYR2 |
プロテインテックの関連研究:心臓血管

