特集:神経マーカー抗体
プロテインテックは、神経科学研究に有用な抗体を数多く取り揃えています。
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神経マーカー抗体カタログ(PDF) |
神経マーカー(神経細胞/グリア細胞マーカー)の概要
神経細胞(Nerve cell、Neuron)は、脳の情報伝達を担う基礎的な構成要素です。脳の働きを理解するには、機能の異なる様々な種類の神経細胞を研究することから始めなければなりません。中枢神経系(CNS:Central nervous system)には「神経細胞(ニューロン)」と「グリア細胞」が含まれます。そのうち、グリア細胞は、主にアストロサイト(Astrocyte、星状膠細胞)、ミクログリア(Microglia、小膠細胞)、オリゴデンドロサイト(Oligodendrocyte、希突起膠細胞)の3種類に分類され、それぞれの細胞は独自の形態的特徴と機能を有します。
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興奮性神経細胞(興奮性ニューロン)は、グルタミン酸やドーパミン等の興奮性神経伝達物質を放出します。
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抑制性神経細胞(抑制性ニューロン)は、GABA(gamma-aminobutyric acid、γ-アミノ酪酸)やグリシン等の抑制性神経伝達物質を放出します。
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ドーパミン作動性神経細胞(ドーパミン作動性ニューロン)は、神経伝達物質としてドーパミンを放出する神経細胞です。ドーパミンは情動や依存症のような神経活動において重要な役割を果たします。
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コリン作動性神経細胞(コリン作動性ニューロン)は、中枢神経系に広く分布する神経伝達物質であるアセチルコリンを放出します。
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グリア細胞は、神経細胞(ニューロン)のネットワーク構造を支持し、栄養を供給すると同時に生理活性物質の吸収や調節等の種々の役割を担います。
現在では、特定の神経細胞(ニューロン)亜集団を同定するために、神経マーカーであるMAP2やTUBB3、アストロサイトマーカーであるGFAP、オリゴデンドロサイトマーカーであるOLIG2、ミクログリアマーカーであるIBA1等の様々なタンパク質が使用されています。
MAP2&TUBB3:神経細胞マーカー
MAP2(Microtubule-associated protein 2、微小管結合タンパク質2)は、神経の細胞骨格を構成する重要なタンパク質であり、神経系の発生、形成、再生等の様々な段階で重要な役割を果たします。クラスⅢβチューブリン(TUBB3:Tubulin beta 3)は、特定の種類の神経細胞への分化に関与すると考えられています。MAP2抗体およびTUBB3抗体は神経生物分野で幅広く使用されている神経細胞マーカー抗体です。
MAP2抗体 |
MAP2抗体(カタログ番号:17490-1-AP、希釈倍率1:250)を使用した、ヒトiPS細胞由来培養神経細胞(4%PFA固定、培養期間35日)の免疫蛍光染色(赤:MAP2、青:DAPI)。画像提供:BioTalentum Ltd.(ハンガリー) |
TUBB3抗体 |
TUBB3抗体(カタログ番号:66375-1-lg、希釈倍率1:250)を使用したヒトiPS細胞由来培養神経細胞(4%PFA固定、培養期間35日)の免疫蛍光染色(緑:TUBB3、青:DAPI)。画像提供:BioTalentum Ltd.(ハンガリー) |
GFAP抗体(カタログ番号:60190-1-Ig、希釈倍率1:100)、Alexa Fluor488標識AffiniPureヤギ抗マウスIgG(H+L)抗体を使用したマウス脳組織(4%PFA固定)の免疫蛍光染色。 |
GFAP抗体(カタログ番号:60190-1-Ig、希釈倍率1:5000)を使用したパラフィン包埋ヒト脳組織の免疫組織化学染色(40倍レンズを使用)。クエン酸バッファー(pH6.0)で熱処理し抗原賦活化した試料を使用。 |
OLIG2:オリゴデンドロサイトマーカー
OLIG2(oligodendrocyte lineage transcription factor 2、オリゴデンドロサイト系統転写因子2)は、オリゴデンドロサイトで発現する転写因子です。OLIG2抗体は、神経生物学分野で広く使用されているオリゴデンドロサイトマーカー抗体です。
様々な組織をSDS-PAGEに付した後、OLIG2抗体(カタログ番号:66513-1-Ig、希釈倍率1:3000)と室温で1.5時間インキュベーションしてウェスタンブロットを行った。 |
注目製品:WFS1抗体
カタログ番号 | 抗体タイプ | アプリケーション |
11558-1-AP | ウサギポリクローナル | ELISA, IHC, IF, CoIP, WB |
WFS1(Wolfram syndrome protein、ウォルフラム症候群タンパク質)は、ウォルフォラミン(Wolframin)とも呼ばれ、脳、膵臓、心臓、インスリノーマβ細胞株等において最も高いレベルで偏在的な発現が認められるタンパク質です。WFS1は、小胞体の維持や小胞体ストレス緩和に働き、カルシウム恒常性の調節に関与しています。WFS1遺伝子の変異は、糖尿病、視神経萎縮症の他、尿路異常、神経・精神症状、聴覚異常等の様々な障害を特徴とする常染色体劣性遺伝性神経変性疾患である、ウォルフラム症候群と関連しています。
アイランドセルとオーシャンセル
ノーベル医学・生理学賞を受賞した利根川進氏がセンター長を務める、MIT神経回路遺伝学研究センターの研究グループは、「いつ」、「どこで」という情報を処理する嗅内皮質の2種類の細胞、「アイランドセル」および「オーシャンセル」を同定し、特性解析を実施しました。
