クロピドグレルによる抗血小板薬二剤併用療法とアテローム血栓症の新規治療法
Shaden Salimi著(McGill大学、大学院生)
アテローム血栓症とは?
アテローム血栓症(Atherothrombosis)は、脂質やカルシウムの動脈壁への蓄積(プラーク形成)が遠因となり発生する血栓形成を特徴とする疾患です(Viles-Gonzalez et al., 2004)。アテローム血栓症による重篤な合併症は、心筋梗塞、脳卒中、末梢動脈疾患(PAD:Peripheral artery disease)、その他心血管系疾患を発症する原因となり、死亡に至る場合があります(Dziedzic et al., 2017)。2000年代初頭まで、アテローム血栓症を予防するための治療方針には不十分な点が多く存在しました。
例えば、アスピリンは様々な心血管系疾患の二次予防効果が広く認められている医薬品です。ただし、アスピリンはアテローム血栓症患者の治療に十分な効果を発揮できるとはいえません。アスピリン単剤を服用するアテローム血栓症患者における血管系疾患再発の絶対リスクは約8~18%と比較的高いことが判明しています(Mason et al., 2005)。アスピリンが効果を示しにくいのはアスピリンに対する反応性や代謝に個人差があるためで、アスピリンを服用するだけでは血小板凝集の抑制に不十分であることが関係していると考えられます(Mason et al., 2005)。アスピリン単剤の服用だけでアテローム血栓症の十分な治療効果は得られないものの、別の研究でクロピドグレルを併用すると治療効果が期待できることが判明しています(S Yusuf et al., 2001)。
アテローム血栓症治療薬としてのクロピドグレル
クロピドグレルが属するチエノピリジン系抗血小板薬の研究は1987年にさかのぼり、チエノピリジン系抗血小板薬がラットの血小板表面に存在するADP受容体を阻害することで血小板凝集が抑制されることが示されました(Féliste et al., 1987)。クロピドグレルはアスピリンと同様に抗血小板薬の一種で、基本的には血栓形成を防ぐための医薬品です。しかし、この2種類の医薬品は、血栓形成を防ぐ作用機序が異なります。
アスピリンはプロスタグランジン合成酵素であるシクロオキシゲナーゼ(COX:Cyclooxygenase)を阻害します(Gosavi et al., 2023)。プロスタグランジン類は、心臓をはじめとする体内の炎症に関与し、増加すると炎症反応を促進します。一方、クロピドグレルは、血小板表面に存在する血小板の活性化に必要な受容体P2Y12に作用し、その働きを阻害します(Al-Najjar et al., 2022)。
|
図1:アスピリンとクロピドグレルの薬理作用ターゲット(Cattaneo, 2004) |
クロピドグレルとアスピリンの併用療法
アスピリンとクロピドグレルはそれぞれ異なる機序で血小板凝集を抑制します。また、アテローム血栓症に関連する心血管系疾患を発症しやすい患者を対象とした先行研究は十分に実施されていなかったため、両医薬品の併用療法の効果を検証する試験が実施されました。2006年、Bhattらは、アテローム血栓症の予防を目的としたクロピドグレルと低用量アスピリンの併用療法の安全性と有効性を、アスピリン単剤療法と比較して検討した先駆的研究を報告しました(Bhatt et al,. 2006)。
この試験では、抗血小板薬の二剤併用療法がアテローム血栓症のリスクが高い患者の発症を予防することはできるのか、また、本医薬品による投与レジメンが特定の疾患やリスクを有する患者に有効性を示すかどうかが調査されました。特に解析対象としたのは、心血管系疾患の既往歴がある症候性患者(Symptomatic)と、心血管系疾患の既往歴はないもののアテローム血栓症のリスク因子を有する無症候性患者(Asymptomatic)でした(図2)。
クロピドグレルのメリットとデメリット
メリット:全体集団では、心筋梗塞・脳卒中・心血管系疾患による死亡の初回発現の減少に統計学的な有意差は認められなかったものの、二剤併用療法はプラセボ+アスピリン群と比較して、症候性の患者に有益であることが解析によって示されました。
デメリット:中等度出血の発生率は、プラセボ+アスピリンを服用した群よりも、アスピリン+クロピドグレルを服用した群の方が高く、両医薬品の併用に伴う安全性上の懸念が示唆されました。
|
図2:患者の分類と転帰の概略 |
