特集 : 細胞極性マーカー

細胞極性:1個の細胞内における複合体および細胞骨格構造

細胞極性とは何か?

細胞極性(Cell polarity)とは、細胞がもつ空間的な極性です。つまり、一つの細胞内において、タンパク質や脂質含有量の異なる細胞膜、複合体、細胞骨格等、特徴的な細胞内成分の分布のことを指します。

空間的に非対称な細胞内成分の分布によって、細胞は、輸送、細胞内シグナル伝達、メカノセンシング等、様々な機能を実行することが可能になります。最も一般的な細胞極性の例は、上皮細胞極性です。

上皮細胞極性(Epithelial cell polarity)

上皮細胞は、特殊な細胞結合(細胞ジャンクション/cell junction)を介して連結された連続的な細胞層を形成します。

- アドヘレンスジャンクション(接着接合/adherens junctions)(ネクチン–PVRLタンパク質、E-カドヘリン、αカテニン(図1)およびβカテニン)

- タイトジャンクション(密着接合/tight junction)(閉鎖帯(zonula occludens)タンパク質、例:ZO-1(図2)、オクルディン)

- デスモソーム(desmosome)

αEカテニン抗体の免疫組織化学染色検証 ZO-1抗体の免疫蛍光染色検証
図1. 希釈倍率1:50でαEカテニン抗体(品番:12831-1-AP)を使用したパラフィン包埋ヒト胃組織スライドの免疫組織化学(40倍レンズ)。 図2. 希釈倍率1:100でZO-1抗体(品番:21773-1-AP)およびAlexa Fluor 488コンジュゲートAffiniPureヤギ抗ウサギIgG(H+L)を使用したHUVEC細胞(-20°Cエタノール固定)の免疫蛍光染色。

これによって、頂端膜(apical membrane)と基底外側膜(basolateral membrane、側底膜)という2つの特徴的なコンパートメント(区画)の形成が可能になります(図3)。通常、頂端膜は、外部環境に面し、一方、基底外側膜は、インテグリンとその受容体を介して基底膜の細胞外マトリックス(ECM)に連結されています。

細胞極性マーカーの発現部位と細胞構造

図3.上皮細胞極性(Epithelial cell polarity) - 頂端膜および基底外側膜、タイトジャンクションおよびアドヘレンスジャンクション、ならびに細胞極性調節に関与する主要細胞構造。

頂端膜の形成は、膜貫通タンパク質ファミリーの一つであるCrumbsファミリー(例:CRB3(図4))と、関連する細胞質多タンパク質PAR複合体(例:PARD3)によって制御されます。基底外側膜は、SCRIB複合体の活性によって維持されます。細胞骨格、特にアクチンフィラメントと微小管は、極性を維持する役割を果たします。

CRB3抗体の免疫組織化学染色検証

図4. 希釈倍率1:200のでCRB3抗体(品番:12315-1-AP)を使用したパラフィン包埋ヒト膵臓組織スライドの免疫組織化学染色(10倍レンズ)。

神経細胞極性(Neuronal cell polarity)

神経発生の過程で、丸みを帯びた神経細胞に、いくつかの短い葉状仮足(ラメリポディア/lamellipodia)が生じます。これらのうち一つが、急速な成長段階を経て軸索になり、残りは樹状突起になります。アクチンフィラメント、微小管、およびそれらの結合タンパク質は、成長、安定性、および細胞骨格に沿った輸送を調節します。これらは、神経細胞極性の確立と維持に重要な役割を果たします(図5)。したがって、細胞骨格関連タンパク質は、様々な細胞のニューロン部分のマーカーとして広く使用されています。微小管結合タンパク質Tauとニューロフィラメントタンパク質(特にNF-L:図6)は、よく使用される軸索マーカーです。

神経細胞の極性マーカー発現部位

図5. 神経極性の発生:神経極性マーカー

NF-L抗体を使用したマウス脳組織の免疫組織化学染色検証

図6. 1:500の希釈倍率でNF-L抗体(品番:60189-1-Ig)を使用したパラフィン包埋マウス脳組織スライドの免疫組織化学染色(40倍レンズ)。Tris-EDTAバッファー(pH9)で加熱抗原賦活化を行った。