プロテインテックのWFS1抗体の使用例
アイランドセルとオーシャンセルは、それぞれの細胞が発現する特定の神経細胞マーカーによって区別できます。アイランドセルは、WFS1陽性を示す錐体神経細胞です。一方、オーシャンセルはリーリン(reelin)陽性を示す星状細胞として特定することができます。WFS1タンパク質は全身で広範に発現しますが、利根川氏の研究グループは、嗅内皮質ではアイランドセルだけにWFS1タンパク質が発現することを見出しました。研究グループはプロテインテックのWFS1抗体(カタログ番号:11558-1-AP)を使用してアイランドセルを選択的に免疫染色し、得られた成果を複数の論文に発表しました。
ゴルジ染色実施例A)錐体細胞。B)星状細胞。(Churchill, et al. BMC Neuroscience 2004 5:43 doi:10.1186/1471-2202-5-43. Figure 1より画像を引用) |
利根川氏の研究グループは、アイランドセルとオーシャンセルが表出する特異的なマーカーを認識する抗体を使用し、この2種類の細胞集団を染色して両者を区別することで、脳の他の部位に対する、それぞれの細胞の投射経路のマッピングに成功しました。この研究により、アイランドセルとオーシャンセルは近接して存在しているものの、シグナルの投射対象が異なることが明らかになりました。アイランドセルは海馬のCA1領域を投射対象とし、オーシャンセルは海馬歯状回‐CA3領域を投射対象としています。
IBA1:ミクログリアマーカー
カタログ番号 | 抗体タイプ | アプリケーション |
10904-1-AP | ウサギポリクローナル | ELISA, IF, FC(Intra), IHC |
IBA1(Ionized calcium binding adapter molecule 1、イオン化カルシウム結合アダプター分子1)は、単球やマクロファージ等が発現する免疫応答タンパク質であり、主にマクロファージ活性化のマーカーとして認識されています。
IBA1はミクログリア細胞のマーカーとしても一般的に使用されます。ミクログリア細胞は中枢神経系に認められる常在型マクロファージとも呼ばれ、脳内における免疫応答調節において重要な役割を果たします。ミクログリア細胞は、脳や脊髄の病原体やアポトーシスの生じた細胞を探し出し、貪食作用を介してこれらの余計な物質を除去することが示されています。
ミクログリア細胞の活性化は、パーキンソン病やアルツハイマー病等の神経変性疾患の発症過程で認められる、特徴的な細胞の表現型移行の1種です。2015年に発表されたCuiらの研究では、騒音暴露とアルツハイマー病間の病因学的関連性を評価しています。アルツハイマー病に罹患すると神経炎症が発生するということが長年知られていたことから、Cuiらは慢性的な騒音に暴露したマウスの脳に発生する神経炎症の程度を調査しました。この研究では、プロテインテックのIBA1抗体を使用したウェスタンブロットによってミクログリア細胞のマーカータンパク質を解析し、神経炎症時のグリア細胞活性化の検出に成功しています。
さらに、Cuiらはマウスを騒音に暴露するとIBA1の発現量が最大で14日間有意に上昇することも示しました。この結果は、慢性的な騒音暴露による深刻なミクログリア細胞の活性化が、神経炎症や神経変性において重要な役割を果たす可能性があることを示唆しています。
IBA1は神経変性疾患において重要な役割を果たすと同時に、体性感覚神経系の傷害による慢性疼痛を特徴とする神経障害性疼痛に関与すると考えられています。
2015年のPopiolek-Barczykらによる研究では、坐骨神経傷害に伴うミクログリア/マクロファージのM2型活性化に対するパルテノリド系化合物の効果を評価しています。著者らは、プロテインテックのIBA1抗体を使用して、パルテノリド系化合物の投与によって疼痛が軽減すると同時にIBA1の発現量が増加することを示しました。
明らかに、IBA1は神経変性に至るプロセスや疼痛等の様々な神経変性疾患において重要な役割を果たします。プロテインテックのIBA1抗体は、siRNAを用いた特異性試験等の多岐にわたる検証を実施しています。また、多数の査読付論文に使用されています。
IBA1抗体(カタログ番号:10904-1-AP、希釈倍率1:100)を使用したパラフィン包埋ヒト悪性リンパ腫の免疫組織化学染色(40倍レンズを使用)。 |
IBA1抗体(カタログ番号:10904-1-AP、希釈倍率1:50)、Alexa Fluor488標識AffiniPureヤギ抗ウサギIgG(H+L)抗体を使用したC6細胞(-20℃エタノール固定)の免疫蛍光染色。 |
- B Cui, et al. Chronic Noise Exposure Acts Cumulatively to Exacerbate Alzheimer's Disease-Like Amyloid-β Pathology and Neuroinflammation in the Rat Hippocampus. Sci Rep. 2015 Aug 7;5:12943.
- K Popiolek-Barczyk, et al. Parthenolide Relieves Pain and Promotes M2 Microglia/Macrophage Polarization in Rat Model of Neuropathy. Neural Plast. 2015;2015:676473.
ローディングコントロール抗体
GAPDH抗体 | |
カタログ番号:60004-1-Ig | |
GAPDHは、多くの種類の細胞で安定して高レベルに発現しているため、ウェスタンブロットでタンパク質のローディングコントロールとしてよく使用されます。 |
Beta Actin抗体(KD/KO検証済み) | |
カタログ番号:66009-1-Ig | |
β-アクチンはすべての真核細胞で安定して発現していることからローディングコントロールとして一般的に使用されています。 |