アポトーシス性細胞死


はじめに

アポトーシス(apoptosis)とは、細胞の形態変化を経て最終的に細胞死にいたる一連の高度に制御された生化学的事象を特徴とする「プログラム細胞死(programmed cell death)」の一形態です。アポトーシスは、発生、細胞の恒常性維持、老化等の複数の生理学的プロセスにおいて中心的な役割を果たします。さらに、神経変性疾患、自己免疫疾患、がん、ウイルス感染等の様々な疾病の発症に関与することが報告されています。当然のことながら、アポトーシス経路はこれらの疾病を治療するための共通の研究対象となっています。

プロテインテックは、アポトーシス研究に有用な様々な製品を取り揃えています。

目次

 

 

アポトーシス経路(Apoptotic pathways)

アポトーシスは、「内因性経路(Intrinsic pathway)」と「外因性経路(Extrinsic pathway)」として知られる2種類の異なるシグナル伝達経路を介して進行し、両経路は最終的にタンパク質分解酵素である「カスパーゼ(caspase)」を活性化します。内因性経路は、DNA損傷、低酸素状態、がん関連遺伝子等の様々な要因による重度の細胞傷害やストレスに応答して活性化され、ミトコンドリア外膜透過化(MOMP:Mitochondrial outer membrane permeabilization)が亢進し、結果としてミトコンドリア内のアポトーシス誘導因子が放出します。外因性経路は、腫瘍壊死因子(TNF:Tumor necrosis factor)受容体ファミリーのような細胞表面のデスレセプター(Death receptor)類に、それぞれのリガンドが結合することにより活性化されて開始します。

アポトーシス経路

 

 

関連製品
DR5 FLIP  TRADD
FADD RIPK1 TRAF2
FAS TNFR1 TRAIL 

 

FAS抗体を使用したパラフィン包埋ヒト前立腺がん組織の免疫組織化学染色
FAS抗体(カタログ番号:13098-1-AP、希釈倍率1:50)を使用した、パラフィン包埋ヒト前立腺がん組織の免疫組織化学(IHC:Immunohistochemistry)染色(40倍レンズを使用)。

 

CoraLite® Plus 488 TNFR1抗体を使用した4%PFA固定ヒト肝臓がん組織の免疫蛍光染色
CoraLite® Plus 488 TNFR1抗体(カタログ番号:CL488-60192、クローン番号:2A6E3、希釈倍率1:200)を使用した、ヒト肝臓がん組織(4% PFA固定)の免疫蛍光染色。

 

Bcl-2ファミリー

Bcl-2ファミリーは、ミトコンドリアを介した内因性アポトーシス経路の制御において極めて重要な役割を果たす、構造的に関連のあるタンパク質群で構成されます。Bcl-2ファミリーのタンパク質は1か所または複数の保存された配列相同領域(Bcl-2相同ドメイン、Bcl-2 homology(BH)domain)の存在を特徴とし、アポトーシスを促進する能力を有するか、あるいは阻害する能力を有するかによって、「アポトーシス促進性(pro-apoptotic)」または「抗アポトーシス性(anti-apoptotic)」のいずれかに分類されます。アポトーシス促進性Bcl-2群は、さらに「ポア(細孔)形成タンパク質(pore-forming proteins)」または相同ドメインとして単一のBH3モチーフのみを有する「BH3-onlyタンパク質(BH3-only proteins)」に分類されます。BH3-onlyタンパク質は、抗アポトーシス性Bcl-2群に結合して阻害・不活性化する働きか、ポア形成タンパク質に結合して活性化する働きのいずれかの機能を有します。BH3-onlyタンパク質によって活性化されると、ポア形成タンパク質は一連の構造変化によってホモオリゴマー(多量体)化に伴うミトコンドリア外膜透過化(MOMP)を引き起こし、その結果、ミトコンドリアのアポトーシス誘導因子が放出します。一方、抗アポトーシス性Bcl-2群は、BH3-onlyタンパク質やポア形成タンパク質と結合してそれぞれのタンパク質を「隔離」することでアポトーシスを阻害します。

