特集:AMPK
細胞のエネルギーセンサー
AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK:AMP-activated protein kinase)は、真核生物の細胞代謝や物質代謝における中心的調節因子の1つです。AMPKは、高度に保存された代謝のマスターレギュレーター(主要制御因子)であり、代謝ストレスに応答して、細胞レベルまたは生理学的レベルでエネルギーバランスを回復させ、恒常性の維持に働きます。AMPKは、細胞内のAMP/ATPまたはADP/ATPの比率を監視するエネルギーセンサーとして機能しています。AMPKは、AMPの増加(AMP/ATP比の上昇)によってスイッチがオンとなり、キナーゼ(リン酸化酵素)活性を生じます。AMPの増加によって引き起こされるAMPKの活性化は、次の3種類の機構を介して生じます。それらは、(a)上流の活性化キナーゼによるAMPKのThr172残基のリン酸化促進、(b)ホスファターゼ(脱リン酸化酵素)によるAMPKのThr172残基の脱リン酸化からの保護、(c)AMPKのアロステリック活性化を含みます。いずれの機構もATPの増加(AMP/ATP比の低下)によって拮抗的に阻害されます。AMPKは、肝臓、心臓、間脳視床下部等の主要な臓器や器官、脂肪細胞等に分布します。さらに、視床下部におけるAMPK活性化は、低エネルギー状態で食欲を刺激することが報告されています(2)。
近年、AMPKは、オートファジーや細胞極性(cell polarity)等の細胞プロセスに関連することが報告されています(3)。また、AMPKはヒトや複数の動物種において、mTORやサーチュイン(sirtuin)との相互作用を介して、老化の重要な調節因子として機能することが示唆されています。AMPKは、低グルコース、低酸素、虚血、熱ショック等、細胞へのATP供給の枯渇ストレスに応答して活性化されます。AMPKは、触媒サブユニットであるαサブユニット、および調節サブユニットであるβサブユニットとγサブユニットからなるヘテロ三量体として存在します。哺乳動物では、αサブユニットをコードする2種類の遺伝子(α1、α2)、βサブユニットをコードする2種類の遺伝子(β1、β2)、γサブユニットをコードする3種類の遺伝子(γ1、γ2、γ3)が存在します(4)。
AMPKは、脂質代謝とグルコース代謝の両代謝経路において中心的な調節因子としての役割を担うため、II型糖尿病、肥満、がん等の治療ターゲットの候補として研究が進められています(5、6)。
様々なライセートのウェスタンブロット(WB:Western blot)解析。異なるライセートをSDS-PAGE後、AMPK Alpha抗体(カタログ番号:10929-2-AP、希釈倍率1:4000)を使用して、室温で1.5時間インキュベーションした。 | AMPK beta 1抗体(カタログ番号:10308-1-AP、希釈倍率1:200)を使用した、パラフィン包埋ヒト肺がん組織スライドの免疫組織化学(IHC:Immunohistochemistry)染色(40倍レンズを使用)。Tris-EDTA buffer(pH9.0)で熱処理し抗原賦活化した試料を使用。 |
AMPKパスウェイポスター(PDF)
関連抗体
抗体 | 抗体タイプ | カタログ番号 | アプリケーション | KD/KO検証・使用文献 |
AKT1 | ウサギポリクローナル | 10176-2-AP | ELISA, CoIP, FC, IF, IHC, IP, WB | KD/KO検証済み 939文献 |
Insulin | マウスモノクローナル | 66198-1-Ig | ELISA, Cell treatment, IF, IHC | 24文献 |
AMPK Alpha 1 | ウサギポリクローナル | 10929-2-AP | ELISA, IF, IHC, IP, WB | KD/KO検証済み 160文献 |
LKB1 | ウサギポリクローナル | 10746-1-AP | ELISA, CoIP, IF, WB, IP, IHC | KD/KO検証済み 33文献 |
AMPK Beta 1 | ウサギポリクローナル | 10308-1-AP | ELISA, WB, IP, IHC, IF | KD/KO検証済み 7文献 |
mTOR | ウサギポリクローナル | 20657-1-AP | ELISA, IF, IHC, WB | KD/KO検証済み 185文献 |
CD36 | ウサギポリクローナル | 18836-1-AP | ELISA, FC, IHC, WB | KD/KO検証済み 135文献 |
参考文献
- G J Gowans, D G Hardie. AMPK: a cellular energy sensor primarily regulated by AMP. Biochem Soc Trans. 2014 Feb;42(1):71-5.
- N Miranda, N Torres, et al. [AMPK as a cellular energy sensor and its function in the organism]. Rev Invest Clin. 2007 Nov-Dec;59(6):458-69.
- M M Mihaylova, R J Shaw. The AMPK signalling pathway coordinates cell growth, autophagy and metabolism. Nat Cell Biol. 2011 Sep 2;13(9):1016-23.
- J Kim, J Ha, et al. AMPK activators: mechanisms of action and physiological activities. Exp Mol Med. 2016 Apr 1;48(4):e224.
- B B Zhang, et al. AMPK: an emerging drug target for diabetes and the metabolic syndrome. Cell Metab. 2009 May;9(5):407-16.
- W Li, et al. Targeting AMPK for cancer prevention and treatment. Oncotarget. 2015 Apr 10;6(10):7365-78.