ビギナーズガイド | 免疫組織化学 (IHC) 染色

初めて免疫組織化学 (IHC) を行う時の基本的なプロトコールやポイントを解説します。

免疫組織化学染色(IHC)に関する、追加のヒントをいくつか探していますか?本稿では、ゲストブロガーのSarah Etheridge氏によって、IHC実験経験に関して10の便利なヒントの形で語ってもらいます。

免疫組織化学染色(IHC)は、微細構造を保持している無傷の組織内のタンパク質を可視化することができます。この状態を「実際の生命」と呼びたいと思います。この「実際の生命(Real life)」を可視化する利点の1つは、健康な組織と疾患のある組織とを比較することができることであり、このアプリケーションは科学者と病理学者の両方にとって極めて有益です。IHCのプロトコールは簡単ですが、特異的な抗体結合と標的タンパク質の至適な可視化を確実にするために初期最適化を必要とするステップが多くあります。ここでは、これらのステップのそれぞれについていくつかのヒントの概要を説明し、どのステップで少しの調整が必要になるのかを説明していきます。

1. 組織の調製

組織サンプル(検体)は凍結または固定することができます。切片を凍結すると、一般的に標的抗原の立体構造が維持され、優れた抗体結合が可能になりますが、組織内に小さな氷晶が形成される可能性があり[1、2]、これらの切片は長期保存には適していません。スライドをもう少し長く保持しておきたい場合は、固定して包埋した組織の方が適しています。組織の固定と包埋の最も一般的な方法は、ホルムアルデヒド固定パラフィン包埋(FFPE:formaldehyde fixation with paraffin embedding)です。(FFPE包埋生検標本は、室温で無期限に保存することが可能です。そのため、それらは、医学の歴史的視点からの研究において、重要なリソースになります!)

2. 組織の調製:その他の試行すべきこと

染色前に、組織切片を氷冷50:50メタノール-アセトン(MeAc:methanol-acetone)または4%パラホルムアルデヒド(PFA)で固定することにより、抗体結合が促進される可能性があります。たとえば、MeAcは細胞質タンパク質を溶解し、膜結合タンパク質の可視化をより良好なものにします。

3. 抗原賦活化

ホルムアルデヒド固定は、組織内のタンパク質の架橋を引き起こし、組織の形態を維持しますが、抗体によって認識されるエピトープを変性させます[3]。したがって、FFPE切片を染色する前に抗原賦活化が通常行われ、隠れたまたは変性した標的エピトープを露出させます。抗原賦活化は、熱的誘発または酵素的誘発[1、4]により実施することができ、温度、pH、時間等の因子が賦活化に影響を及ぼします。新しい抗体と組織の組み合わせごとに抗原賦活化法に関する「一連の組み合わせ」またはパネル(一群)を試験して、最適な染色を決定し、非特異的なバックグラウンド染色を除外することが推奨されます[5]。最初は、マイクロウエーブを使ってpH6.0のクエン酸塩緩衝液中で沸騰する方法から試すと良いでしょう。抗原賦活は、凍結切片には必要ないですが、染色前に少なくとも1時間、切片を風乾する必要があります。キシレンとアルコール中でのFFPE切片の脱蝋は、抗原賦活化と染色の前に実施しなくてはなりません。脱蝋(De-waxing)後に切片は、アルコール含量を徐々に低下させた一連のアルコール溶液、次に水で再水和されます。それでは、私の次の最高のヒントに移ります。

4. サンプル(検体)の取り扱い

切片の脱蝋・再水和が完了したら、それらを乾燥させないことが重要です!したがって、専用のIHC染色トレイの中に、インキュベーションの間それらを保持します。多くのベンダーが染色トレイを販売しており、組織切片を加湿環境に保つのに役立ちます。代替方法は、組織を水に浸したトレイを使用することです。最高のヒント:PAPペン(試験片の周囲に描くと、薄いフィルム様疎水性バリアができる特殊なマーキングペン)を使用して、透過処理ステップが実施された後に、溶液を切片近傍に保持します。PAPペンの使用は絶対に不可欠ではありませんが、役立つ場合があります。(PAPペンは、透過処理またはMeAc固定の前に使用しないでください。TritonまたはMeAcによってバリアが溶解され、お客様の組織に付着する可能性があります。)

