マイクロプラスチック曝露による肝線維症発症リスクの増大

Ryan Murray著(英国Leeds大学、博士課程在籍)


Leeds大学博士課程に在籍するRyan Murray氏による、環境マイクロプラスチックが肝臓に及ぼす影響を調べた興味深い論文の要約をご紹介します。

論文「Accumulation of polystyrene microplastics induces liver fibrosis by activating cGAS/STING pathway(Wang et al., 2022, Environmental Pollution. PMID: 35167931)」

環境負荷の拡大や不完全なプラスチック廃棄物処理といった要因によって、生態系へのプラスチックの蓄積は指数関数的な速度で増加しています。現在、マイクロプラスチック(粒子径< 5 mm)は、マイクロプラスチックを含有する生物の摂取を介して我々の食物連鎖に取り込まれつつあります。このマイクロプラスチック摂取の問題は時間を経てから顕在化します。ヒトはポリスチレンのようなプラスチックを体内で加水分解できず、分解できないプラスチック類の長期にわたる生物蓄積を経て肝障害が誘発されます。肝臓は生体内の毒物の解毒代謝や老廃物の排泄において中心的な役割を担う臓器であり、マイクロプラスチックは、Ca2+の過剰負荷に起因する活性酸素種(ROS)の発生を介して肝細胞のアポトーシスを誘導することがトランスクリプトーム解析によって示されています。ヒトの場合、マイクロプラスチックは臓器に対して慢性的にダメージを与えるため、物理化学的作用を介した分解・排除機構が十分に機能しません。例えば、肝臓の場合は蓄積したマイクロプラスチックの慢性的な刺激により一般的に線維化といわれる肝臓の瘢痕形成プロセスが誘導されます。

肝線維症は肝細胞周囲等の肝臓組織内へのECM(細胞外マトリックス)の過剰な沈着を特徴とし、その蓄積プロセスはcGAS(cGMP-AMP合成酵素)/STING(Stimulator of interferon genes)炎症誘発経路によって厳密に制御されています。この経路は炎症性疾患における炎症反応の下流経路の治療ターゲットとして広く認知されています。cGAS/STING経路は、パターン認識受容体であるcGASが病原体等のDNAを検知・認識し、dsDNA(二本鎖DNA)との結合によってアロステリックに活性化し、外部由来のDNAを含む異物を除去する働きや免疫応答に関与するタンパク質のアップレギュレーションを誘導するという機構を介して、生体防御系に直接的に関与します。Wangらは、マイクロプラスチック曝露によって引き起こされる、マウス肝臓組織におけるミトコンドリアと核の恒常性の崩壊レベルを定量的・定性的に評価しました。cGAS/STING炎症経路の活性化という性質を根拠に、著者らはマイクロプラスチックの存在によって肝細胞の損傷した核DNAやミトコンドリアDNAが遊離dsDNAとして細胞質に漏出し、時間の経過とともに肝線維症を発症するのではないかという仮説を立てました。

マイクロプラスチックと肝線維症発症の関係を示したグラフィカル・アブストラクト

グラフィカル・アブストラクト(画像引用元:Wang et al. 2022 Environmental Pollution. PMID: 35167931

 

研究チームは、粒子径約0.1 µmのマイクロプラスチックがマウス肝細胞の細胞質に高い割合で存在することを明らかにし、1 µm未満のマイクロプラスチックは細胞内空間に容易に侵入・蓄積し得るというエビデンスを得ました。肝臓の病理組織学的解析では、マイクロプラスチックの粒子径が0.1 µmから1 µmへと大きくなるにつれ肝細胞へのダメージが増大することが判明しました。マイクロプラスチックに60日間曝露したマウス群は肝臓損傷レベルを評価する血清マーカーの値が上昇しており、肝細胞が受けるダメージには高レベルの酸化ストレスが深く関与している可能性が示されました。

研究チームが肝細胞のミトコンドリア機能に対するマイクロプラスチックの影響を評価したところ、ミトコンドリア形成に関与する2種類の制御因子PPARαとPGC-1αの発現抑制が認められました。ミトコンドリアの分裂や融合のダイナミクスは細胞の増殖や恒常性維持を制御しますが、ヒト正常肝細胞株であるHL7702細胞ではマイクロプラスチックの存在量に依存して外膜融合タンパク質であるMFN1の発現量が抑制されました。仮説を裏付けるように、マイクロプラスチック曝露群ではcGAS/STING経路が顕著に亢進していることが明らかになりました。

また過去の文献では、炎症反応が細胞修復のレベルを反映するかたちで、肝臓組織の線維化を引き起こすことが報告されています。免疫蛍光染色では、マイクロプラスチック曝露(1 mg/L)群のマウスの肝臓においてフィブロネクチンの発現レベルが上昇していることが明らかになりました。正常な肝臓組織においてフィブロネクチンの発現量は少なく、その発現亢進は組織形態における有害な構造変化と密接に関連しています。著者らは、曝露群ではコントロール群と比較して、代表的な炎症マーカーであるIL-1β、IL-6、TNFαの発現が上昇していることも発見しました。STING阻害剤であるC176で処理すると、肝細胞の修復が促進されるとともにマイクロプラスチックによって誘導される線維化レベルが緩和されました。また、病理組織染色により、60日間の曝露試験における粒子径や曝露期間に応じた肝臓病態の程度が明らかになりました。コントロール群と比較して、1 mg/LのPS(ポリスチレン)に60日間曝露したマウスは肝臓の病態スコアが4倍上昇し、マイクロプラスチックが肝臓組織全体の健全性に有害な影響を及ぼす可能性が示されました。

このように、Wangらは粒子径が1 µm未満のマイクロプラスチックは血流へと移行して肝細胞に蓄積し、一連の重篤な炎症反応が誘導されることを証明しました。そして、マイクロプラスチックが細胞内や細胞小器官に侵入することで核DNAやミトコンドリアDNAの損傷に伴う細胞内へのDNA断片の遊離を促進し、炎症誘発性のcGAS/STING経路を亢進させて肝線維症におけるECMの蓄積を増加させるモデルを示しました。

プロテインテックの関連製品
ターゲット
カタログ番号
GAPDH 10494-1-AP
cGAS 26416-1-AP
STING 19851-1-AP
Fibronectin 66042-1-Ig
PPARα 66826-1-Ig
PGC-1α 66369-1-Ig
MFN-1 13798-1-AP
DRP-1 12957-1-AP
ND1 19703-1-AP
SDHB 10620-1-AP
UQCRC2 14742-1-AP
COX4 11242-1-AP
ATP5A 14676-1-AP

 

||
New chat

Able

正在加载,请稍候...