ゲスト寄稿 | ウェスタンブロットにおけるローディングコントロール
技術的ヒントと関連製品を紹介します。
Deborah Grainger著
内在性コントロールとしてのタンパク質やペプチドは、常に研究の中心的な役割を果たすわけではありません。しかし、有意義な研究を行うために必要不可欠な存在であり、論文を発表するうえで必ず必要とされます。
ウェスタンブロットでは、内在性コントロールを実験に含めることが求められ、一連の異なる実験パラメーターとして得られたタンパク質の発現量を半定量する際に広く使用されます。標準タンパク質は、ウェスタンブロット結果の妥当性を示すために必要です。例えば、研究対象タンパク質の発現量の増減は、ゲルへのローディング時にサンプルのロスが生じた等の原因ではなく、実際の実験的処理による結果であることを確認するために必要となります。通常、内在性コントロールタンパク質(例:定常的に一定の濃度で発現するタンパク質)は、目的タンパク質に対する抗体でインキュベーションした後、内在性コントロールタンパク質に対する抗体で2回目のインキュベーションを行って検出します。このステップを取り入れて、結果を標準化することによって、SDS-PAGEのローディング時やウェスタンブロットの転写時のサンプルのロス等の潜在的に起こり得るエラーを正規化します。
通常、ウェスタンブロットのローディングコントロールの候補となり得るタンパク質は、発現量が多く、恒常的に発現しているタンパク質です。上述した通り、ローディングコントロールタンパク質の最も基本的な選択基準は、使用する組織や細胞の種類、取り扱い方法に関わらず、実験全体を通じてその発現量が一定で変化しないタンパク質であるか否かです。このことは、β-actinやα-tubulin等の汎用的なローディングコントロールであっても、実験条件によっては影響を受ける可能性があるため、コントロールタンパク質を慎重に選択する必要があることを意味します(実施する実験操作がコントロールタンパク質に影響を与えないか再度確認してください)。
本稿では、プロテインテックが取り扱うコントロール抗体と各内在性コントロールタンパク質の背景情報を提供します。お客様の用途に最適なコントロールの選択にお役立てください。
以下の概要表は、ローディングコントロール抗体を購入する際の目安となるコントロールタンパク質の分子量です。研究対象のタンパク質の分子量と異なる分子量を持つコントロールを選択する際にご活用ください。
全細胞/細胞質 | 核 | ミトコンドリア | 血清 | ||||
ローディングコントロール | 分子量(kDa) | ローディングコントロール | 分子量(kDa) | ローディングコントロール | 分子量(kDa) | ローディングコントロール | 分子量(kDa) |
Vinculin | 117 | ||||||
Transferrin | 77 | ||||||
Lamin B1 | 66 | ||||||
HDAC1 | 65 | ||||||
α-tubulin | 52 | ||||||
β-tubulin | 50 | ||||||
β-actin | 42 | ||||||
GAPDH | 36 | TBP (rodent) | 33-36 | ||||
PCNA | 36 | VDAC1/Porin | 36 | ||||
TBP (human) | 37-43 | ||||||
COXIV | 19 | ||||||
Histone H3 | 16 |
Actin(アクチン)
タイプ:全細胞/細胞質
分子量:~42kDa
アクチンは高度に保存された球状タンパク質で、α、β、γの3種類の主要なアイソフォーム群からなる6種類のアイソフォームが存在します。αアクチン(αC1、α1、α2)は、筋肉組織の収縮装置の主要な構成要素です。β、γ1、γ2の各アクチンは、ほとんどの種類の細胞で同時に存在し、細胞移動、構造の完全性、細胞の運動性に関わる細胞骨格において重要な役割を果たします。さらに、アクチンは典型的な真核細胞において最も多く発現しているタンパク質で、特定の種類の細胞では総タンパク質のうち約15%を占めています。そのため、アクチンはウェスタンブロット実験の内在性コントロールとして幅広く使用されています。
抗β-アクチン(別名:ACTB)マウスモノクローナル抗体(カタログ番号:60008-1-Ig、希釈倍率1:5000)を使用した、複数の細胞株および組織ライセートのウェスタンブロット解析。