MAP2は、微小管の間隔と安定性を調節するチューブリン結合タンパク質で、樹状突起と細胞体のマーカーです(図7)。組織特異的スプライシング調節因子であるNeuN(図8)は、有糸分裂後ニューロン(post-mitotic neurons)の核の視覚化に使用されますが、体細胞にも存在する場合があります。TUBB3(TuJ1)は、βチューブリンの一種で、細胞体および樹状突起、ならびに軸索に存在するため、一般的なニューロンマーカーとして頻繁に使用されています。

MAP2抗体を使用したマウス脳組織の免疫組織化学染色検証 NeuN抗体の免疫蛍光染色検証
図7. 希釈倍率1:2000でMAP2抗体(品番:17490-1-AP)を使用したパラフィン包埋マウス脳組織スライドの免疫組織化学染色(10倍レンズ)。Tris-EDTA buffer(pH9.0)で加熱抗原賦活化を行った。 図8. 希釈倍率1:50でNeuN抗体(品番:26975-1-AP)およびAlexa Fluor 488コンジュゲートAffiniPureヤギ抗ウサギIgG(H+L)を使用した(4% PFA)固定マウス脳組織の免疫蛍光染色。

細胞極性関連抗体

Product ID

抗原

細胞極性における機能

上皮細胞極性(Epithelial cell polarity)

21773-1-AP

ZO-1

タイトジャンクション形成(Tight junction formation)

12315-1-AP

CRB3

頂端膜貫通タンパク質(Apical transmembrane protein)

11085-1-AP

PARD3

頂端膜形成( Apical membrane formation)

12831-1-AP

Alpha E catenin

アドヘレンスジャンクションとアクチン細胞骨格との連結(Linking adherens junctions with actin cytoskeleton)

51067-2-AP

Beta catenin

アドヘレンスジャンクションとアクチン細胞骨格との連結(Linking adherens junctions with actin cytoskeleton)

13409-1-AP

Occludin

タイトジャンクションタンパク質(Tight junction protein)

60008-1-Ig

Beta actin

極性の構成化( Organization of polarity)

27096-1-AP

Integrin alpha V

基底外側膜の完全性 (Basal membrane integrity)

18309-1-AP

Integrin beta 3

基底外側膜の完全性 (Basal membrane integrity)

66315-1-Ig

Integrin beta 1

基底外側膜の完全性 (Basal membrane integrity)

27189-1-AP

Integrin alpha 6

基底外側膜の完全性 (Basal membrane integrity)

10569-1-AP

Integrin alpha 5

基底外側膜の完全性 (Basal membrane integrity)

21738-1-AP

Integrin beta 4

基底外側膜の完全性 (Basal membrane integrity)

22146-1-AP

Integrin alpha 1

基底外側膜の完全性 (Basal membrane integrity)

24713-1-AP

PVRL1

アドヘレンスジャンクション(Adherens junctions)

27171-1-AP

Nectin 2

アドヘレンスジャンクション(Adherens junctions)

11213-1-AP

PVRL3

アドヘレンスジャンクション(Adherens junctions)

20874-1-AP

E-cadherin

アドヘレンスジャンクション(Adherens junctions)

27083-1-AP

SCRIB

底外側膜形成(Basolateral membrane formation)

神経細胞極性(Neuronal cell polarity)

66499-1-Ig

TAU

軸索に豊富(主に遠位部)に存在。微小管の会合と安定性の促進。

17490-1-AP

MAP2

樹状突起と細胞体に存在。微小管の間隔と安定性の調節

26975-1-AP

NeuN

主に核に存在。スプライシング調節因子。

60189-1-Ig

NF-L

軸索に豊富に存在。中間径フィラメントの主要クラス。

66375-1-Ig

TUBB3

細胞体、樹状突起、および軸索を染色。ニューロンと精巣で発現するチューブリンアイソフォームの一つ。