がんの転移研究

がんの進行度と生存率には転移の有無が大きく関係します。


 

転移(Metastasis)とは?

転移とは、あるがん細胞が原発腫瘍の存在する場所から離れ、遠隔臓器に定着して第2の腫瘍を形成する複数の過程からなるプロセスです。がんの進行度と生存率には転移の有無が大きく関係し、転移が認められた場合は外科手術や放射線療法等のいくつかのがん治療では限定的な効果しか得られないため、臨床上の大きな問題となります。がん転移の様々な過程の解明や転移の抑制は、がん研究で活発に研究されている領域です。

 

転移の過程

がんの転移の進行は、がん細胞が原発部位から離脱し、別の臓器に第2の腫瘍を形成する一連の過程からなります。転移の過程には、がん細胞の転移の障壁となる生体の防御機構が存在し、がん細胞を排除するための選抜プロセスとしての役割を果たします。

転移の過程

  1. 原発部位からのがん細胞の浸潤および遊走
  2. 血管・リンパ系へのがん細胞侵入
  3. 血管・リンパ系を介したがん細胞の伝搬
  4. 血管内皮細胞との接着および血管外遊走
  5. 遠隔部位での生存・再腫瘍化
  6. 第2の腫瘍の形成

がん転移の各過程とマーカーを示した一覧図(原発腫瘍、転移腫瘍、増殖、浸潤・遊走、循環器系侵入、伝搬、定着・再腫瘍化)

図1. がん転移の進行と各過程に関連するマーカーを示した一覧図

 

様々な転移過程の研究方法

がんが遠位の臓器へ転移する経緯を解明すれば、がん進行の様々な過程における転移の抑制が可能になり、がんを予防できる可能性が高まります。

プロテインテックは、以下の研究テーマをカバーする有用な製品を販売しています。

  • 原発腫瘍における細胞の上皮間葉転換(EMT:Epithelial-mesenchymal transition)—細胞に上皮間葉転換(EMT)が生じると、より間葉系細胞に近い表現型を獲得すると共に上皮細胞としての特徴を喪失して、遊走および転移する傾向が強くなります。
    EMT研究用製品[PDF](言語:英語)

  • マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP:matrix metalloproteinase)等のがん細胞による細胞外マトリックス(ECM:Extracellular matrix)リモデリング酵素研究
    MMP関連製品(ELISA・IHCキット)

  • 血管新生マーカーの探索(がん細胞が局所組織で浸潤するには血管新生が生じる必要があります)
    血管新生マーカーVEGF関連製品

  • フローサイトメトリーによる循環腫瘍細胞(CTC:Circulating tumor cell)の定量
    参考:表1(CTC関連製品)

  • 転移臓器におけるがん細胞の定着や微小転移—がん細胞の増殖マーカー(Ki67)、研究対象のがん細胞特異的マーカー、METマーカー等の一般的なマーカーが用いられます。

KE00164 Human MMP-9 ELISA Kitの標準曲線

図2. サンドイッチ法を原理とするHuman MMP-9 ELISA Kit(カタログ番号:KE00164)の標準曲線。本製品はヒト血清、細胞培養上清サンプルの分泌MMP-9の検出に使用可能です。

 

TWIST1抗体を使用したパラフィン包埋ヒト乳がん組織スライドの免疫組織化学染色。

図3. TWIST1-specific Polyclonal antibody(カタログ番号:25465-1-AP、希釈倍率1:200)を使用したパラフィン包埋ヒト乳がん組織スライドの免疫組織化学染色(X10)。Tris-EDTA buffer(pH9)で熱処理し抗原賦活化した試料を使用。

 

 CoraLite®750標識ヒトCD44抗体を使用したPMBCのフローサイトメトリー                 

図4. ヒト末梢血単核細胞(PBMC:peripheral blood mononuclear cell)のフローサイトメトリー:1x10^6個のPBMC細胞の細胞膜表面をCoraLite®750標識ヒトCD44抗体(カタログ番号:CL750-65063、クローン番号:F10-44-2、5μl)で染色した。

*CoraLite®750以外のCoraLite®蛍光色素を標識したCD44抗体も販売しています。構築するパネルに適した波長のものをご利用ください。
励起波長488 nm:CoraLite® Plus 488標識CD44抗体(カタログ番号:CL488-65117)、555 nm:CoraLite®555標識CD44抗体(カタログ番号:CL555-65117)、568 nm:CoraLite®568標識CD44抗体(カタログ番号:CL568-65117)。



表1:循環腫瘍細胞(CTC)の検出・単離用抗体および関連製品
マーカー
特異性

Cytokeratin

上皮性腫瘍

EpCAM

上皮性腫瘍

Vimentin

間葉系腫瘍

ALDH

がん幹細胞(CSC)マーカー

転移マーカー

CD24

がん幹細胞(CSC)マーカー

乳がん

CD44

がん幹細胞(CSC)マーカー

転移マーカー

様々ながんに発現

CD113

大腸がん

前立腺がん

乳がん

その他のがんマーカーと併用

CD166/ALCAM

がん幹細胞(CSC)マーカー

接着分子

CD146

間葉系腫瘍

メラノーマ

乳がん

内皮系腫瘍マーカーとしてその他の腫瘍マーカーと併用

CD45  

血液・組織由来の免疫系細胞/HSCとがんを区別するための陰性コントロールマーカー

GFP

GFPタグ融合タンパク質発現がん細胞

フローサイトメトリーによる循環がん細胞の測定に関する詳細はフローサイトメトリーのサポート情報(ptglab.co.jp)をご覧ください。

プロテインテックでは、がん細胞を検出可能な抗体と試薬がセットになった免疫組織化学染色キット「IHCeasy」を販売しています。こちらも併せてご覧ください。
IHCeasy Ready-to-use IHC Kits[PDF](言語:英語)

 

Lucie Reboud著(マンチェスター大学博士課程4年、プロテインテックScience Marketingインターン生)


参考文献

L A Mina, G W Sledge. Rethinking the metastatic cascade as a therapeutic target. Nat Rev Clin Oncol. 2011 Jun;8(6):325-32.

H D-Moghadam, C A-Panabières, et al. The Role of Circulating Tumor Cells in the Metastatic Cascade: Biology, Technical Challenges, and Clinical Relevance. Cancers (Basel). 2020 Apr 3;12(4):867.

N M Aiello, Y Kang. Context-dependent EMT programs in cancer metastasis. J Exp Med. 2019 May 6;216(5):1016-1026.

J L Chitty, E C Filipe, et al. Recent advances in understanding the complexities of metastasis. F1000Res. 2018 Aug 1:7:F1000 Faculty Rev-1169.