プロテインテックのβ‐アクチンポリクローナル抗体(カタログ番号:20536-1-AP)は、β‐アクチンタンパク質抗原(1~50番目のアミノ酸残基)を使用して作製され、全形態のアクチンを認識する汎アクチン抗体です。このローディングコントロールタンパク質を確認するために、多くの研究で全アクチンアイソフォームを認識するβ-アクチン抗体が使用されています。しかし、骨格筋サンプルを対象とした研究の場合や、細胞の成長に伴う変化や細胞外マトリックスとの相互作用の変化を対象とした研究の場合、別のローディングコントロールタンパク質を使用した方が良いかもしれません。
HeLa細胞ライセートをSDS-PAGEにより泳動し(10µg/1レーン)、異なる濃度の抗β-アクチン抗体(カタログ番号:20536-1-AP、左から順に希釈倍率1:500、1:1000、1:2000、1:4000)でアクチンを検出した。
関連抗体 |
カタログ番号 |
Rabbit polyclonal ACTB antibody | 20536-1-AP |
Mouse monoclonal ACTB antibody | 60008-1-Ig |
HRP-conjugated ACTB antibody | HRP-60008 |
Rabbit polyclonal ACTA1 antibody | 17521-1-AP |
Rabbit polyclonal ACTA2 antibody | 55135-1-AP |
COX-4
タイプ:ミトコンドリア
分子量:17kDa
COX-4(別名:COXⅣ、cytochrome c oxidase subunit Ⅳ)は、ヒトミトコンドリア呼吸鎖酵素シトクロムオキシダーゼ(COX)のサブユニットのうち、核ゲノムにコードされたサブユニットです。COX-4サブユニットには2種類のアイソフォーム(COX4I1、COX4I2)が存在し、いずれかのアイソフォームが発現します。COX4I1は全ての組織に普遍的に発現していますが、COX4I2は肺特異的に発現しています。COX4I1は安定して高レベルに発現していることから、ミトコンドリアタンパク質の実験で良好な指標となるローディングコントロールとして一般的に使用されています。しかし、SDS-PAGEを実施する場合同じ17kDaで泳動されるその他多くのタンパク質が存在するため、COX4I1をローディングコントロールとして選択する場合は注意が必要です(目的のバンドに重ならないことを確認してください)。また、実験操作が発現量に影響を与えないことも併せて確認することをおすすめします。代替となるミトコンドリアタンパク質のローディングコントロールについては一覧表のVDAC1の項をご覧ください。
プロテインテックのCOX4I1抗体(カタログ番号:11242-1-AP)はCOX4I1全長タンパク質(169アミノ酸残基)を抗原に用いて作製されているため、COX4I2も認識します。
関連抗体 | カタログ番号 |
Rabbit polyclonal COX4I1 antibody | 11242-1-AP |
Rabbit polyclonal COX4I2 antibody | 11463-1-AP |
GAPDH
タイプ:全細胞/細胞質
分子量:36kDa
GAPDH(Glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ)は、解糖系の第6段階を触媒します。また、転写、RNAの結合および輸送、DNAの複製および修復、アポトーシス等の核で起きる現象にも関与します。多くの組織や細胞において、GAPDHは安定して高レベルに発現しており、GAPDH遺伝子とGAPDHタンパク質は、ハウスキーピング遺伝子およびタンパク質の1つとして認識されています。そのため、GAPDHはウェスタンブロットのローディングコントロールや、RT-PCRの内在性コントロールとして一般的に使用されています。しかし、GADPHの発現量は組織間で異なるため、コントロールとしてGADPHを選択する前に、実験に適しているか検討する必要があります。また、低酸素症や糖尿病のような生理学的要因によって、特定の種類の細胞や組織のGAPDHの発現が増加することに留意してください。
プロテインテックは、GAPDHのモノクローナル抗体(カタログ番号:60004-1-lg)とポリクローナル抗体(カタログ番号:10494-1-AP)の両方を取り扱っています。いずれもヒト由来の全長タンパク質(335アミノ酸残基)を抗原に用いて作製されています。
GAPDH 抗体 | カタログ番号 |
Rabbit polyclonal GAPDH antibody | 10494-1-AP |
Mouse monoclonal GAPDH antibody | 60004-1-Ig |