総合的にみると、この試験ではアテローム血栓症予防を目的とした2種類の抗血小板治療薬の併用療法の安全性および有効性をアスピリン単剤を服用した場合と比較し、全体集団の解析とサブグループ解析の両面から検討した貴重な知見が得られました。特に重要なのは、薬剤の安全性・有効性・効力・毒性等の長期服用による身体への影響を評価するための重要な要因が明らかになったという点です。
臨床試験の実施には、試験対象の医薬品や新薬候補の安全性を確保し、様々な症状を引き起こすことがなく、医薬品を使用することによる利益が副作用のような不利益を上回ることを確認するという考え方が根底にあります。また、各被験薬の薬物動態パラメーターや患者に対する効果を他の介入と比較し、対象の被験薬が患者にとって最適な特性を有することを確認する必要があります。
アテローム血栓症治療の進歩:クロピドグレル二剤併用療法と新たな治療展開
アテローム血栓症の治療薬開発にあたり、過去に標的となった経路の大半はアスピリンと関連していましたが、クロピドグレルの二剤併用療法に関する研究によって、科学的に関心の低い研究領域であった他の生体経路も注目されるようになりました。また、血小板活性化の原因となる標的分子や別の経路の探索への関心が高まり、より有効性が高く毒性プロファイルの低い新規医薬品を開発しようとする研究も活発になりました(Khandkar et al., 2021)。こうした新たな医薬品開発の一例が、チカグレロルです。チカグレロルはクロピドグレルと類似の作用機序でP2Y12受容体を阻害し、血小板凝集を抑制します。チカグレロルを服用した場合、クロピドグレルと比較して、ある種の心臓疾患における心血管イベントや死亡の発生数は少ないという結果が示されています(Wallentin et al., 2009)。
その他の治療法も研究が進められており、医療提供者は心臓疾患等の問題を抱える患者に対して最適な予防手段だけでなく、治療法の選択の機会も提供できることが期待されます。このような抗血小板薬の選択肢としては、血小板表面に存在するGPIIb/IIIa受容体に作用して血小板凝集を抑制するGPIIb/IIIa受容体拮抗薬や(Jourdi et al., 2022)、血小板内cAMPの分解を阻害しcAMP濃度を上昇させることでコラーゲン・ADP・エピネフリン・アラキドン酸等による血小板凝集を抑制するホスホジエステラーゼIII阻害薬のシロスタゾールが挙げられます(Biondi-Zoccai, 2010)。さらに、痛風や心膜炎に対する抗炎症薬として用いられてきたコルヒチンは、プラークへの炎症性白血球の集積を抑制することで血管の炎症を軽減できるため、アテローム血栓症の予防を期待できる医薬品であることが新たに示唆されています(Cimmino et al., 2023; Meyer-Lindemann et al., 2022)。
新規治療法が積極的に模索されるようになったことに加え、クロピドグレルとアスピリンを主とする抗血小板薬二剤併用療法は、精密医療や、特定の受容体の状態をアテローム血栓症治療のバイオマーカーとして利用する試みの重要性を浮き彫りにしました。そのため、様々な抗血栓療法に対する反応の個人差への認識が高まり、臨床医による試みは集団解析を前提とする「Population-basedの医療」から「患者中心(Patient-centered)の精密医療」へと転換しつつあります。総括すると、アスピリンに始まり、クロピドグレルとの併用療法、さらには新薬の登場へと進化するアテローム血栓症の研究は、心血管疾患の複合的かつ複雑な特性や個々の患者のニーズに合致する抗血小板薬を提供する必要性について理解を深める一因となっています(Jourdi et al., 2022)。
プロテインテックのアテローム血栓症研究用抗体
|
ターゲット |
カタログ番号 |
|
COX-1 |
|
|
COX-2 |
|
|
P2Y1 |
|
|
P2Y12 |
|
|
CRP |
|
|
TF |
|
|
VWF |
|
|
CD68 |
|
|
LOX1 |
|
|
MMP9 |
|
|
TBXAS1 |
|
|
ICAM-1 |
|
|
APOB |
|
|
4-Hydroxynonenal |
参考文献
1. J F Viles-Gonzalez, V Fuster, J J Badimon. Atherothrombosis: a widespread disease with unpredictable and life-threatening consequences. Eur Heart J. 2004 Jul;25(14):1197-207.