5. 透過処理

ほとんどのタンパク質では、プロトコールに透過処理ステップを追加することを推奨します。エピトープが細胞外領域にある膜貫通タンパク質には、透過処理は必要ない場合があります。透過処理には、界面活性剤(PBS中の0.1%Triton-X100等)とのインキュベーションが含まれます。界面活性剤は、ホルムアルデヒド固定中に発生するタンパク質架橋の一部を破壊し、これにより正しいエピトープに抗体が結合するのを助け[1]、非特異的疎水性相互作用を低減します。最高のヒント:染色がうまくいかない場合は、すべての溶液にTriton等の界面活性剤を低濃度で添加してみてください(特にFFPE染色の場合)。

6. ブロッキング

ブロッキング溶液は組織内の非特異的結合部位に結合するため[1]、一次抗体および二次抗体が組織成分に非特異的に結合するのを防ぎます。切片は、ウシ血清アルブミン(BSA)や二次抗体の宿主由来の血清等、「無害なタンパク質溶液」とインキュベートされます。私は通常、3%BSA溶液、20〜30分間のインキュベーションから開始します。Proteintechも日常的に3% BSAを使用していますが、代わりに5〜10%のヤギ血清を使用することもできます(使用する二次抗体はヤギで生成されるため)。

7.一次抗体の選択

お客様の一次抗体の選択は、目的とするタンパク質の発現レベルや、共局在の場合に使用される他の抗体などの因子によって決める必要があります。後者の場合、異なる種由来の抗体を使用しなければならないので、それぞれ違う標識を持つ複数の二次抗体を使用してそれらを区別することができます。モノクローナルとポリクローナルのどちらがお客様のニーズに適しているかも選択する必要があります。モノクローナル抗体を使うと極めて特異的なシグナルが得られ、一方ポリクローナル抗体を使うと、特に目的のタンパク質の発現レベルが低い場合に、より明るいシグナルが得られます。

抗体コントロール

宿主血清中の他の抗体による交差反応および非特異的結合が起こる可能性があります。これを防ぐために、タンパク質A/G精製、アフィニティー精製、事前吸着処理などの精製技術が使用されます。Proteintechは、製品の調製中に、すべての抗体を標的抗原でアフィニティー精製します。しかし、お客様がコントロールを設定して、一次抗体結合の特異性を検証したい場合には、いくつかのオプションを下に示します:

  • 理想的なコントロールは、目的とするタンパク質を含まない組織を使用することです。例えば、ノックアウトマウスの組織、または標的タンパク質がノックダウン(つまりsiRNA)された細胞を使用します

  • ウエスタンブロッティングは、抗体が適切なサイズのタンパク質を検出していることを確認するために使用されます。ウエスタンブロット上の複数のバンドは、非特異的な抗体結合を示唆しています。

  • 抗体の特異性は、一次抗体を抗原性ペプチドと共にプレインキュベーションすることで確認できます(吸着試験)。抗体がアフィニティー精製されている場合、このステップは必要ありません。特異的なペプチド配列がタンパク質精製に使用されるためです[6]。

  • 抗体がカスタムメイドの場合は、製造プロセスの様々なステップの血清を使用してウエスタンブロッティングを実施し、お客様のタンパク質を表すバンドが正しい画分によって検出されるかどうかを判定します。