 

関連製品
BAD Bcl-XL MCL1
BAX BID PUMA
BCL2 BIM  

 

BAD抗体を使用したパラフィン包埋ヒト悪性リンパ腫組織スライドの免疫組織化学染色
BAD抗体(カタログ番号:10435-1-AP、希釈倍率1:200)を使用した、パラフィン包埋ヒト悪性リンパ腫組織スライドの免疫組織化学染色(10倍レンズを使用)。

 

HeLa細胞の細胞内フローサイトメトリー(CoraLite®488標識BAX抗体、マウスIgG2bアイソタイプコントロール抗体)
HeLa細胞の細胞内フローサイトメトリー(FC:Flow cytometry)解析。赤:CoraLite®488標識BAX抗体(カタログ番号:CL488-60267、クローン番号:4G5E8)、青:マウスIgG2bアイソタイプコントロール抗体(カタログ番号:CL488-66360-3、クローン番号:11B8C4)。

 

カスパーゼ

カスパーゼとは、アポトーシスの際にタンパク質分解カスケードの開始と実行の中心的な役割を担うセリンプロテアーゼの一群です。カスパーゼは、アポトーシスにおける役割によって、カスパーゼ2、8、9、10等のイニシエーターカスパーゼ(initiator caspase、誘導型カスパーゼ)、カスパーゼ3、6、7等のエフェクターカスパーゼ(effector caspase、executioner caspase、実行型カスパーゼ)に分類されます。イニシエーターカスパーゼはエフェクターカスパーゼを切断し活性化します。一方、エフェクターカスパーゼは標的となる細胞タンパク質を切断し、アポトーシスのプログラムを完了させます。カスパーゼ1、4、5、11、12等の何種類かのカスパーゼは炎症を制御することで知られています。カスパーゼ14は、アポトーシスや炎症には関与しませんが、皮膚細胞の発生において重要な役割を果たします。

 

 

関連製品
Caspase 1 Caspase 6  Caspase 9 
Caspase 2 Caspase 7  Caspase 10
Caspase 3 Caspase 8  Caspase 12
Caspase 4    

 

Caspase 3抗体を使用したJurkat細胞のウェスタンブロット
Caspase 3抗体(カタログ番号:19677-1-AP、希釈倍率1:500)を使用した、Jurkat細胞のウェスタンブロット。0h:未処理細胞。1~6h:スタウロスポリン(staurosporine)処理細胞。

 

Caspase 8抗体を使用したパラフィン包埋ヒト結腸組織の免疫組織化学染色
Caspase 8抗体(カタログ番号:13423-1-AP、希釈倍率1:50)を使用した、パラフィン包埋ヒト結腸組織の免疫組織化学染色(40倍レンズを使用)。

 

アポトーシスにおけるミトコンドリアの役割

ミトコンドリアは、アポトーシス促進性Bcl-2ファミリータンパク質内のポア形成タンパク質に分類されるBAXやBAKの活性化に応答してミトコンドリア外膜透過化(MOMP)を開始することで、アポトーシスの制御に極めて重要な役割を果たします。ミトコンドリア外膜透過化(MOMP)が亢進すると、ミトコンドリアの膜間腔からシトクロムc等の可溶性タンパク質が細胞質中に放出され、結果としてアポトーシス性カスパーゼカスケードが活性化します。ミトコンドリア外膜透過化(MOMP)の亢進とシトクロムcの放出時、ミトコンドリアはミトコンドリア分裂として知られる、大規模な断片化を受けます。正常な細胞ではミトコンドリアの分裂と融合のバランスが維持されていますが、一方で過剰なミトコンドリア分裂はアポトーシス性細胞死に不可欠な事象です。そのため、ミトコンドリア分裂機構はアポトーシスの誘導に能動的に関与していることが論文等によって示されています。

 

関連製品
Cytochrome C  DRP1 OPA1
AIF FIS1 MFN1
DIABLO MFF MFN2
Endonuclease G MID49 COXIV
HTRA2 MID51 VDAC1

 

 

