特集:白血病マーカー
白血病とは、白血球(Leukocyte、WBC:white blood cell)に影響を及ぼすがんの総称です。
白血病(Leukemia)は、一般的に骨髄中細胞の異常に由来する疾病です。骨髄中にある細胞に腫瘍性の形質転換が生じると、細胞増殖やマーカー発現に異常をきたします。白血病には様々な種類があり、異常をきたした白血球の種類によって、総じて「骨髄性白血病(ML:Myeloid Leukemia)」または「リンパ性白血病(LL:Lymphoid Leukemia、Lymphocytic Leukemia)」に大別されます。さらに異常細胞(白血病細胞)の増殖速度に応じて、「慢性白血病(CML:Chronic Myeloid Leukemia/CLL:Chronic Lymphocytic Leukemia)」と「急性白血病(AML:Acute Myeloid Leukemia/ALL:Acute Lymphoblastic Leukemia)」のサブタイプに分類されます。
骨髄性白血病
自然免疫系の細胞に影響を及ぼす白血病を研究する場合は、骨髄系細胞を標識する様々なマーカーが使用されます。例えば、CD11bは、ナチュラルキラー細胞では低レベルで発現し、単球、好中球、好酸球では高レベルで発現します。CD13は、一般的によく用いられる骨髄系細胞マーカーであり、骨髄前駆細胞、単球、顆粒球で持続的かつ特異的に発現しています。特に急性骨髄性白血病では、CD33が罹患骨髄細胞に広く発現しており、治療の一般的なターゲットになっています1。
図1. CD13抗体(カタログ番号:66211-1-Ig、希釈倍率1:10000)を使用したパラフィン包埋ヒト扁桃炎組織スライドの免疫組織化学(IHC:Immunohistochemistry)染色(10倍レンズを使用)。Tris-EDTA buffer(pH9.0)で熱処理し抗原賦活化した試料を使用。 |
図2. CD33抗体(カタログ番号:67135-1-Ig、希釈倍率1:1000)を使用したパラフィン包埋ヒト脾臓組織スライドの免疫組織化学染色(10倍レンズを使用)。Tris-EDTA buffer(pH9.0)で熱処理し抗原賦活化した試料を使用。 |
リンパ性白血病
適応(獲得)免疫系の細胞に影響を及ぼす白血病を研究する場合は、B細胞やT細胞等のリンパ系細胞を標識します。CD19は、B細胞系で特異的に発現し、分化後、さらには腫瘍性形質転換が生じた後も終始維持されることから、白血病の診断に有用なマーカーです2。CD4やCD8の発現は、CD4+細胞とCD8+細胞の2種類のT細胞集団を特異的に区別し、白血病T細胞でもその発現は持続します。2種類のT細胞集団の相対数は、急性リンパ性白血病や慢性リンパ性白血病の診断に役立つ可能性があるとともに、疾患の予後と関連する可能性が示されています3。
図3. CD19抗体(カタログ番号:66298-1-Ig、希釈倍率1:1000)を使用したパラフィン包埋ヒト扁桃炎組織スライドの免疫組織化学染色(40倍レンズを使用)。Tris-EDTA buffer(pH9.0)で熱処理し抗原賦活化した試料を使用。 |
図4. CD8抗体(カタログ番号:66868-1-Ig、希釈倍率1:20000)を使用したパラフィン包埋ヒト扁桃炎組織スライドの免疫組織化学染色(10倍レンズを使用)。Tris-EDTA buffer(pH9.0)で熱処理し抗原賦活化した試料を使用。 |
白血病幹細胞(LSC:Leukemic stem cell)
白血病細胞の亜集団には、静止状態にあり、自己複製能、化学療法抵抗性を示す幹細胞の特性を有する重要性の高い稀な細胞群があります。幹細胞様の白血病細胞は、特に疾病の再発と治療抵抗性に関連することから、重要な研究対象となっています。造血幹細胞(HSC:Hematopoietic stem cell)の同定にはCD34がよく使用されます4。CD34の発現は間葉系幹細胞(MSC:Mesenchymal stem cell)等の他の種類の前駆細胞にも認められます。CD34と共に、白血病幹細胞(LSC)の同定には複数のマーカーが報告されています5。例えば、CD117(がん原遺伝子c-Kit、あるいは幹細胞増殖因子受容体(SCFR)とも呼ばれます)の異常発現を観察する手法があります。CD117は、造血幹細胞(HSC)や骨髄系前駆細胞、リンパ系前駆細胞のマーカーですが、分化過程で失われます。また、CD44のようなマーカーは、発生から終始発現が維持され、幹細胞と分化細胞の両方を標識します。CD44細胞表面分子は、遊走、増殖、分化等のプロセスや、受容体に対する様々な因子の掲示に極めて重要な役割を果たします。
図5. c-Kit/CD117抗体(カタログ番号:18696-1-AP、希釈倍率:1:200)を使用したパラフィン包埋間質腫瘍組織スライドの免疫組織化学染色(40倍レンズを使用)。 |
図6. CD44抗体(カタログ番号:15675-1-AP、希釈倍率:1:200)、Alexa Fluor 488標識AffiniPureヤギ抗ウサギIgG(H+L)を使用したHeLa細胞(-20℃エタノール固定)の免疫蛍光染色(IF:Immunofluorescent)。 |
白血病を特定するためにどのようなマーカーを使用するか選択する際は、疾病サブタイプ特異的マーカーを慎重に検討すると同時に、複数のマーカーの併用を推奨します。
白血病関連マーカー
マーカー |
概要 |
抗体 |
骨髄性白血病 |
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CD11b |
インテグリンファミリーのメンバー |
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CD33 |
膜貫通受容体、細胞接着・エンドサイトーシスに関与 |
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CD13 |
細胞外ペプチダーゼ |
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リンパ性白血病 |
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CD4 |
TCRの共受容体、MHCクラスII分子と相互作用する糖タンパク質 |
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CD8 |
TCRの共受容体、MHCクラスI分子と相互作用する糖タンパク質 |
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CD19 |
BCRの共受容体、B細胞活性化を制御 |
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白血病幹細胞 |
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CD117 |
マスト細胞の生存、増殖、活性化、走化性に重要な役割を果たす受容体型チロシンキナーゼ |
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CD34 |
細胞接着に関与するリン酸化糖タンパク質 |
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CD44 |
遊走と接着に関与する細胞表面糖タンパク質 |
参考文献
- G S Laszlo, E H Estey, R B Walter. The past and future of CD33 as therapeutic target in acute myeloid leukemia. Blood Rev. 2014 Jul;28(4):143-53.
- R H Scheuermann, E Racila. CD19 antigen in leukemia and lymphoma diagnosis and immunotherapy. Leuk Lymphoma. 1995 Aug;18(5-6):385-97.
- A P Gonzalez-Rodriguez, et al. Prognostic significance of CD8 and CD4 T cells in chronic lymphocytic leukemia. Leuk Lymphoma. 2010 Oct;51(10):1829-36.
- D Hanekamp, J Cloos, G J Schuurhuis. Leukemic stem cells: identification and clinical application. Int J Hematol. 2017 May;105(5):549-557.
- M Arnone, et al. Acute Myeloid Leukemia Stem Cells: The Challenges of Phenotypic Heterogeneity. Cancers (Basel). 2020 Dec 12;12(12):3742.