HRP-conjugated GAPDH antibody | HRP-60004 |
Lamin B1(ラミンB1)
タイプ:核
分子量:66kDa
ラミンは、核膜の核質側で密度の高い繊維層状構造を取る核ラミナの主要な構成成分です。ラミンは、クロマチンとの相互作用や遺伝子発現の他、核の構造維持や核内物質の移動の調節等の重要な役割を担っています。脊椎動物のラミンはA型とB型の2種類からなります。LMNB1遺伝子は、2種類あるB型ラミンの1つであるラミンB1をコードしており、核画分タンパク質を扱う際のローディングコントロールとして使用することができます。しかし、このタンパク質は核膜が除去されたサンプルには適しません。また、ラミンマトリックスは、可逆的に分解を受ける有糸分裂時にリン酸化されることに留意する必要があります。プロテインテックのLMNB1抗体(カタログ番号:12987-1-AP)はラミンタンパク質を抗原として作製しており(236~586番目のアミノ酸残基)、ウェスタンブロット、IHC、ELISA、免疫蛍光染色(IF)で検証されています。
Lamin 抗体 | カタログ番号 |
Rabbit polyclonal LMNB1 antibody | 12987-1-AP |
Rabbit polyclonal LMNA/C antibody | 10298-1-AP |
PCNA
タイプ:核
分子量:36kDa
PCNA(Proliferating Cell Nuclear Antigen、増殖細胞核抗原)は、DNAポリメラーゼδの機能を補助するプロセシビティ因子(processivity factor、Wikipedia)で、リーディング鎖の伸長時、ポリメラーゼのヌクレオチド処理能力を増強することにより真核生物のDNA複製を調節します。PCNAタンパク質は進化の過程で高度に保存されており、ラットとヒトのアミノ酸配列の相違は261アミノ酸残基中4アミノ酸残基しかありません。したがって、全長タンパク質を使用して作製したPCNA抗体は、複数の動物種のPCNAを認識します。
PCNAレベルは、哺乳類細胞では細胞周期の影響を受けません。しかし、PCNAは増殖細胞でより豊富に存在しているため、多くの場合で増殖中の細胞集団におけるローディングコントロールとして使用されます。PCNAはDNA損傷経路が活性化されると急速に分解を受けるため、DNA損傷を誘導する実験では使用を避けてください。
プロテインテックのPCNAポリクローナル抗体(カタログ番号:10205-2-AP)は、ヒトPCNAの内部領域(8~256番目のアミノ酸残基)を免疫原として作製したウサギポリクローナル抗体です。
抗PCNA抗体(カタログ番号:10205‐2‐AP、希釈倍率1:50)とFITC標識ロバ抗ウサギIgG抗体(緑)を使用した、HepG2細胞の免疫蛍光染色の解析像。
PCNA 抗体 | カタログ番号 |
Rabbit polyclonal PCNA antibody | 10205-2-AP |
Mouse monoclonal PCNA antibody | 60097-1-Ig |
Tubulin(チューブリン)
タイプ:全細胞/細胞質
分子量:50~55kDa
チューブリンは、細胞内の主要な輸送ネットワークである微小管の重要な構成成分です。微小管は、有糸分裂、細胞内の物質輸送から細胞形状の維持に至るまで、様々な細胞の働きに関与しています。安定して高レベルに発現し、配列が種間で保存されているため、チューブリンはウェスタンブロットにおける全細胞/細胞質画分のローディングコントロールとして最適です。しかし、抗菌薬や有糸分裂阻害薬に対する薬剤耐性によって、チューブリンの発現量が変化する場合があります。
プロテインテックは、α‐チューブリン抗体(カタログ番号:11224-1-AP)、β‐チューブリン抗体(カタログ番号:10068-1-AP、カタログ番号:10094-1-AP)等の複数のチューブリンサブユニットに対するポリクローナル抗体を取り扱っています。
Tubulin 抗体 | カタログ番号 |
Rabbit polyclonal alpha tubulin antibody | 11224-1-AP |
Rabbit polyclonal beta tubulin antibody(免疫原:44~259番目のアミノ酸残基) | 10068-1-AP |
Rabbit polyclonal beta tubulin antibody(免疫原:57~294番目のアミノ酸残基) | 10094-1-AP |
HRP-conjugated Alpha Tubulin antibody | HRP-66031 |