Cytochrome c抗体およびCoraLite®488標識AffiniPureヤギ抗ウサギIgGを使用したマウス眼組織の免疫蛍光染色
Cytochrome c抗体(カタログ番号:10993-1-AP、希釈倍率1:200)、CoraLite®488標識AffiniPureヤギ抗ウサギIgG(H+L)抗体を使用した、マウス眼組織の免疫蛍光染色。

 

COXIV抗体およびAlexa Fluor 488標識AffiniPureヤギ抗ウサギIgGを使用したHepG2細胞の免疫蛍光染色
COXIV抗体(カタログ番号:11242-1-AP、希釈倍率1:50)、Alexa Fluor 488標識AffiniPureヤギ抗ウサギIgG(H+L)抗体を使用した、HepG2細胞の免疫蛍光染色。

 

アポトーシスの検出・計測

活性型カスパーゼの検出は、アポトーシスを研究するための一般的な手法です。その他にも数通りのアッセイを採用してアポトーシスを定量化することができます。例えば、TUNEL(TdT-mediated dUTP nick end labeling)法は、断片化を受けたDNAの3’-OH末端に蛍光色素標識dUTPを付加させることでアポトーシス細胞中の断片化DNAを検出するアポトーシスアッセイであり、幅広く用いられています。蛍光標識dUTPを付加させたDNA断片は、フローサイトメーターを使用して定量することもできます。TUNEL法の主な利点は、放射線・紫外線等の照射や薬剤処理を原因としたDNA鎖の崩壊が生じている細胞やネクローシス(壊死)を起こした細胞ではなく、アポトーシスが生じた細胞を選択的に検出できるという点です。
Annexin V(アネキシンV)/プロピジウムヨウ化物(PI:propidium iodide)による二重標識法もアポトーシス研究に広く用いられている手法です。Annexin VとPIを用いる方法もアポトーシス細胞とネクローシス細胞を区別します。アポトーシス発生の初期段階では、通常は細胞膜の脂質二重層内側に存在するホスファチジルセリン(PS:phosphatidylserine)が、細胞外に接する細胞膜表面へ露出します。Annexin Vは、ホスファチジルセリンと結合する特性を有するため、アポトーシス初期の細胞を染色・検出します。一方、PIはDNAの二重らせんにインターカレーションするDNA結合色素であり、細胞膜の完全性が失われた細胞の核を染色します。そのため、PIはアポトーシス後期段階にある細胞とネクローシス細胞を検出します。

CoraLite®488-Annexin V and PI Apoptosis Kitを使用したJurkat細胞のフローサイトメトリー(cell population解析、SSC/FSC)

CoraLite® Plus 488-Annexin V and PI Apoptosis Kit(カタログ番号:PF00005)を使用して染色した、スタウロスポリン(staurosporine)処理Jurkat細胞のフローサイトメトリー解析。X軸:CL488標識Annexin V(グラフではFITC-A)、Y軸:PI(グラフではPE-A)の散布図。
散布図中の各領域に存在する陽性染色細胞は、次のように解釈します。

  • Q1-UL(CL488-Annexin V)-/PI+:主にネクローシス細胞(わずかにアポトーシス後期細胞が存在する場合があります)
  • Q1-UR(CL488-Annexin V)+/PI+:アポトーシス後期細胞
  • Q1-LR(CL488-Annexin V)+/PI-:アポトーシス初期細胞
  • Q1-LL(CL488-Annexin V)-/PI-:生細胞

 

関連製品

CoraLite®488 TUNEL Assay Apoptosis Detection Kit (green)(カタログ番号:PF00006
CoraLite®594 TUNEL Assay Apoptosis Detection Kit(カタログ番号:PF00009
CoraLite®488-Annexin V and PI Apoptosis Kit(カタログ番号:PF00005
Viability/Cytotoxicity Assay Kit for Animal Live & Dead Cells (Calcein AM, EthD-1 Method)(カタログ番号:PF00008
Viability/Cytotoxicity Assay Kit for Animal Live & Dead Cells (Calcein AM, PI Method)(カタログ番号:PF00007