エピジェネティクスとフローサイトメトリーを組み合わせる

エピジェネティクスとフローサイトメトリーを組み合わせる

「DNA→RNA→タンパク質」のセントラルドグマは20世紀半ばに取り入れられて以来、次第に古い概念になりつつあります。遺伝子発現、RNAプロセシング、翻訳の制御機構は、タンパク質の生合成と制御に関する複雑な全体像を明らかにしつつあります。その中で、エピジェネティクスは、遺伝子制御の主要な機構の1つであり、DNA塩基の変化を伴わない遺伝因子を研究する学問です。有名なエピジェネティクスの機構には、転写機構の働きを変化させるDNAメチル化やヒストン修飾等があります。この分野は、がん、神経科学、発生等への幅広い応用が期待されています。

エピジェネティクスで得られる情報を免疫学に応用することは困難であることが知られています。ChIPやウェスタンブロット等の標準的アプリケーションは、集合体、すなわち集団レベルでの情報を提供します。一方、免疫学は、造血系の細胞種の複雑なマッピング研究によって実施される学問です。フローサイトメトリーは、単一細胞を解析できるため、造血系の解明において非常に有用な手法であることが証明されていますが、細胞マーカーと併せてエピジェネティクス修飾を研究する場合は慎重な検討と実験計画が必要です。

エピジェネティクス修飾とフローサイトメトリーに関する実験の検討事項

最初の懸念点は、従来の細胞表面マーカーと比較してエピジェネティクス修飾の存在量が少ないことを克服するためのシグナル強度です。フィコエリスリン(PE:phycoerythrin)は、蛍光誘起技術とそのシグナル強度により一般的な選択肢となります。マスサイトメトリーのアプリケーションにはthulium-169が推奨されます。もう1つの問題は、核までエピジェネティクス関連抗体を到達させるための透過剤と細胞表面マーカー抗体との適合性です。例えば、メタノールはエピトープを損傷する可能性があり、実験前にすべての抗体を再確認する必要があります。また、細胞ダブレットの検出を防止するためのバーコード化を推奨します。そして最後に、正確に定量するためには、汎ヒストン抗体を使用して総ヒストン量を測定する内部コントロールが必要です。

エピジェネティクス試薬の検証

エピジェネティクスフローサイトメトリーの課題は、エピジェネティクス修飾に特異的であり、かつフローサイトメトリーにも適した抗体を見つけることです。こうした抗体をテストする最も良い方法は、薬理学的または遺伝学的手法で陽性コントロール/陰性コントロールを設定する方法です。エピジェネティクス修飾は、DNA損傷等の特定の刺激によって引き起こされることがあり、この現象を利用して追加的な検証方法が可能な場合があります。

免疫学研究への応用

エピジェネティクスフローサイトメトリーにより、既に興味深い知見が得られています。Cell誌に掲載されたCheungらの論文(PMID:29706550)では、この方法を加齢の研究に使用しています。この研究が発表されるまでは、加齢が造血系、特に各免疫細胞のエピジェネティクスのプロファイルにどのような影響を与えるか知られていませんでした。

マスサイトメトリーを使用して20種類を超える免疫細胞のヒストンバリアントとヒストン修飾を解析したところ、若年者では各細胞間および個人間の両面で類似したエピジェネティクスプロファイルを有することが明らかになりました。しかし、老化の過程で各細胞間および個人間の不均質性は増大します。ヒト双生児でも同様の結果が得られたことから、変動性は環境的影響に起因することが示唆されています。さらに、免疫細胞の種類は、エピジェネティクスプロファイル単独で予測することができました。全体的にみて、彼らの研究はフローサイトメトリーとエピジェネティクスを組み合わせることの有用性を示しています。

どうすれば、フローサイトメトリーを使用してエピジェネティクスに関する大きな発見ができるでしょうか?プロテインテックの主なエピジェネティクスに関連する抗体をご覧ください。

カタログ番号 クローン 抗原名 KD/KO アプリケーション 交差種 文献数
10745-1-AP ポリクローナル NF-κB p65 KD/KO validated WB, IP, IHC, IF, FC, CoIP, ChIP, Cell treatment, ELISA Human, Goat, CHICKEN, Rat, Mouse, Monkey, Rabbit, Fish, Hamster, Pig 451
10442-1-AP ポリクローナル P53 KD/KO validated WB, RIP, IP, IHC, IF, CoIP, ChIP, ELISA Human, Goat, Chicken, Rat, Sheep, Zebrafish, Pig, Artemia Sinica 383
51067-2-AP ポリクローナル Beta Catenin KD/KO validated WB, IP, IHC, IF, FC, CoIP, ChIP, ELISA  Human, Goat, Chicken, Rat, Sheep, Mouse, Zebrafish, Hamster, Pig, Canine 263
10828-1-AP ポリクローナル c-MYC KD/KO validated WB, IP, IF, FC, EMSA, CoIP, ChIP, ELISA Human, Chicken, Rat, Sheep, Mouse, P. Lilacinum, Pig 207
10638-1-AP ポリクローナル REDD1 specific KD/KO validated WB, IP, IHC, IF, FC, CoIP, ChIP, ELISA Human, Rat, Mouse, Rabbit, Pig, Squirrel, Gerbil 185
20960-1-AP ポリクローナル HIF1a KD/KO validated WB, IP, IHC, IF, FC, CoIP, ChIP, Cell treatment, ELISA Human, Goat, Chicken, Pig 169
15204-1-AP ポリクローナル CHOP; GADD153 KD/KO validated WB, IP, IHC, IF, FC, CoIP, ChIP, ELISA Human, Chicken, Rat, Mouse, Zebrafish, Hamster, Pig, Bovine 160
10835-1-AP ポリクローナル ATF4 KD/KO validated WB, IP, IHC, IF, FC, CoIP, ChIP, ELISA Human, Rat, Zebrafish, Hamster, Pig 145
12892-1-AP ポリクローナル TDP-43 (C-terminal) KD/KO validated WB, IP, IHC, IF, CoIP, ChIP, ELISA  Human, Chicken, Rat, Mouse, Monkey, Zebrafish, Drosophila 10

 


参考文献:

  1. Cheung P, Vallania F, Dvorak M, Chang SE, Schaffert S, Donato M, Rao AM, Mao R, Utz PJ, Khatri P, Kuo AJ. Single-cell epigenetics - Chromatin modification atlas unveiled by mass cytometry. Clin Immunol. 2018 Nov;196:40-48. doi: 10.1016/j.clim.2018.06.009. Epub 2018 Jun 28. PMID: 29960011; PMCID: PMC6422338.
  2. Cheung P, Vallania F, Warsinske HC, Donato M, Schaffert S, Chang SE, Dvorak M, Dekker CL, Davis MM, Utz PJ, Khatri P, Kuo AJ. Single-Cell Chromatin Modification Profiling Reveals Increased Epigenetic Variations with Aging. Cell. 2018 May 31;173(6):1385-1397.e14. doi: 10.1016/j.cell.2018.03.079. Epub 2018 Apr 26. PMID: 29706550; PMCID: PMC5984186.