ゲスト寄稿 | 繊毛発生研究で使用される抗体について

繊毛発生・繊毛形成に関与するタンパク質を紹介します。


Deborah Grainger

一次繊毛は、周囲の環境からの情報を細胞内部に伝達する感覚細胞小器官として機能します。かつては進化の遺物と考えられていましたが、現在、この細胞小器官は、細胞周期、細胞骨格形成、鞭毛内タンパク質輸送や、ヘッジホッグ、Notch、古典的/非古典的Wnt経路、平面内細胞極性(PCP)経路といったシグナル伝達経路等の細胞プロセスの制御に極めて重要な役割を果たすことが判明しています。プロテインテックでは、繊毛関連タンパク質を認識する抗体を70種類以上カタログに掲載しています。本稿では、繊毛発生や形成に関与する様々な標的タンパク質について概説します。

IFT88

IFT88(鞭毛内輸送タンパク質88、別名:TG737、TTC10)は、繊毛の形成に必要なIFT粒子の構成要素です。多くの生物において、IFT88はその他の分子モーターやIFT粒子と共に、一次繊毛、運動性繊毛、鞭毛の形成や維持に必須の重要なプロセスである繊毛内輸送を仲介します。また、IFT88は、有糸分裂の際に紡錘体極に局在し、紡錘体の配向に必要とされています(B Delaval, et al., 2011)。IFT88の欠損は、進行性嚢胞の発生と両腎の肥大を特徴とする、多発性嚢胞腎を引き起こします。

プロテインテックのIFT88ポリクローナル抗体(カタログ番号:13967-1-AP)は、これまでに260報以上の論文使用実績があり、2014年6月発行のNature Cell Biology誌等で引用されました。この論文では、哺乳類のヘッジホッグ(Hh)シグナル伝達経路や繊毛先端の構造中に存在するもう1つの別のタンパク質、KIF7の役割を調べていますが、免疫蛍光染色(IF)でIFT88抗体(カタログ番号:13967-1-AP)をアセチル化チューブリンと共に繊毛の退縮を観察するマーカーとして利用しています。論文中の実験では、IFT88のシグナルが繊毛の形状を可視化し、アセチル化チューブリンのシグナルが微小管の長さを可視化しています。

Nature Cell Biology誌掲載論文:M He, et al. 2014(PubMed)

プロテインテックのIFT88ポリクローナル抗体(カタログ番号:13967-1-AP)はヒトIFT88のC末端領域を免疫原として作製されており、内在性のIFT88レベルを検出することが可能です。

CP110

CP110は、別名CCP110またはKIAA0419とも呼ばれる約110kDaの中心体タンパク質です。紛らわしいですが、CEP110(セントリオリン)とは別のタンパク質です。CP110は、中心小体の複製を正に制御すると同時に、中心小体の伸長と繊毛形成を抑制します。CP110はCEP97と協調して重要な繊毛形成の負の調節因子として働き、母中心小体に蓋をすること(キャッピング)により繊毛形成を阻害します。

プロテインテックのCP110抗体(カタログ番号:12780-1-AP)は、2012年中旬にNature Cell Biology誌に初めて掲載されて以来、100報を超える論文使用実績を積み重ねています。このNature Cell Biology誌掲載の論文で、著者らはmicroRNA miR-129-3p(M129)によるCP110の制御について述べています。M129の阻害やアップレギュレーションによる繊毛形成や繊毛伸長に対する影響を調べるために、プロテインテックのCP110抗体(カタログ番号:12780-1-AP)は、ウェスタンブロット(WB)と免疫蛍光染色(IF)の実験に使用されました。M129の発現を阻害すると繊毛形成は阻害され、反対にM129を過剰発現させると顕著に繊毛形成はアップレギュレーションされました。こうした結果と対応するように、WBの実験では、M129を過剰発現した状態にするとCP110タンパク質の発現量が大幅に減少することが示されました。また、この研究には、ハウスキーピングタンパク質GAPDH(カタログ番号:60004-1-Ig)、アクチン核生成タンパク質ARP2(カタログ番号:10922-1-AP)、アクチン結合LIMタンパク質1(別名:ABLIM1、カタログ番号:15129-1-AP)等を標的とする、プロテインテックが取り扱うその他の抗体も使用されています。