2. E Dziedzic, M Machowski, M Oleszczak-Kostyra, M J. Dąbrowski. Atherothrombosis as a Leading Cause of Acute Coronary Syndromes and Stroke: The Main Killers in Developed Countries. Atherosclerosis - Yesterday, Today and Tomorrow. IntechOpen. 2017 Dec 20.
3. P J Mason, A K Jacobs, J E Freedman. Aspirin resistance and atherothrombotic disease. J Am Coll Cardiol. 2005 Sep 20;46(6):986-93.
4. S Yusuf, F Zhao, S R Mehta, S Chrolavicius, G Tognoni, K K Fox; Clopidogrel in Unstable Angina to Prevent Recurrent Events Trial Investigators. Effects of clopidogrel in addition to aspirin in patients with acute coronary syndromes without ST-segment elevation. N Engl J Med. 2001 Aug 16;345(7):494-502.
5. R Féliste, et al. Broad spectrum anti-platelet activity of ticlopidine and PCR 4099 involves the suppression of the effects of released ADP. Thromb Res. 1987 Nov 15;48(4):403-15.
6. S Gosavi, G Krishnan, R V Acharya. Aspirin vs Clopidogrel: Antiplatelet Agent of Choice for Those With Recent Bleeding or at Risk for Gastrointestinal Bleed. Cureus. 2023 Apr 20;15(4):e37890.
7. B O Al-Najjar, et al. P2Y12 antagonists: Approved drugs, potential naturally isolated and synthesised compounds, and related in-silico studies. Eur J Med Chem. 2022 Jan 5:227:113924.
8. M Cattaneo. Aspirin and clopidogrel: efficacy, safety, and the issue of drug resistance. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2004 Nov;24(11):1980-7.
9. D L Bhatt, et al. Clopidogrel and aspirin versus aspirin alone for the prevention of atherothrombotic events. N Engl J Med. 2006 Apr 20;354(16):1706-17.
10. C Khandkar, M V Madhavan, J C Weaver, S Celermajer, K K Galougahi. Atherothrombosis in Acute Coronary Syndromes-From Mechanistic Insights to Targeted Therapies. Cells. 2021 Apr 10;10(4):865.
11. L Wallentin, et al. Ticagrelor versus clopidogrel in patients with acute coronary syndromes. N Engl J Med. 2009 Sep 10;361(11):1045-57.
12. G Jourdi, A Godier, M Lordkipanidzé, G Marquis-Gravel, P Gaussem. Antiplatelet Therapy for Atherothrombotic Disease in 2022-From Population to Patient-Centered Approaches. Front Cardiovasc Med. 2022 Jan 28:9:805525.
13. G Biondi-Zoccai, et al. Alternatives to clopidogrel for acute coronary syndromes: Prasugrel or ticagrelor? World J Cardiol. 2010 Jun 26;2(6):131-4.
14. G Cimmino, et al. Colchicine in Athero-Thrombosis: Molecular Mechanisms and Clinical Evidence. Int J Mol Sci. 2023 Jan 27;24(3):2483.
15. U Meyer-Lindemann, C Mauersberger, A-C Schmidt, A Moggio, et al. Colchicine Impacts Leukocyte Trafficking in Atherosclerosis and Reduces Vascular Inflammation. Front Immunol. 2022 Jul 4:13:898690.