8. 抗体の希釈

希釈のガイドは通常、抗体シートとともに供給されます。それ以外の場合、50分の1~300分の1の希釈が、最適化を始める希釈率として適しています。おそらく、新品の抗体を用いて、一連の一次抗体希釈を試してみてください。一次抗体をブロッキング溶液(PBS中の3%BSAなど)で希釈した後、室温で1〜2時間、または4°Cでオーバーナイトインキュベートします。

9. 洗浄

PBSなどの洗浄液で一次抗体を洗い流します。すばやく洗浄した後、5分間の洗浄を3回繰り返すだけで十分です。凍結切片は非常に壊れやすいため、たとえば1 mlのピペットを使用して、切片の横にゆっくりと溶液を滴下します。最高のヒント:洗浄バッファーをPBSではなくトリス緩衝生理食塩水(TBS)に変更します。

検出: 一次抗体の検出は通常、一次抗体の宿主種の免疫グロブリンに対する二次抗体の、蛍光(例えばFITC)または発色性酵素タグ(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP))との結合体を用いて実施されます。検出を成功させるために、これらのヒントに従ってください!

  • バックグラウンド染色は実験によって異なる結果となる可能性があるため、各実験で一次抗体を省略した陰性コントロールを実施することを推奨します。

  • 二次抗体をブロッキング溶液で希釈します。通常、800分の1から1000分の1に希釈します(ただし、これは今後調整できます)。

蛍光実験について:

  • 使用する予定のフルオロフォアが自身の顕微鏡で検出されることを確認します。二次抗体にタグ付けされた蛍光色素のスペクトルの重複、二次抗体間の交差反応、およびイメージング中のシグナルの漏れ込みを回避することが重要です。

  • 蛍光抗体を添加したら、切片を暗所に保管して、ブリーチングを防止してください。

  • インキュベーション後、切片をPBSで数回洗浄してから、封入剤を切片に添加し、カバーガラスを上から慎重に下げます。

  • カバーガラスを静かに下げ、気泡を避けます。凍結切片の場合は特に注意してください。カバーガラスを強く圧迫、または押しすぎないようにしてください。組織が破壊される可能性があります。

  • 核を、例えばDAPIで染色すると便利なことが多くあります。これは、洗浄ステップまたは封入剤に含めることができます。

  • 蛍光タグに直接結合した一次抗体を使用することが可能です。これにより時間を節約し、誤ったシグナルを減らすことができますが、シグナルのレベルは低くなります。低レベルのシグナルを増幅する方法があり、アビジン-ビオチン複合体(ABC)法や標識ストレプトアビジン-ビオチン法(LSAB)などがあります。

10.最適化のスタートポイントに関する提案

IHCプロトコールには多くの側面で最適化が必要なことを恐れないでください。お客様のIHC実験の最初の段階で、最適化を検討すべき最初のステップは、下記のリストにあります:

  • FFPE切片の抗原賦活化

  • 一次抗体の希釈

  • ブロッキング溶液

参考文献

1. Daneshtalab N, Doré JJ and Smeda JS, Troubleshooting tissue specificity and antibody selection: Procedures in immunohistochemical studies., J Pharmacol Toxicol Methods., 2010;61(2):127-35.

2. Shi SR, Liu C, Pootrakul L et al., Evaluation of the value of frozen tissue section used as "gold standard" for immunohistochemistry., Am J Clin Pathol., 2008;129(3):358-66.

3. Fox CH, Johnson FB, Whiting J et al., Formaldehyde fixation. J Histochem Cytochem., 1985;33:845–853.

4. Yamashita S et al., Heat-induced antigen retrieval: mechanisms and application to histochemistry. Prog Histochem Cytochem., 2007;41:141-200.

5. Shi SR, Cote RJ and Taylor CR, Antigen retrieval immunohistochemistry: past, present, and future. J Histochem Cytochem., 1997;45(3):327-43.

6. Saper CB and Sawchenko PE, Magic peptides, magic antibodies: guidelines for appropriate controls for immunohistochemistry. J Comp Neurol., 2003;465:161–163.