Nature Cell Biology誌掲載論文:J Cao, et al. 2012(PubMed)

ARL13B

ARL13B(別名:ARL2L1)は、Rasスーパーファミリーに属する低分子量繊毛Gタンパク質です。ARL13Bは繊毛に局在し、繊毛の形成やソニックヘッジホッグシグナル伝達に必要とされるタンパク質で、ARL13Bを標的とする抗体は繊毛の標識に使用されています(PMID:22072986)。ARL13Bの欠損は、小脳の異常を特徴とする常染色体劣性疾患であるジュベール症候群(JBTS)を引き起こします。JBTSの患者は様々な異常を抱える中でも、筋肉を正常に制御できず筋緊張低下を示します。

プロテインテックのARL13B抗体(カタログ番号:17711-1-AP)は、これまでに500報を超える査読付き論文で使用されています。変異した場合にJBTSの原因となることが判明しているもう1つの脱リン酸化酵素である、INPP5E(イノシトールポリリン酸5‐ホスファターゼE 、カタログ番号:17797-1-AP)とARL13Bとの相互作用をより詳細に調べる研究にも使用されています。INPP5Eが繊毛を標的とするメカニズムは、INPP5EのC末端にある特定のモチーフとプレニル化シグナルのモチーフの存在に加え、ARL13Bとの相互作用によって促進されます。ヒトでJBTSを引き起こすARL13Bミスセンス突然変異が起こると、ARL13B-INPP5E相互作用が崩壊します。2012年末にPNAS誌に掲載された論文では、ARL13B-INPP5E相互作用に関与する中心体および繊毛タンパク質がさらに数種類特定され、このタンパク質の機能ネットワークがJBTSとそれに関連する繊毛病性ネフロン癆(NPHP)への関与も示唆されました。

PNAS誌掲載論文:M C Humbert, et al. 2012(PubMed)

アセチル化α-チューブリン(K40)

α-チューブリンのK40残基のアセチル化は、正常な微小管の特徴であり、アセチル化α-チューブリン(抗aceチューブリン)抗体は、正常な繊毛の免疫蛍光染色を行う際のコントロール実験に研究者が選択する抗体です。α-チューブリンのアセチル化残基はK40(40番目のリジン残基)であり、α-チューブリンアセチルトランスフェラーゼ(α-TAT)によって触媒されます。

プロテインテックのアセチル化チューブリン(K40)抗体(カタログ番号:66200-1-Ig)は、繊毛を確実に標識するために使用できます。また、前述のIFT88と併用して、繊毛の退縮を評価することも可能です。

BBS2

BBS2(BBSタンパク質2、BBS:バルデー・ビードル症候群)の具体的な機能に関する知見は明らかになっていませんが、BBS2タンパク質はBBSomeの安定なコアを形成する7種類のBBSタンパク質のうちの1つであることが知られています。BBSタンパク質の変異やその他数種類の変異によって、その名を冠する症候群(BBS:バルデー・ビードル症候群)を発症するように、BBSomeは繊毛基底小体の構成要素であり、機能性一次繊毛の形成に必須となる複合体です。BBSは、肥満、網膜色素変性症、多指症、腎臓奇形・心臓奇形、知能障害、性腺機能低下症等が認められ、糖尿病・高血圧の発症事例の増加を特徴とする、患者によって呈する症状の異なる多面的な疾患です。

プロテインテックのBBS2抗体(カタログ番号:11188-2-AP)は、発売以来、十数報の論文で使用されています。Cell誌に掲載された論文では、シグナル伝達分子であるソマトスタチン受容体3(SSTR3)等の膜タンパク質を一次繊毛へソートするために、BBSomeが電子密度の高いコート複合体を構成する仕組みについて述べています。著者らによって示唆されたBBSomeコート複合体モデルは、BBS患者に認められる様々な症状を説明することができるかもしれません。すなわち、SSTR3のBBSにおける正確な役割は不明であるものの、正常なBBSomeを欠くためにシグナル受容体を繊毛へ輸送できないことが原因でBBSは発症する可能性が考えられます。

Cell誌掲載論文:H Jin, et al. 2010(PubMed)